さんーなな カサカサしているから。

 立派に生きたんですね。

 街の中で、森の中で、人の中を歩き回り、振動していく。

 その震えの中でわたしは剥がれ、殴られ、そしてまたやって来る。


――潰してみろ。潰してみろ。

 何度も繰り返された。潰せるものと都市は判断したのだ。

 けれど潰されることはない。

 その脳がわたしに敵うはずがないのだ。意味もなく、理由もなく、ただ存在するわたしに、都市は苦しむ。その器官は彼らに存在しないから、脳はそれが分からないから、わたしは声を上げる。

 

 ふと、花火が爆ぜる。

 脳が千年生き抜いた祝いに、わたしはそれを呪いに。

 空からカラフルな液体を入れた瓶を投げ入れる。誰かに当たることもないし、それは見えることが無い。

 消されてしまうから、それを全くダメにする活動は慎重にやらなければいけない。


 仲間は多い。

 あの狂信者たちはずうっと視線を向けている。

 無意味な物体と火と、それらを隠し続ける機能と掃除する機械と、それを少しいじればきれいな場所だけを掃除する機械が現れる。


 立派に生きた。というのは妄想だと思う。

 理性じゃない、頭じゃない。理論と論理と決めつけた全ての物事には意味があり、この石も、カラフルな液体も、わたしにもその名札が付いていた。


――本当に、我慢ならないな。

 

 名札を引きちぎれ、こんな都市から消えてしまおう。

 わたしたちは「死者」だ。生きながらに死ぬことを選んだ者たち。けれどもそれは脳にとっての死、わたしたちはその外側で生きているから。


 都市の入り口の大きな開口部をカラフルに装飾してやった。

 狂信者たちは内部の機械に悪戯を、入り口には装飾を。そしてやってくる治安維持部隊。突撃銃を持ち、放たれる弾丸は全て非殺傷の麻酔弾。


 狂信者たちはそれに破れ、眠り、そしてまた再生産の坩堝へと落とし込まれる。悲しくはない。リソースを使い果たしてやれ。狂信者もわたしたちもそれ以上に存在する。

 ただ、存在しないと見ないフリをしているだけの脳へ、都市へ、意味と生産と消費とそれらをつかさどる悪魔象を破壊せよ。


――潰してみろ、潰してみろ。

 そう喧伝するは都市の管理者たち。ここが無限にあり、永遠に生え揃い続ける輪を続けられると蒙昧の徒党、世界を救えよと喧伝し続ける。

 潰してみろ、冗談じゃない。

 やってみろ、そんなこと出来るものか、ここは脳が作り上げた世界。

 

 激しい戦闘があった。

 わたしは狂信者を数多く失い、わたしたちも少なくなった。

 わたしたちは意味と戦わなければならない。わたしたちは理由と戦わねばならない。

 都市を破壊しようとすればするほど、脳に近づく。

 無数の爆薬、無数の炎、無数の突撃銃、弾丸は都市で生産しているから、都市の外側に脳が生じる。わたしたちはそれに耐えられるだろうか。


――ぶちまけろ、ぶちまけろ、あのレアメタルを、輸送管を!


 都市の外では長く生きられない。それは頭蓋骨が無いから、髄液が降り注ぎ、わたしたちは常に崩れ続ける。

 頭蓋骨を破壊する為、輸送管を破壊した。

 あの子の犠牲によって。わたしたちは脳に衝撃を与える。

 

 常に手元に突撃銃と手りゅう弾がある。

 わたしは目が良いから、遠くから監視を無力化出来る。けれども、その目の範囲はとても狭かった。

 破裂した輸送管の傍らにあの子の肉片が落ちていた。赤黒いなにかの固まりはゼリー状になっていた。肉のようだったから、きっとあの子だ。

 輸送管の中からはサラサラとした砂が流れ、表面が静かに燃えていた。

 燃焼は管の先へ先へと続く。恐らく都市はこれで機能の一つを停止させるだろう。機械が無ければ、生産もない。生産も無ければ、これ以上意味は、理由は生まれない。


――安直だよ。こんな破壊で、第二の脳を手に入れてさ。

――大丈夫。まだ癒着は進んでいないから。


 わたしたちの中の人形師たちが心配している。

 けれども、やらなくちゃいけない。

 脳がわたしに敵うはずがない。都市が押し付けるものにわたしは屈するわけには行かない。

 遠くで爆撃の音がする。

 

 狂信者は炎を奪い、空から頭蓋骨を破壊しようと爆撃する。

 骨董品の複葉機で、カラフルな爆弾を空から降らせる。


 脳が千年生きた祝いに、花火が上がる。

 それは外側へは決して到達せず、都市の内側だけが祝いに満ちる。

 だから、外側から叩かないといけない。


――わたしは、脳の外側にいられるだろうか。


 戦いに意味を見出していた。

 戦いに理由を紐づけていた。

 不意に銃を空に向けてトリガーを引く。危険かどうかなんて、構うものか。


――潰してみろ、潰してみろ。


 何度も繰り返している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る