さんーよん しらばっくれ

 とうとうロウソクが尽きてしまった。

 ロウソクの火がないと、何も見ることが出来ない。特別製のロウソクだから、買うことが出来ず、作って貰わなければいけない。

 けれども見えないから、作って貰おうにもそこへ行けない。

 ゆっくりと歩く。すぐに壁にぶつかる。

 地面に落ちてやしないかって、調べてみても埃がまとまるばかり。

――最近多いね、ああいうの。

 声が聞こえた。

 足音が聞こえた。

 聞こえただけで去って行く。


 どうして尽きるまでこうしていたんだろうか。

 ロウソクは心の中で管理しておかないと尽きてしまう。あらかじめ準備するには、診断士を呼び必要な本数を決めてもらう必要があった。

 大抵は500本ほど毎回もらい、ねばつく雨が降る季節を避ける準備をする。その雨は地下へも流れ込み、様々な出口を塞いでしまう。

 その前に、ロウソクを手に入れなければ、雨に呑まれて消えてしまう。

――おい、怠け者がいるぜ。

 声は嘲り。

 足音はこちらに近づき、わたしの腕を軽く蹴飛ばす。

 背中を踏みつけ去って行く。


 誰も管理をしてくれるわけでもない。

 ロウソクは個人の持ち物だから、気にするのは止めよう。

 しっかりとしていないから、診断士を呼べずに世界は閉ざされる。

 じわり。ねばつく雨の気配だけは分かる。それとは何十年も一緒に生きて来たから、見えずともわかる。

 這ったまま、記憶を頼りに無涯の階段に辿り着く。

 かつて底なしとされた場所に架けられた階段。見た目は鉄のように冷たいけれど、弾力がある。

 手をのせれば柔らかな反動が帰ってくる。

――毎年、毎年、誰かしらああなるよな。

 声は他人事。

 足音は穴に近づき、ホースを垂らす。

 底には届かぬ人の塵。


 ねばつく雨を廃棄しに来る業者がポンプを起動させる。

 いつか溢れだすと言われ半世紀が過ぎた。

 まだここから見えないから、誰も気にしない。

 

――また、忘れちまったのかい?

 階段は1キロ以上続く。その先に診断士の家がある。

 ドアを叩けば邪険にせずにロウソクをくれた。


――そこから、カゴに乗っていきなよ。

 ロウソクに火を灯せば、いつもの世界が見えだした。

 錆びてボロボロのカゴと、じわじわと染み出す雨。

 この場所は全てがねばついて、それが嫌でジッとしていた。


 また、ロウソクが尽きるまで、そうしているのだ。

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