よんーはち 加えられた星

 わたしたちは全て奪われた。

 ただ役目を果たそうと、鳥たちから声を聴き、この星の流れを留まらないよう変えていた。

 けれども、それはおかしいと云う。わたしたちは加えられた星であり、影の炉と眼玉。流れすら見えなかったあの灰色の砂漠より模倣された鳥が入り込んで離宮は乗っ取られた。雲が刃となって降り刺さり、灰色の砂漠は喜ぶ。

 ほんの一瞬だけ。なぜなら常に渇いているからそれは満たされず、そこに流れは生まれないのだ。

 だから不思議だった。そこから一羽飛び立ち、影の提案をぶら下げてわたしたちの下へやって来た時、その声はまったく聴こえない。それは文字だから。

 けれど、わたしたちは文字が読めない。鳥の声はそんな力が加えられたものとは違うから、そうした〈流れのないもの〉は捉える必要がなかったから。

 それは〈けいやく〉で、わたしたちは受け入れるはずはない。

 だから、そのままにしておいても、何にも問題はない。そう判断したのだ。


 風向きが変わったのは、その影の鳥が口を聞いたからだった。

「ただ、加えられただけでずっとこのままでいいのでしょう? いいのでしょう?」

 聴くところによれば、わたしたち以外皆眠りこけて、役目を果たしていないと喧伝する。

「実際に見たのですよ! この毛を見なさい」

 わたしたちはその恐ろしい毛が怒り狂うのを見て〈地を統べる獣〉が何もしていないことを知った。

 あの獣に意識が有れば、こんなちっぽけな影の鳥は鼻息一つでかき消える。それをわたしはよく知っている。

 なぜなら、とは幾たびも戦った。長い長い戦争の中で、多くの同胞の血が流された。

 そして、その地がやがて灰色の砂漠へと変貌したあとでわたしたちは停戦したのだ。大地が渇いてしまったから、その砂はわたしも彼の血で元の大地へ戻したはずだった。

 しかしそれはしぶとく残り、そろそろ彼と儀式を執り行う計画があったのだ。その根源にあるものが、星の根に悪い影響を与えていたから、消し去ってしまおうと話をしていた。

 そろそろ話を実行に移す時、そう思っていた頃に代わりにやってきたのは影の鳥で、それは灰色の砂漠の使者。つまり、獣はそれによって微睡に落ちた。

「分かったでしょう、望みは全て。それ以外にないのです」

 そう言った鳥は獣の一部分をわたしたちに見せつけて、人間のような笑い方をした。

 わたしたちがかつて争いの中で血を流させてしまった人間たちと同じで、それには裏があり、その裏側は影に隠れて見えなくなっている。


 それは脅しだ。

 わたしたちが全く敵わず、手を出せば蹂躙される。それが分かった。

 あの灰色の砂漠が、そこまでの力を持つのを、わたしたちは考えられなかった。軽視していた。あの人間の血と、わたしたちの戦いの熱と、そこから生まれた不毛が、ただ渇くだけのものが、力を持つなど。

 しかしそれは現実に起きていて、わたしが声を聴く鳥たちの少なくない数が、影の鳥によって責め立てられ、ここに加えられた星の役割としてこの世界を回すことが、ひとつに滞留させずに流れを産むことが出来なくなりつつある。

 全ての鳥たちの帰りつく場所である、草白色の離宮から、わたしに近い鳥たちが追いやられたのはつい最近のことだ。

「ほうら、実際に起きたでしょう! これは熾りで、ただ加えられただけのものが、理由もなく、かき混ぜ、かき混ぜ、いいのでしょう? いいのでしょう?」

 影の鳥は増々力を持ち、わたしたちに詰め寄る。

 その羽は広く大きく、空を覆うほどに。

 その嘴は固く赤熱し、わたしたちを焼かんとする。

 わたしたちは元居た場所<星々の声の寝床>を追いやられた。奪われた。鳥たちの声はか細く、この世界に、星に滞留が増えていく。

 恐ろしいことだ。わたしたちの役割が成されなければ、人間たち、動物たち、この大地、この空、天の星々、それぞれがもつ機能が徐々に変化してしまう。

 その変化は決して良いものではない。流れなくなるのだから、そこに点が生まれ、その極点に至るがこの世界に生じる。

 ただ、そこにあるだけで、それを成すもの。

 その点は最初から最後まで、全てを見据え、ただそれだけ。

 滞留させてはならない。加えられた星は、いびつで、不安定で、ままならないものだから、わたしたちは鳥の声、星々からの音を聴き、この星の流れを創るもの。

 同様に、も大地から、獣たちの足音、牙、血を知り、この星の流れを産むものとしてあった。

 それらが<灰色の砂漠渇きの海>によって、阻まれる。

 なぜなら。その流れを産むために流された血がわたしたちが流してしまった血が、渇く。それは大地を変性させ、そうした砂漠を生じさせることを見て見ぬふりをしたから。

 与えられた星として、役割を全うしようとし過ぎたから。

 滞留が生じ続け、その悲しみを鳥の声として聴くのを、星々から受け取るのを避けようとしたから。

 役割は役割。それもただそこにある。

 点は、点として、天には至らないのだから、わたしたちも流れていなければいけなかった。

 それが出来ていなかったから、こうして、かつての場所を奪われ、逃げ続けなければならなくなった。


「見てご覧なさい! あなたたちが驕ったためにこうなった! 我々が渇くのも、影が羽根を広げるのも! その血によってである!」

 わたしたちは、その暴力的な影の鳥に見つからぬよう、星々の陰に姿を紛れさせ、その悪辣な声を聴かぬよう、再び星を取り戻さなければならない。

 与えられた星として、鳥たちの声を聴くものとして。


 世界に現れた人形は、わたしたちが聴く声に、よく似た音を発している。

 そこでようやく気付いたのだ。

 滞留とは、あってはならないものではなく、

 その一時的な留まりが新たな流れを産み、そしてまたそこからわたしたちの声が生まれるということに。

 わたしたちは全てを奪われたが、全てが聴こえなくなったわけではないのだ。

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