さんーろく 朝のまぼろし

 行く先々で川が引いていく。

 行く先々の海が引いていく。

 過去のまほろば新たに萌え立つ。

 意識の牢獄と拡張し続ける自然と、人々の生活が行く先々に集約されている。


 朝の火入れ、朝の洗濯、朝の水汲み。

 そして、狩り。


 行く先々で川は枯れていく。

 行く先々の湖が枯れていく。

 過去のひとびと新たに旅立つ。

 共同の牢獄と拡散し続ける生命と、人々はそれ無しで方々で固まらない。


 朝のいななき、朝の洗礼、朝の針仕事。

 そして、叫び。


 行く先々で地は荒れていく。

 行く先々の村が消えていく。

 過去のともがら新たに死にゆく。

 旅先の牢獄と隔離され続ける民族と、人々はそれを忘れて全て消えたと云う。


 朝のまぼろし、朝の再開、朝の落ちる涙

 そして、憧憬。


 失ったものは変化したが、それはすぐに消えゆく。

 そして、旅を続けた。全て枯れるから、全て引いていくから。

 泡沫のまぼろし。それは、朝。


 また村から、一人の少年が旅立つ。

 老人はそれを越えて死を迎える。

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