使命《しめい》、其の一、ニ

使命、其の一


 淡藤と別れた烏羽は、紫紺に収まり南に向かい、核の山脈に沿って飛ぶルートを取ろうとしていた。


 ちょうどその頃、ザリウム公国に辿り着いた躑躅と籐黄。

躑躅「紫紺は核の山脈に沿ってやってくる様だ。火の者、我らは如何にする?」

茜「何処か見晴らしの良い場所はないかしら?金糸雀はこの国は知らないの?」

金糸雀「1度ルグトールから渡ったけど、思い当たらない。この国の国王は城ではなく、広い敷地の宮殿。それ以外は森が多くて降りる所にも困る位よ。」

茜「見る限り、海沿いも崖ばかりね。」

金糸雀「集落があるくらいで、街と言ったら港位ですね。各国の船が立ち寄るので賑やからしいですが……。」

籐黄「紫紺が核の山脈まで来ている。合流ならこのまま北。」

金糸雀「籐黄、躑躅。では北に行って紫紺に合流にしましょう。」


 今度は内陸に入り北に進む事になった躑躅と籐黄。そして核の山脈を南下する紫紺といった構図。

 地上ではまた小さな地震が発生していた。ザリウム公国上空の獣神達は気が付かない小さな揺れが、長く続いているのだった。


 この地震には北半球の大陸の獣神達も気が付かない。また、浅葱、黄檗とて地上になく気付いていない。

小さな揺れはしばらく続き、地上の人々を不安にさせた。


 金糸雀「烏羽さんに会えるかしら。茜さんとの混合技召、受けてもらって感想が聞きたいです。」

茜「なんか私との混合技召に味占めてませんかー。」

金糸雀「それも少し有りますが、闇の使い手の防御は使い手一です。漆黒の竜にも破られない特性だと聞きましたから。」

茜「受けてもらえるならって話よ、金糸雀。躑躅が術の相性って言ってたけど、金糸雀と烏羽さんは光と闇。合わなそう。私はどうだろう?火と闇の術は混合技召として成立するかしら?」

 躑躅「それは叶わん。闇の術は他とは違う。どの使い手の術とも混ざらない。闇の使い手は防御が全て。防御技召を攻撃技召に変えて戦ってきた。」

金糸雀「なんだか孤独な使い手なのですね。」

籐黄「使い手の技召を集めた柱は、闇雲を巻き込み遥か宙に放つ。それが出来るのは闇の使い手のみ。」

茜「私の様な未熟な使い手では力不足ではないのですか?あの時に他の使い手達の力と同調出来るのかしら?」

躑躅「それはその時の其方次第。全てを注げば他の使い手同様であり変わりはない。」


 核の山脈の端に降り立つ躑躅と籐黄。紫紺の姿を待っていた。

紫紺「核の山脈の端に躑躅と籐黄が待つ。一旦高く上がる。」

烏羽「分かった。合流しよう。」


 



使命、其のニ


 やがて紫紺がやって来て降り立った。獣神の紋から出て待っていた茜と金糸雀は、出てきた烏羽に歩み寄る。

金糸雀「烏羽さん、闇の使い手ですね。私は金糸雀ラグレス。それに獣神籐黄です。初めまして。」

茜「私は夕紅 茜。火の使い手。獣神躑躅と参りました。初めてお目にかかります。」

烏羽「金糸雀に茜。私は烏羽ヘリウス、闇の使い手。共に参ったのは獣神紫紺。ようやく選ばれた火の使い手。躑躅が見込んだだけある。いい気を持っているな。」

茜「烏羽さん。あの時の為に、思い当たる各地を回っています。何か役に立てばと思っています。」

烏羽「金糸雀の気はとても強い。ルグトールから度々感じ取っていた。それに劣らない強い気を持っているのだな茜。ここで手合わせしている余裕は無さそうだ。我らが空にいる間にも、あの時の前兆らしき大地の揺らぎが始まった。」

紫紺「如何にも。地上は何かが起ころうとしている。じきに漆黒の竜が舞い始めるだろう。」

躑躅「時間は無さそうだ。別行動にて出来る限りの竜を消し去るが吉。火の者、北へ戻ろう。」

茜「ジャニオンも危ないの?」

躑躅「何とも言えん。だがこの辺で皆、別に動くが賢明。」

金糸雀「茜。急ごう。私はルグトールから漆黒の竜を退治しながら西へ移動する。核の山脈で会いましょう。」

茜「分かったわ金糸雀。さ、お願い躑躅。急いで向かって!」

3体の獣神は各地に別れた。


 躑躅は北に向かい、赤道を超えると、北半球の西からの風を掴んで全速でジャニオン王国に向かった。

茜「キョーオウまでとは言わない。途中で漆黒の竜が現れたら退治する。それまで躑躅、頑張って飛んで。」

躑躅「心配するな。地上を感じながら移動している。其方は国の上空の気配を気にするのだ。」



 北半球の大陸で合流した淡藤、萌黄、葡萄も、地上に降り立って感じ取ったらしい。

葡萄「僕は西の島の国に向かいます。」

萌黄「私はユロピクトを横断してジャニオンに向かうわ。」

淡藤「高く舞っている竜も、見つけ次第消していく事だ。どれだけの数になるか見当も付かないが、頼んだぞ。私はまた海を渡る。」


 南半球、光の大陸。シャインルクスの火山が再び噴火し、今度はかなりの規模になっていた。

瑠璃「浅葱。火山が火を噴いた。今度ばかりは楽観できん。」

浅葱「如何にもその様だ。混乱に乗じての悪い企みも出るはず。なれば漆黒の竜が現れるだろう。見つけ次第消し去る事を勧める。」

瑠璃「分かった。見晴らしのいい場所に移動してくれ。」


 赤道の大陸を飛んでいた黄檗は、大地の他ならぬ力を感じ、国の中央付近に降り立っていた。

山吹「国の人々は混乱し始めている。必ず悪党共が動くだろう。現れた漆黒の竜は見つけ次第片付ける。黄檗、高く飛んで対策を取ろう。」

黄檗「竜の速さに追いつけなくなったら空で紋に収めるのは困難になろう。心して頼む。」

山吹「大丈夫。空での技召が困難になったら、地上に降ろしてもらい戦う。」

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