よんーいち 傀儡の枝

 枯れ果てた南の地で一つの枝となった。

 追われたのは思い込みと妄想のせいだ。かつて全てを淫蕩と酩酊の坩堝へ落とし込んだ王は追い落とされ、そこから我等の風向きが悪くなった。

 新たな王はまた八歳だ。男と女、そうなる前の者たちの中で、そうなる前の者が選ばれる。

 かつて三番目の妃であった女が産んだ子だ。六度の死産の後に産まれた為に、その子供には死が纏わりつくと忌み嫌われた。

 しかし、その死によって消えたのは、王とその妃どもと、淫乱、淫蕩の極みに至った者たちだ。

 そして、我等。

 傀儡がこの国を操っている。不当な立場から、その技法、隠匿の傀儡術を明らかにせよ。さもなくば、全てを火刑に処す。

 または、直ちに国外退去するのであれば、寛大な御心はその行動を全て感知しない。

 と、多くの兵士が小さな集落を取り囲んでいた。

 謂れのない罪状の数々があり、この土地を去る以外にない。

 我等は全て持てるものもなく、ただ殺されずに集落を出た。

 そして、休むことも許されず、延々と南を目指さなければならなかった。

 

 途中、幾人もの仲間が倒れ、動けなくなれば無理矢理立たされ、それは命を失うまで続けられた。

 それで。

 それで多くの同胞は彼の地に倒れ、我等は全て枯れ果てた南の土地に追いやられた。

 そこには枯れたものしかなく、まったく生の息吹を感じられない。病んだ風が吹く。

 病んだ風は体を痛ませ、我等はあなぐらでの生活を余儀なくされた。

 土の中で生きるものたち。それが我等の食事となった。

 全ての技は頭の中にあるが、全ての道具はあの国に残されたまま、新たな傀儡を作る必要がある。

 不当な追放には、正当な暴力が振われる。


 我等は決して約束を違えてはいない。傀儡はもうほとんど儀式的な意味しか持たず、かつての暴虐、血で血を洗うあの悪夢の時代は終わったのだ。

 それで。

 それをやり直すべきと、半傀儡化した老人たちが怒りに任せ唾を飛ばす。我等はそれを黙って受けている。

 なぜなら、傀儡化に至る暴力性は彼らの自我を変えてしまったから。それが本心と違っているのを感じる。

 ただ、間違いだけは正されなければ。

 それだけが我等の望みだろう。

 枝を探さねばならない。

 この枯れた地で、枝を探さなければならない。それが砂漠の中に紛れた砂金をさらううことに等しいとしても、やり遂げなければならない。

 

 我等は枝を探す為、生の失われた土地を彷徨った。

 我等の老人は盛んに暴力を求めていたが、我等はその先を見ている。

 

 そこで、常に付き従う女が病んだ風にやられて、倒れてしまった。

――もう、もはや、傀儡にでも……っ!

 病んだ風にやられたものは、貪婪に苛まれ、この乾いた大地永久に彷徨うとされている。我も、付き従う女も、とうに病んでいる。

 だからやり遂げなければならない。

 この女を傀儡化し、我は枝を探した。


 傀儡化された女は、かつての明るさを無くし、生あるものを知る目だけを持つ。

 十日。歩き通した。

 我等も、半傀儡化した老人たちと同じように、ただ一点にのみ存在意義を背負っていた。

 正しさを証明しなければならない。

 あの無知蒙昧で妄想狂の王を引きずり下ろし、正しきをやり遂げなければならない。

 我々がもうほとんど、この大地の一部のようになった時。


 その時に、枝を見付けた。

 銀色にまたたき、今にも枯れ落ちそうな木の枝を見た時、我は思う。

――ああ、この生は‥‥。

 窖には子供たちと、傀儡の術を伝承するべく、叔父たちが尽力している。

 我は、我らは、ほとんどが傀儡化を避けられなかった。

 もはや、我以外全て、そのようになってしまった。


 銀色の枝にまとわりつき、最期の傀儡の儀を、傀儡化の術を行う。

 この死の大地の中で、この儀式を知る者はいない。

 

 だから。

 我は枝となり、私はその傀儡の望みを叶えようと考えた。

 あの幼き王が、戯れに、欺かれ、あの女たちの群れにやられているのだとしても。

 あの男たちが幼きものを、強固にその場に留めるのだとしても。

 それら全てに正しきを突きつけ、それにより地平を迎えなければならない。


 傀儡の枝とは

 この世界に平伏した

 人間たちを地に張り付けるものとして

 

 南に位置する死の大地より

 これより追い落とされる王たちの輪廻

 枝は王となり、今でも王には枝がある


 しかし。傀儡師たちは、

 窖から、出て来ることはない。

 彼らもまた正しきに平伏したのだ。

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