終焉《しゅうえん》、其の一、二、三

終焉、其の一


 核の山脈の中央、鎮める竜の洞窟に集まった8体の獣神と使い手達。

鎮める竜の扉(大地の竜の扉)を開く為、それぞれが技巧の書を手にした。

 既に大陸のあちこちから集まった、闇雲と化した漆黒の竜に技召の柱で対抗すべく、使い手達は大地の竜の扉を開けなければならない。


 躑躅「さぁ、皆んな。文書をかざして早く大地の竜を起こさねば。」

8体の獣神達も扉の前に集まった。獣神1体がギリギリの横幅の扉だ。


 躑躅「さぁ。全ての使い手達。技巧の書を!其方達が心を一つに大地の竜を目覚めさせるのだ!」

使い手達は、技巧の書を前にかざし、それぞれが願う。

 鎮める竜の扉(大地の竜の扉)が開くと、中は広く、そこには大地の竜が横たわり眠っている。大地の竜に駆け寄る使い手達。

烏羽「大地の竜よ。目覚めたまえ。そして大地の異変を沈めたまえ。」

 使い手達は、鎮める竜を目覚めさせる為に心を一つにした。

茜「お願い、大地の竜。起きて!この世界の異変を鎮めて!」


 使い手達の技巧の書からは、それぞれの技巧色を発して大地の竜を包み込む。

大地の竜「何事か!全ての使い手達がここにおるのか。」

 茜「私は火の使い手。皆を代表してお伝えします。全大陸の異変を鎮め、私達に力をお貸しください。」

大地の竜「火の使い手……。8人の使い手達……なるほど。だから私に通じたのだな。良かろう。外の大地の異変を鎮めよう。」

言うと大地の竜は山の頂に向かい羽ばたいて行った。


 萌黄「茜!あとはここの頂に上がって皆んなの技召で闇雲を宙の果てに吹き飛ばさなければ。」

葡萄「早く獣神に収まって頂に出なきゃ。」

茜「皆んな急ぎましょう。」

全ての使い手がそれぞれの獣神の紋に収まると頂に向かい舞い上がった。


 山の中心を囲む様にそれぞれの獣神と使い手が配置された。

淡藤「まずは円連弾の輪で全ての技召を集め、弾技遠隔で柱を形成する。そのあと、全ての力を込めて更に遠隔。柱を時計回りに回転させる。そして闇雲を巻き込む。巻き込んだらそのままの力を維持して宙の果てに気を送るのだ。始めるぞ!」


 茜は心の中で淡藤の言葉を復唱した。

茜「円連弾で柱を作る。それも弾技遠隔で上空まで。時計回りに気を送って回転させる……この時点で闇雲を巻き込んでいくはず。それから皆んなで遥か宙の果てまで気を送るのね。」

金糸雀「茜さん、火の技召をもっと強く!力が足りてません!」

茜「これ……でも……精一杯の……つもりなの!……うくくっ。」

萌黄「茜!しっかり!皆んなの力に合わせて!」

淡藤「火の者!集中して気を送り続けて!」

烏羽「私は円連弾は使えない。…が遠隔で常に上空へ送り続ける。火の者、頼むぞ!」

葡萄「茜さん!一緒に技召の修練した事を思い出してください!」

瑠璃「いいぞ!柱がまとまってきた!その調子だ火の者!」


 山の火口程の大きさにまで渦巻く様になった柱。だが、まだ火の技巧色が足りてない。

茜「精一杯……やってるのよ!もっと、もっと力を!もっと気を集めて!」

他の使い手の技巧色に追いつきそうな火の技巧色ではあったが……。


 茜「もう……限界か……。くそっ。ならば私なりの力をっ!」

茜は技召の柱に身を投じてしまう。

萌黄「茜!何をっ!」

茜「柱の中で技召する!……皆んなより力が劣るんだもの、こうする他ない!」

金糸雀「茜さ〜〜〜ん!」


 茜が柱に飛び込むのを見た躑躅、躊躇ためらわず柱に飛んでいった。柱の中では茜が火の技巧色を強くして回転している。

躑躅「火の者!我の全ても投じようぞ。さぁ我の背に乗りなさい!」


 躑躅は翼を使い柱の回転に身を任せながら口から火の技巧色を放出させている。

茜「つ、躑躅!あなたまで……。躑躅、これ以上の助けはないわ。ありがとう!」

茜は躑躅の背にまたがる。

躑躅「其方が馬の背で鞭を振るった事を思い出しなさい!さぁ、手をかざして全ての力を!」

茜「分かった。鞭を振るう様にして……。弾技遠隔!円連弾っ!」

躑躅「それで良い。続けなさい。」

茜「円連弾!円連弾!円連弾っ!……。」

山吹「見ろ!獣神が使い手を背に乗せている!」

瑠璃「このままでは我々の技召で傷ついてしまわないのか⁉︎」

烏羽「おおっ!火の技巧色が我々に追いついている!いいぞ。このまま私の柱壁球遠隔でっ!えぁぁぁっ!渦柱盾―――っ!」


 淡藤「闇の者が柱を上げ始めた。息を合わせろ!」

徐々に火口から上がっていく柱。闇雲を巻き込みながら宙へと登る。

柱の技巧色は均等に輝き渦巻いている。

 ようやく柱の下から闇の技巧色である紫色が見えてきた。

烏羽「皆んなの力を更に振り絞ってくれっ!!」

 柱の中では依然として、茜が火の技巧色で包まれながら、回転しながら気を送っている。

茜「はっ!躑躅!……翼が!」

躑躅「我に構うな!問題無い!続けなさい!」


 遂に技召の柱が宙を登っていく。既に辺りは明るく、闇雲は柱に全て巻き込まれている様だ。

鳥羽「さぁ皆んな。私の押し上げるタイミングで皆の気を遥か宙に送るのだ!いくぞーーーっ。ううう、うぉーーーっ!」

 火口の使い手達は天に両の腕を掲げ、その掌からは技巧色が繋がっている。

使い手の技召は継続され、柱がますます上昇の勢いを増した。


 躑躅「大地の竜が役目を終えた。ここに来る!…火の者!大地の竜の力がここに加わる前に急降下する。」

茜「分かったわっ!最後まで……力を注ぐっ!」


 大地の竜は火口から回る様に柱に向かって舞い上がる。

躑躅「火の者!しかとしがみついておれ!」

そう言うと躑躅は急降下を始めた。


 下から大地の竜。一瞬のうちに躑躅と大地の竜がすれ違った。

その勢いの強さで躑躅の翼が引きちぎれ、火口に向かって真っ逆さまに落ちて行った。

一瞬の転落に気付いた萌黄。

萌黄「躑躅、茜!球防壁―――っ!うううんんんっ1番っデッカいヤツーっ!どぅりゃぁ〜〜〜!茜―――死なないでーーーっ!」


 大地の竜は柱の回転を更に早めながら登っていく。遂には小さく見えない程に上り詰めた。


 躑躅は萌黄が火口に作った球防壁に茜と共に転落。そのまま火口の中に落ちて行った。


 空では、大地の竜のシルエットが段々と大きく見えて来る。


 萌黄「錫、紋に収めて!躑躅を追わなきゃ!」

錫「御意!」萌黄は錫の胸の紋に収まり火口に入っていく。

淡藤「皆んなも続けーっ!」

残る6人の使い手も獣神の紋に収まり、錫のあとを追った。


 球防壁は火口周囲を削りながら、落ちていく躑躅を包み込んでいる。

遂には最深部の地面に叩きつけられた。

 躑躅の背から茜も叩きつけられ気絶した。服は切れ切れ、皮のブーツでさえ切れてしまっている。

萌黄の球防壁の効果虚しく、茜は虫の息だった。躑躅は翼の面影が無いくらいの変わり果てた姿になっていた。


 錫が降りてくると紋から萌黄が出てくる。

躑躅と茜に近寄る萌黄。

萌黄「躑躅!躑躅―っ!茜。あーかーねーーーっ!」


 他の獣神も降りて来て、躑躅と茜を囲む。使い手達が紋から出てくる。

そしてまもなく大地の竜も舞い降りた。


 萌黄はまだ躑躅と茜の名を叫んでいる。

淡藤「かなりの衝撃だった様だ。私達も早く気が付いて防御技召を集めればよかった……。」

山吹「早過ぎて見えなかった……。しかも大地の竜とすれ違う事で落下速度が増したのかも知れん。」


 葡萄「茜さん……。」

呟く葡萄、流れる涙を拭おうとはしなかった。

 茜に寄り添う金糸雀。

金糸雀は弱い声で「茜さん……。ううう。」茜の胸に泣き崩れる。


 千切れた幾つかの躑躅の翼がヒラヒラと落ちて来た。

それを見て萌黄まで泣き崩れた。

萌黄「茜―――っ!」





終焉、其の二


 大地の竜「使い手達よ。怒りは鎮まった。もう外は心配無用。」

大地の竜は翼をあおると、使い手達の負傷した傷が一瞬で治癒された。

……が、茜は倒れたまま起き上がらない。


 萌黄と金糸雀はまだ泣き崩れ、自分の傷が癒えたのすら気が付かない。



 萌黄の記憶……。

躑躅「我は其方の獣神躑躅なり。其方の全てを守護する。焦る事はない。無理も必要としていない。」

茜「躑躅、ありがとう。」

思わず躑躅にしがみついてしまう茜。

萌黄「うんうん。うんうん。」

萌黄はホッとした様子だった。


―――――


萌黄「悪党共を消したくないなら、今のうちに衛兵に警戒させれば良いとは思う。」

茜「私的には、悪党を消し去る事より、改心させたいな。」

萌黄「茜は女神様だね。……じゃ、衛兵に報告しよう。」


―――――


萌黄「……火の者よ、……あ、これ錫の真似ね。『火の者よ。其方は風の者の技召を見たいと申すか。よろしい、申し受けよう。』……いいわ。今晩、文書に合わせて少し披露する。」

茜「ありがとう萌黄。いや、師匠!お願いします。……でも……錫の真似は似てない気がする……。」

萌黄「えー、似てると思ったんだけどなぁ……。」


―――――


茜「萌黄は盛り上げ上手だなー。なんか今までの緊張が一気にほぐれた感じで、心の中がフワフワする。」

萌黄「フ、フワフワ?……」


―――――


萌黄の神通力「茜に会ってから、使い手なるも食事をしても良いのではないかと感じています躑躅。」

躑躅の神通力「我が従えた使い手の全てが男性。女性を選ばれしは我の試練なのか?」

茜「違うわ躑躅。萌黄がそうしたいだけ。あなた方の紋に収まっているだけでも癒えるのは分かる。でも時々誰かと食事の時間を持ちたいの。もちろん、怪我も空腹も癒えるでしょうけれど、心の中の少しの隙間を癒す為なの。試練なんて思わないで。」



 金糸雀の記憶……。

金糸雀「ランチ〜?うわぁ、一緒に食事したかったですぅ。しばらく食事なんてしてなかったので。」

萌黄「それなら茜の修練には金糸雀も来るべきね。茜の故郷のラムチョップは美味しかったわー。」

茜「力を授かった後には、故郷の街を拠点にしようと思って。金糸雀にも術の修練のお手合わせをお願いしたいところね。」


―――――


茜「す、すごーい!気の球に言葉を詰める事が出来るなんて。なんて可愛いのー。金糸雀、それ教わりたいっ。」

萌黄「なるほど気の球に言葉をねー。ってそれ教わってどうすんのよ茜!」

茜「機会が有ったら子供達に見せたいなって思っちゃって。」


―――――



 ……。……。

 大地の竜「風の者、光の者よ。火の者はまだ息が有る。さぁ、少し離れなさい。使い手達はもう元の地に戻るが良い。これからも文書の使命に生きよ。」


 萌黄「大地の竜様、このまま側に居させてください。」

金糸雀「私も同じです。側に居ます。」

錫と籐黄も側で見守っていた。


 そんな会話を横目に、5人の使い手は獣神の紋に収まり舞い上がって行った。

大地の竜「まあ良い。そこに居なさい。」


 大地の竜は両の翼で茜を抱え上げると、茜の技巧色で包み込んだ。

茜の傷はみるみる癒えている。茜の胸に収めていた技巧の書の紋が技巧色を纏って輝き出した。

大地の竜は躑躅の横に優しく茜を下ろすと、萌黄と金糸雀に言った。

大地の竜「火の者。この者は選ばれし者として相応しいと認める。もう傷は癒えたはずだ。風の者、光の者よ。火の者が目覚めた時、火の技巧の書をアークの紋にかざす様に伝えなさい。さすれば獣神躑躅はアークによってよみがえる。……さて、私は少し疲れた。羽を休めるとする。」

そう言って大地の竜は奥に下がり、中央で身体を丸め眠りについた。




終焉、其の三


 しばらく萌黄と金糸雀は茜に寄り添い泣き続けていた。

やがて傷がすっかり癒えた茜が目を覚ました。


 萌黄、金糸雀「茜―!」

茜「あ、私……躑躅の背で技召していた。……もう終わったの?」

萌黄「大丈夫。外は心配ないって。」

金糸雀「安心して、茜さん。」


 茜「はっ!躑躅!躑躅ー!」


 起き上がる茜の横には、翼を失った無惨な姿の躑躅が横たわっていた。

茜「躑躅。躑躅―っ!」

萌黄「茜、技巧の書をアークにかざして。躑躅は助かる、大丈夫。」


 茜は金糸雀に抱えられながらアークの側に歩み寄る。

金糸雀「さぁ、茜さん。文書をかざして。」


 茜は言われる通りにした。すると、アークから赤い技巧色が現れ、躑躅を包み込み、そのままアークの中に収まった。


 鎮める竜の扉がゆっくり閉じた。

茜「躑躅は?躑躅はどうなるの?」

萌黄「大地の竜は、茜が目が覚めたら技巧の書をアークにかざせって。そうすれば躑躅は蘇るって……。」

茜「でも、躑躅はアークに収まってしまったわ。……躑躅〜〜〜!戻って〜〜〜!」

 号泣する茜。しゃがみこんでしまう金糸雀。茜に寄り添って涙する萌黄。


 萌黄「大地の竜は蘇るって言ったのに……。」

茜は技巧の書を抱きながら号泣が止まらない。


 すると、技巧の書の紋は赤く輝き、それに反応してアークが赤い技巧色に包まれた。

次第に輝きは大きくなり、アークの外には躑躅のシルエットが現れた。


 茜「躑躅……ありがとう。私を助けてくれて。私の足りない力を補ってくれて……ありがとう。」

シルエットだった躑躅は翼も元の通りになり姿を現した。


 躑躅「我は獣神躑躅。火の者を守護する使命。」

茜「躑躅―!」


 アークから蘇った躑躅にしがみつく茜。

躑躅「其方を守護するは我の使命。火の者に従えるも使命なり。」

萌黄「茜、躑躅。良かったね。」

金糸雀「うん。茜さん、躑躅。戻れて良かった。」


 茜「技召の柱の中で、躑躅は背に乗せてくれた。これからも躑躅の背に乗って飛んでもらいたい。」

躑躅「ううむ……。其方はやはり、我を馬と一緒に考えておる様だ……。」苦笑いしている様な躑躅だった。


 萌黄「ねぇ躑躅。竜退治の時だけ茜を背に乗せるのはどうなの?」

金糸雀「今までの使い手には無い技だわ。」

茜「皆んな、躑躅を困らせる。この辺にしないと帰らせてもらえなくなるわ。」

萌黄「じゃ、キョーオウの街に行って、私も復興の手伝いをしに行く!」

金糸雀「私もそうします。茜さんも心配でしょ?」

茜「そうね。街の人達の手伝いは必要よね。躑躅、キョーオウの街までお願いします。」

萌黄「錫、キョーオウの街までお願いね。」

金糸雀「籐黄、私もキョーオウの街まで一緒に。」


 すっかり獣神達を技巧の書に収めるのを忘れたまま、洞窟の長い廊下を話しながら歩く3人。


 茜「落ち着いたらラムチョップ食事会にしましょ。」

萌黄「それなら街の人達の手伝いも頑張れそうよー。」

金糸雀「市場には美味しそうなフルーツもありました。復興を楽しみに手伝います。」


 そこへ錫の気の球が3人の後頭部に命中。

錫「我らを忘れては困るな使い手達よ。文書に収まりたいのがだな。」

籐黄「うむ。使い手としての資格無しとなろう。」

躑躅「やはり馬と間違えられておる……。」

 アークの前の獣神達が置いていかれている。


 3人は声を合わせて「あー、ごめんなさーい。」

3人は慌てて駆け寄り、それぞれの獣神にしがみついた。


―――<<< END >>>―――


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獣神達の道標 ほしのみらい @hoshinomirai518

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