とお くぎ

「いたっ」

 小さな釘を間違えて指に打ってしまった。

 ぷくりと出来るザクロの粒と、あやまち。


 音は聞きたくないから、叫んだ。

 部屋中に張り巡らした遮音シートがべらべらと剥がれて部屋は崩れた。

 しきりに呼びかける人を聞こえないふりして、悲しませたから。


 ああ賃貸だから余計に支払いがかさむ

 なにも考えずに部屋着に血が付いて、またそれが嫌になって。

 趣味にと始めた水槽には小さな淡水エビが潜む。


 カラフルですからね、自分の好きな色のを選ぶと良いです。

 一式を値段も見ずに買って、世話を始めた。

「ほうら、飲め、のめ」


 良くないことをやってしまう悪癖。

 それで一時的に自分がよければよい。

 水槽の中に漂う血は雲のように霧散して消える。


 たぶん大丈夫だ。ポンプもあるし、ほんの少しだから。

 なんだか馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 エビたちの部屋があって、音を減らして、それだけ。


 痛みは静かに主張する。

 わたしの悪癖と、無駄ばかりが散乱するこの部屋で。

 ぶぶぶ、ぶぶぶ。ポンプと水の流れだけがそれを知っていた。

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