とお くぎ
「いたっ」
小さな釘を間違えて指に打ってしまった。
ぷくりと出来るザクロの粒と、あやまち。
音は聞きたくないから、叫んだ。
部屋中に張り巡らした遮音シートがべらべらと剥がれて部屋は崩れた。
しきりに呼びかける人を聞こえないふりして、悲しませたから。
ああ賃貸だから余計に支払いがかさむ
なにも考えずに部屋着に血が付いて、またそれが嫌になって。
趣味にと始めた水槽には小さな淡水エビが潜む。
カラフルですからね、自分の好きな色のを選ぶと良いです。
一式を値段も見ずに買って、世話を始めた。
「ほうら、飲め、のめ」
良くないことをやってしまう悪癖。
それで一時的に自分がよければよい。
水槽の中に漂う血は雲のように霧散して消える。
たぶん大丈夫だ。ポンプもあるし、ほんの少しだから。
なんだか馬鹿馬鹿しく思えてくる。
エビたちの部屋があって、音を減らして、それだけ。
痛みは静かに主張する。
わたしの悪癖と、無駄ばかりが散乱するこの部屋で。
ぶぶぶ、ぶぶぶ。ポンプと水の流れだけがそれを知っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます