ぎこちない暮らし
「ハア」と小さく吐息を漏らすと、裕君は私が着ているボーダーのロングTを脱がす。私も彼のTシャツを脱がし、もう一度抱き付き、鎖骨にキスをする。私達は抱き締め合い、キスしながら、私の寝室に移動する。
私を下にして、絡み合いながらベッドに倒れ込む。もう一度、熱い口づけを交わしていると、裕君の手がキャミソールの中に滑り込み胸を揉みしだいた。彼の指が先端を優しくつまむと「んっ」と声が漏れた。
「裕君……」
「友里……」
裕君が仰向けで横たわる私のキャミソールを脱がし、胸元にキスをする。
私の手が彼のボクサーパンツの膨らみに伸びる。
「……」
その手が膨らみに触れた瞬間、二人の動きが止まる。その膨らみには硬さが無く、熱を感じなかった。
裕君は私の横に仰向けに寝転んだ。
「ごめんね……私の所為だね……」
私は彼の胸に覆い被さるように、顔をうずめる。私の涙が彼の胸に落ちる。
裕君は黙って私を抱き締めてくれた。
「裕君、大好きよ……」
私も裕君を抱き締める。
「俺も友里が大好きだ……でも、苦しいんだよ……浮気した友里の気持ちが分からず、苦しいんだよ……」
私は抱き締めている腕に力を込める。
「今の友里を責めたくない。記憶が戻るまでは、浮気の話は保留にしよう」
「もし、私の記憶が戻らなかったら?」
もしそうなら、このまま裕君を苦しめ続けてしまう。その時は理由を話すべきなんだろうか……。
「きっと戻るよ。その時、友里と本音で話し合い、元の関係に戻りたいんだ」
裕君は変わらず優しい。どうしてこんな彼を裏切ったんだろう。
「苦しめて、ごめんね……」
裕君は私の頭を優しく撫でてくれた。
土日は裕君が仕事だったので、私は家で掃除を頑張った。少しでも家で快適に過ごして欲しくて、それが解決につながるかは分からないが、何かしていないと落ち着かなかった。
二日間とも夕飯は裕君の大好物を用意した。彼は喜んで食べてくれて、私も嬉しそうに応えたが、白々しさは隠しきれない。おそらくは裕君も同じように感じているだろう。
私達は演技している。二人の間にどうしようもない壁が有ると分かっていて、それでも何も無い振りをしている。幸せな夫婦の演技をしている。他人から見れば馬鹿らしい演技に見えるかも知れない。でも、私達は夫婦としての関係を壊したくはないのだ。
どちらの日も夜はお互いの寝室で眠った。セックス無しでも裕君の体温を感じていたかったが、それで彼を傷つけてしまうのなら我慢するしかなかった。
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