第5話 初めての休日
「お嬢様〜、朝ですよ〜。」
(うーん、アオちゃんの声だ。)
「んー。起きたわ。もう大丈夫だから下降りてて。」
藤白は起き上がるとまだ視界の悪い目を擦ってピントを合わせると姿見を覗く。
「ひどい寝癖。」
ーーーーーーーーーーー
共同生活から4日が経ち、初めての休日。
「おはよう。」
「おはようございます。」
藤白は少し寝ぼけながら食事の用意された席に着く。
(今日は和食だ。美味しそ〜。)
「いただきます。」
藤白が食べ始めると、金丸も続いて食べ始める。
(ん、このシャケ美味しい。)
重たそうなまぶたを少し上げる藤白を見て、金丸はホッと一息つく。
「あ、そういえば、今日は休日だけれどあなたは遊ぶ予定とかあるの?」
金丸は驚いた表情を見せる。
「い、いえ、無いです。というか、休日に出かけてもいいのですか?」
「私もそこまで鬼じゃないわよ。きちんと報告してくれれば構わないわよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「お、大袈裟よ。」
(喜んでるアオちゃん、カワイイ。)
「でも、今日は家にいようと思います。食材は昨日買っておいたので買い出しも行きません。」
共同生活開始から4日が経ち、主人も下僕もこの生活に慣れてきた。特に下僕の順応性はすごかった。
たった4日間で炊事、掃除、洗濯を無駄なくこなし、ちょくちょく来る主人のお願いにも迅速に対応している。
「そう。分かったわ。私も今日は一日家にいるから、何かあったらお願いするわ。」
会話が終わるとそれから2人は一言も話さず、黙々と朝食を食べた。
食事を終えると藤白はリビングのソファに腰掛け、テレビを見始める。
(土曜日の朝って面白いテレビやってないのよね〜。)
藤白は退屈そうに1時間ほどテレビを眺めていると、今度は忙しそうに働く金丸の姿に目を向けた。
金丸は食事の後、洗濯機のスイッチを押すとその間にお風呂の掃除を済ませ、乾燥機まで終わらせるとベランダに干しに行く。この間、少しの無駄もない。風呂は隅々まで磨き、ハンガーは襟が緩まないように服の下から通す。小学校から培った家事スキルは相当なもののようだ。
(ほんとに手際が良いわね。前のお手伝いさんより手際が良いかも。)
「そういえば、お嬢様ってプリンセス・プラチナムの社長さんなんですよね?仕事大丈夫なんですか?」
洗濯物片手に金丸は訪ねる。
「私、業務は基本的に秘書に任せてるの。私が出社するのは重要な会議がある時くらい。デザイン案に目を通すのはタブレットでできるから。」
「そうなんですね。」
聞き終えると再び沈黙へ。お互い生活に慣れても会話のネタは浮かばないようだ。
ーーーーーーーーーーー
「お昼ご飯何がいいですか。」
「何でもいいわよ。任せるわ。」
(アオちゃんのご飯どれも美味しいから、何でもいいのよね。)
「分かりました。じゃあオムライスにしますね。」
ティリリンリンリンリンリンリンリン♪
金丸の電話が鳴る。
「もしりシャス〜。どうしたんだ?珍しいな、お前からかけてくるなんて。」
(うわ〜。すごい独特なあいさつ…。)
「え?!今俺ん家にいる!?あ、いやいや、今出かけてるからだよ。てか来るなら一言言えって。え、家の前で待ってる?1時間はかかるぞ?分かったよ。じゃあ1時間待っててくれ。」
「あの、黒川がうちに来てるみたいで…。ちょっと行ってきます。夕方には戻ってくるので。あ、お昼は自分でお願いします。料理できますよね?じゃあ、行ってきます。」
「え、ええ。行ってらっしゃい。」
金丸は財布とスマホを手に取ると急いで部屋を飛び出していった。
ーーーーーーーーーーー
「本日ご紹介する料理はこちら!藤白姫花特製オムライスです。材料はこちらになります。そしてこちらが完成したものになりまーす!」
…………。
「……はぁ。ユーバーイーツにしようかな。」
藤城姫花は料理が壊滅的に下手だ。苦手、とかで片付けていいものではない。表現するなら壊滅的、もしくは絶望的、この2つ以外に限られる。
彼女が調理をすると食材が黒とも白とも取れる、よく分からない物体に変化を遂げる。彼女が母親に料理を振る舞った際、料理を口にした母親は娘の料理をこう表現している。「この世の絶望を詰め込んだ何か。」と。
ーー料理できますよね?
藤白の脳内に金丸の言葉がよぎる。
ーーえ、できないんですか?俺、料理できない女は恋愛対象外です。さようなら。
脳内再生では言ってないことまで付け加えられた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「えぇ!できますとも!やってみせますとも!オムライスくらい簡単よ!絶対に作って見せるわ!だからアオちゃん、、見捨てないで〜!!」
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