使命、其の三、四
使命、其の三、四
世界各地の大きな街や港。国の中心地や人口の多い街の遥か上空には、漆黒の竜が点々と現れ始めた。
8人の使い手は、まだその多くを発見する事が出来ていない。
技巧の書の歴史の項には、『現れた漆黒の竜を消し去れるだけ消して核の山脈に集まった。』とだけしか記されていない。どの地でどの位現れたと言う事は時代と共に変化するからだろうか?
また、消しきれない漆黒の竜が闇雲に変化してしまうのだろう。大地に異変が起こってからでは、使い手達にはどうする事も出来なくなる。
茜は、ジャニオン王国に向かいながら発見した漆黒の竜を、躑躅が技召を吐いて落としていき、地上に降り立って茜が最後に消し去るという形で対応してきた。
同じくジャニオン王国に向かう萌黄も、途中のレマート国の南で竜に遭遇、戦った。
ジャニオン王国内の山の麓では、地下水が地上に滲み出し、地盤の流動化が始まった。
又、シャインルクス王朝の火山の噴火は、別の山の噴火を助長し始める。
萌黄と葡萄が氷河崩しの対策を取っていたロマリアの街周辺は、川から溢れ出した水が津波の様に押し寄せていた。
南の光の大陸、シャインルクスの隣国オーロックス公国に至っては、海水面が上昇し始め、港や沿岸部に影響が出始めた。
そして霧の多いルードスター王国では、各地の荒れた大地に地割れが発生、多くの動物達を飲み込んでいる。
使い手達の懸命な竜退治も虚しく、漆黒の竜は数を増すばかり。徐々に低く飛翔を始めて、空は暗くなり始めてきた。獣神達はほぼ同時に強い千里眼を飛ばし、核の山脈に向かう事となってしまった。
ジャニオン王国内で合流した躑躅と錫。
茜「萌黄―ここよー!……躑躅が獣神達の強い千里眼を感じたって。」
萌黄「かなり竜を片付けたけど、もう間に合わない。核の山脈に向かいましょう。」
火山の噴火に異常を感じ、早々に核の山脈に向かっていた浅葱は、途中渋紙と合流し向かう事に。
葡萄「水の使い手ですね。僕は土の使い手、ノアギウス葡萄です。それに獣神渋紙。こんな時の自己紹介ですみません。」
瑠璃「仕方ないだろう。私は瑠璃アルバート。獣神浅葱を従えている。さぁ、急ごう。」
そこへ赤道付近を西回りに飛んできた籐黄。渋紙と浅葱に追いつく。
金糸雀「瑠璃さん、葡萄。私は籐黄とこのまま先に向かいます。」
空の漆黒の竜は次第に闇雲に変わり始め、周囲が更に暗さを増すと、黒い煙の様な闇雲が、風に逆らい核の山脈に向かって流れ始めた。
躑躅「漆黒の竜が闇雲に
錫「闇雲より速くだ!……むっ。紫紺と白藍の千里眼!核の山脈に入った様だ。」
茜「淡藤さんと烏羽さん。もう着いたの?」
躑躅「おそらく先に着いて、鎮める竜の洞窟の扉を開く為。そうなれば我らはそのまま滑空して中に入れる。」
萌黄「そうか。奥の扉まで長いからなんだわ。さすがね。」
錫「さぁ。おしゃべりはその辺にして心の準備をする事だ。」
躑躅「うむ。常に冷静沈着。全ての力を込めねばならん。」
茜「全ての力……。授かったアークの力を出し切らなきゃ!」
使命、其の四
鎮める竜の洞窟入口。紫紺と白藍が降り立ち、烏羽、淡藤は扉を開く為駆け寄る。
烏羽が先に技巧の書を手に扉にかざすと、扉の紋章が紫色に輝きながらゆっくりと開いていった。
こうしている間にも、闇雲は拡大していきながら核の山脈に集まりつつあった。
籐黄、黄檗がまもなく核の山脈に辿り着く。
南半球の大陸に沿って風の乗った躑躅と錫も、ルードスター王国まで来ていた。
空で合流した浅葱と渋紙は、同じ南半球の大陸、ジアロック朝に入ったところだ。
茜「躑躅。まだ漆黒の竜の気配を感じる。近くにいない?」
躑躅「闇雲を竜の気配と感じているのではないか?我には感じん。上空の闇雲が集まってきている。そのせいであろう。」
茜「まだ残っている漆黒の竜は消さなければならないでしょ?そうすれば人々の不安も無くなる。」
躑躅「今はそれ以上の事をこなさなければならない時。乗り越えなければならない事を、乗り越えてこそ真の使い手。それを忘れるな。」
鎮める竜の洞窟入口では、扉を開けた烏羽が近くで立っている。開けた者の技巧の書が扉を離れると閉じてしまうからだ。
そこへ籐黄、黄檗が滑空して洞窟に入っていく。奥に安置されているアークの前では、淡藤が既に待機していた。
金糸雀「淡藤さん、遂にあの時が来てしまったんですね。……あ、躑躅と錫は追い越して来ましたが、まもなく着くと思います。」
山吹は鎮める竜の扉の前に歩み寄って、
山吹「この扉が私達の時代に開かれる事になろうとは……。」
淡藤「闇雲の様子はどうだ?」
金糸雀「赤道沿いの闇雲はほぼ固まり、ここに向かっています。」
山吹「私の方でも既に多くが集まっていた。南の光の大陸からの闇雲を寄せ付けながら南半球の大陸に届いている。」
淡藤「北半球でも同じだった。他の皆が着く頃には核の山脈は覆われてしまうだろう。」
白藍「躑躅、錫が降りて来た。残るは浅葱と渋紙だ。」
金糸雀「葡萄は赤道に沿って来るでしょう。萌黄さんに風の流れを教えてもらっていましたから。」
山吹「病み上がりの瑠璃だが、浅葱はそのまま赤道沿いで来る様だな。」
金糸雀「瑠璃さんとは、少し前にお会いして来ましたが、体の具合は良さそうでした。茜さん……あ、火の使い手なんですが、彼女との混合技召を考え出して、瑠璃さんの最大の波動壁で受け止めてもらいました。力は完全に回復していると思います。」
山吹「彼女?火の使い手は女性か。」
淡藤「あぁ。だが、かなり能力はある。気の力がしっかりしていた。アークの力無しに獣神と話せていたし、記憶力も良く躑躅はまもなく紋に収めている。」
金糸雀「茜さんは鞭の名手で、かなりの反射神経です。私の光の技召のほとんどを捉えられています。凄い方です。」
山吹「事が片付いたら、是非手合わせしたいものだ。」
そこへ噂をすれば……だ。躑躅と錫が滑空して入ってきた。
茜と萌黄が金糸雀に駆け寄る。
金糸雀「茜さん、萌黄さん。身体は大丈夫ですか?」
萌黄「大丈夫大丈夫―。準備万端よー。」
茜「私もだけど……少し心配。」
山吹が側に寄り。
山吹「こんな時に自己紹介ですまん。雷の使い手、憂花山吹。獣神は黄檗。」
茜「あ、初めまして山吹さん。火の使い手、夕紅 茜です。獣神は……。」
山吹「躑躅。それは他のどの獣神達も知っているよ。20年探し回った事は皆心配していた。今話をしていたが、茜はかなり腕が立つ様だな。事が済んだら手合わせで会おう。」
茜「はい、その時は是非お願いします。」
茜は山吹に会い、これで全ての使い手とは顔を合わせた訳だが、修練の手合わせはまだ数人残っている。期待と不安がよぎる対面となった。
萌黄は茜の手を引き、荘厳な鎮める竜の扉(大地の竜の扉)の前まで近寄ると言った。
萌黄「茜、これが文書の大地の竜の扉。」
茜「ええ。左右の扉に使い手の紋が4つずつ。ここに皆んなが技巧の書をかざすのね。」
萌黄「さすが茜。しっかり頭に入ってるわね。中には大地の竜が眠っている。使い手8人の気配によって目覚めるわ。」
茜「大地の竜は外に飛び立って異変を鎮めるのね。」
烏羽「そのあと直ぐに獣神達に収まって、山頂まで飛ぶ。頂に降り立ったら、技召の柱を作る。皆のアークの力を振り絞って放ち続けなければならない。茜、しっかりな。」
茜には明らかに不安な表情が浮かんだ。
烏羽「茜、心配するな。皆が付いている。技巧の柱で闇雲を全て巻き込むまで頑張るんだ、いいね。そこまでしたら私が柱を宙に放つ。それに合わせて技召を宙に向けるんだ、分かったね。」
萌黄や金糸雀も不安は隠せない。茜と3人は抱きしめ合っていた。
躑躅「常に冷静沈着。落ち着いて力を出し切る事に集中すれば良い。我ら獣神も同じ。全てのアークの力を振り絞る。」
躑躅は震えている3人を翼を広げて包んでやった。
ようやく浅葱と渋紙が入ってきた。紋から出てくる瑠璃と葡萄が皆んなに駆け寄る。
錫「これで使い手全て揃った。扉を開けなさい。」
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