修練、其の二十二、二十三、二十四

修練、其の二十二


 躑躅「まもなく浅葱と合流出来る。」

茜「躑躅。広いところに降りていましょう。」

 瑠璃は2つ目の集落の長に会い、地震の後の津波に気を付ける様に伝え、そこをつところだった。

 浅葱は紋に収まると、

浅葱「この先の広い平地に躑躅が降り立った。次の集落の手前。一旦合流する。」

瑠璃「分かった。頼む。」

浅葱「籐黄も追って来ている。まもなくだ。」

瑠璃「ではその平地で皆合流出来るな。」

浅葱「左様。向こうも我らに用があるのであろう。


 広い平地が広がっている。酪農をする人が転々と見える。

茜「動物が見える。姿が見えて脅かさない様に横になっててね。」

 茜は外に出て浅葱が降りて来るのを待つ事にした。

茜「水の使い手。やっぱり独自の特性をお持ちなんでしょうね。私が思ってるように、水の使い手なら、水に関係した能力があるんだわ。……あ、来たわ。あれね。」

躑躅「籐黄も直ぐ後ろを付けている。」

 浅葱が降り立ち、胸の紋から瑠璃が出てきた。近寄る茜。

茜「水の使い手ですね?私は夕紅 茜。火の使い手です。そして獣神躑躅。初めまして。」

瑠璃「初めまして、火の使い手。選ばれし者。私は瑠璃アルバート、如何にも水の使い手です。継承を受けてまもなく核の山脈に向かった様だな。躑躅の長年の苦労が報われて良かった。……おっ。籐黄も来た。」

 籐黄から出て2人に駆けて来た金糸雀。

金糸雀「初めまして。私、金糸雀ラグレス、光の使い手です。それから……。」

瑠璃「獣神一の最速飛翔、籐黄の事は聞いている。私は瑠璃アルバート、水の使い手です。初めまして。茜に金糸雀、今後ともよろしく。……それにしても、女性使い手だったとはね。」

金糸雀「あの、会っていきなりなんですけど、瑠璃さんは水の使い手独自の能力は感じてますか?」

瑠璃「そんなところに興味を持っているのかい?」

茜「金糸雀じゃなくて、私なんです。使い手はそれぞれ違う特性が有るって。皆んなはそれを感じてて……私はどれが特性なのか判断出来ずにいます。」

金糸雀「茜の育ってきた街で、土の使い手の葡萄、風の使い手の萌黄としばらく過ごしました。皆んな自分の使い手としての特性は何となく理解していても、茜には何のアドバイスも出来ず……。」

瑠璃「それは肝心な本題を伝えてもらってからにしよう。2人はこの地へは何故来たんだい?」

茜「文書に記された、あの時が来る前の心構えと、文書から考えられる思い当たる場所に、手分けして対策に回ろうという結論になって、それで伺いました。」

瑠璃「地震は頻繁に起こる様になった。海水面が上がっている。小さな津波もやって来る様になっているんだ。この国は低い土地が多い。街は少なく、人々は小さな集落で暮らしている。雷の使い手山吹と黄檗がこの地へ来て知らせてくれた。あの時が私達の時代に来るだろうと……。」

金糸雀「土の使い手の葡萄と、風の使い手の萌黄は北半球の北の国を回っています。私達は南半球の大陸からこの地へ移動しました。」


 茜「瑠璃さん。この国には火山が有る。その被害は甚大です。」

瑠璃「あぁ、それはここの人々は皆承知してる。先日も噴火があったばかり。でも人々は慣れっこなんだ。高値で売れる鉱物を探したり、冷めた溶岩から金属を取り出したり。この国は人と火山が共に生きてきた土地なんだ。」

金糸雀「瑠璃さんもこの地の出身なのですね。」

瑠璃「うん、その通り。大切な場所さ。だからこそ被害を最小限に食い止めたい。それで海沿いの集落の長に注意する様に話して回っている。」

籐黄「ところで水の者。黄檗と雷の者がしばらくここにいた様だが、如何にしたのか?」

瑠璃「気配は感じていたか。山吹がこの地へ来た時の事。私は極悪で名高い奴らに毒を盛られ、何とか浅葱を召喚して紋に収めてもらったんだ。もう解毒が済んで良くなったので、行動を始めた。だがまだ、君達の手合わせに応じられない。感覚が完全に戻ってないんだ。すまんな。」

浅葱「火の者よ。其方は選ばれし使い手。アークの力が他の使い手に引けを取らん様だ。しっかり修練している様だな。」

金糸雀「えぇ。茜は技巧の書を継承する前、既に躑躅と話せたんです。それに旅する事なく躑躅の紋に収まって、核の山脈まで向かったんです。そしてその間の道中は、私達と話をしながら向かいました。」

浅葱「ほぉ。20年の月日の末、探し当てた選ばれし者。躑躅の目に狂いはなかったのだな。」

躑躅「左様。火の者は、優しい心の中に強い意思を持っている。賢く柔軟な思考。日に日に上達していくのが不思議でならん。」

浅葱「水の者。少し手合わせしなさい。この短期間でどの程度か見ておこうぞ。」

瑠璃「本調子ではありませんが、茜さん、少し手合わせしましょう。」

茜「分かりました。手加減は入りません、お願いします。」


 使い手同士が対面すると、どうしても技量を感じたいのか、この2人の様になってしまう。茜は上達の為なら傷を負うくらいなんでもなかった。

瑠璃「私の得意は直列連弾だが、放って構わないかな?」

茜「それなら私も直列連弾で応じます。お願いしますっ。」


 先ずは瑠璃から直列連弾の数本が放たれた。

茜「防御している間に次が来てしまう。ならば!」

茜は単連弾の2つを操り、蹴散らすことにした。それを察した瑠璃は単連弾を低く放って来る。足元を狙う算段さんだんだ。

 上手く単連弾の遠隔で交わしたが、すぐさま低い高さの単連弾が次々に向かってきた。

そこに渦柱盾を立てて身を固める茜。左右の掌から単連弾の遠隔、縦横無尽に移動するのに瑠璃を集中させ、さらに足元の高さで円連弾。

 タイミングは遅いものの、単連弾を操りながら上手く放つ。

瑠璃は、向かってきた単連弾を波動壁で交わすと得意の直列連弾を放った。今度は縦ではなく横方向で。食らえば切り裂かれそうな位の技巧色を纏う直列連弾が向かってきた。

 茜「横向きの直列連弾。渦柱盾を走りながら立てていこう。柱の間で単連弾を放つ!……直列連弾は……横、か、ら……丸見え……なんだからっ!」

横移動しながら渦柱盾を立てられるだけ立て、最初の柱の位置から、尾を引く直列連弾を横に見ながら単連弾の猛攻。

 瑠璃の直列連弾は渦柱盾に遮られ、横方向から単連弾に弾かれ全て消えてしまった。茜が左右から瑠璃に向けて単連弾が……。

茜は病み上がりながらの手合わせの瑠璃を思い、左右の遠隔する単連弾を瑠璃にわずかにかすめて消えていった。


 茜「瑠璃さん!申し訳ありません!病み上がりの身体での手合わせ。この辺で終わりにします。」

瑠璃「遠慮しなくてよかったんだよ、茜。左右からの単連弾で、私は終わっていた。防御が間に合わないスピードだった。優れた反射神経の持ち主だな。……私の鍛錬不足だ。」

茜「瑠璃さんの技召の力、1つの単連弾では敵わない。複数でやっと弾く事が出来た直列連弾でした。横方向の直列連弾、怖かったです。」

 思い起こした茜はへなへなとしゃがみ込んでしまった。

瑠璃「茜。さ、立ち上がって。」茜に手を差し伸べる瑠璃。

更に瑠璃「茜。継承まもないのに良くここまで上達してるね。もう選ばれしなんて言わないよ。君は立派な使い手だ。」

 躑躅「手合わせついでに、面白いものを見せてくれる。火の者、光の者。先に試した技召を放って見せなさい。水の者に受けさせても良い。」

茜「瑠璃さん。あなたの最大防御で受け止めて欲しいんです。私と金糸雀が放ちます。」

瑠璃「あぁ、分かった。波動壁に最大の力を込めて防御しよう。」

茜「金糸雀、さっきのヤツ。試しましょ。あなたのタイミングで放っていいわ、お願いね。」

金糸雀「瑠璃さん。では単連弾を1つ放ちます!」

瑠璃「単連弾1発⁉︎」

茜「はい。お願いします!」


 金糸雀の掌に黄金の技巧色の単連弾が、それに茜が力を加える。

技巧色は黄金と赤の技巧色に纏われ大きくなる。

瑠璃「な、何⁉︎技巧色が混ざっている……。」

 茜「金糸雀!」

金糸雀「はいっ。単連弾っ!」

2つの技巧色に纏われながら瑠璃に向かう単連弾。

 瑠璃「波動壁―――っ!」

瑠璃にとって最大の厚み(強さ)の波動壁で受け止めようとする。

その波動壁を貫かんばかりのスピードと強さの1つの単連弾。

その衝撃に瑠璃が跳ね飛ばされた。

 躑躅が側まで飛んできた。

躑躅「水の者。大丈夫か?」

瑠璃「躑躅。あなたが見せたかったのはこれですか?……スピードを追えないばかりか強すぎる。」

 躑躅は翼を瑠璃に添えて立ち上がらせた。

躑躅「火の者と光の者の合わされた技召。其方が最初の体験者となった。」

瑠璃「試されたのは構わない。受け止めて、技召が優れているのが良く分かる。火と光の技召を混ぜ合わせて放った訳だ。力は2人以上のものを発揮している。」

金糸雀「瑠璃さん。それ、茜が考えたの。」

瑠璃「金糸雀。それは多分、どの使い手でも同様に出来る。相手が光の使い手だからこそだろう。私と茜では無理だ。火の術と水の術、交わる事はない。」

躑躅「如何にも、水の者の言う通り。術の相性なのだろう。」

瑠璃「それにしても、茜の力。今後が楽しみだ。……さて、ここシャインルクスは私に任せて、2人は他の地へ向かっていい。」

茜「はいっ。ここは瑠璃さんに任せて隣国へ。」

金糸雀「茜さん。隣国は私の故郷ルグトールがあるオーロックス公国ですが、向かいますか?」

茜「そこは食事、出来る?」




修練、其の二十三


 南の光の大陸。シャインルクス王朝の隣の国オーロックス公国。

金糸雀の故郷である。

 金糸雀「茜さん。食事もいいけど、ルグトールはもう落ち着いている。他の街へ向かうのがいいわ。」

茜「食事出来る所ならいいわ。」

金糸雀「もー茜さん。食事しなくても使い手は過ごしていけますから。」

茜「そう言われてもね。今までは食べてる時が1番自分の好きな時間って感じてたからさぁ……。」

金糸雀「全くしょうがないですね茜さん。使い手女子としては反論の余地が有りません。食事ではないですが、ルグトールに寄り道して、最高のスイーツを紹介します。」

茜「うん。ありがとう金糸雀。スイーツでもいい。あなたと一緒に過ごせるなら心の癒しになるわ〜〜〜。」

金糸雀「茜さん、違う方向に考えないでくださいね。私はスイーツを一緒に……。」

茜「誰かと一緒に食事やスナックを共に、テーブルを囲み、話をしながら楽しく過ごす。これぞ心の癒しっ!」

金糸雀「茜さんの言わんとするところは分かります。ささやかですが、スイーツと紅茶にしましょう。」

 

 結局茜の押しに負けた金糸雀は、一旦ルグトールに落ち着き、2人で目当てのカフェに歩いて行った。

茜「ここがルグトールの街ねー。静かでいいわー。キョーオウもこの位静かな街なら良かったのに……。」

金糸雀「茜さん……。私なら何時でも食事に誘ってください。籐黄に頼めば何処でもすぐに向かいますっ。」

 街の真ん中でありながら、茜は金糸雀を抱きしめた。

茜「金糸雀、ありがとう。……私、……わがままだから……。ごめんね。」

 一人で過ごす事が虚しく悲しいのは、金糸雀も良く分かっている。

茜は一人で長く過ごしてきた。萌黄や金糸雀、葡萄達と楽しく食事が出来た事が、茜にとって何よりの心の支えなんだと金糸雀も理解していた。


 金糸雀「いぇーい。ここがルグトール1番の美味しいスイーツのお店でーす。」

茜「フルーツが一杯で美味しそう。」

金糸雀「でしょー。ルグトールの市場に集まる果物はとっても美味しいの。その果物を使ったスイーツなんです。」

茜「……と、言う事は……。市場に買い出しに行っちゃった方が良くない?」

金糸雀「もー茜さんには敵いませんよぅ…。」


 美味しいスイーツに紅茶をたしなむ2人。

茜「とっても美味しいわー。あ〜〜〜充実の時間。」

金糸雀「よ、喜んで頂けて良かったです。」


 店を出て2人は街を歩いていた。通りすがった宝石店の前。

光の紋章が輝いた。

茜「金糸雀、あなたが残した紋章?」

金糸雀「はい。宝石商を狙った強盗だったと聞いています。」

茜「私、キョーオウに戻る。あの時の事も考えながら過ごしたい。文書に記された流動化する街、もしかするとキョーオウがそれなのかも知れない。」

金糸雀「茜。私はどうすればいいのよ。」

茜「一緒にキョーオウに来て!」

金糸雀「葡萄が言ってたもんね。キョーオウは柔らかい土地だって。で、あの時の為の準備はどうしたら?」

茜「分からない。地滑りとか、崖崩れとか…。思いつく対応はしなきゃ。」

金糸雀「分かったわ。付き合う。その代わり、美味しいラムチョップをご馳走してね。」

 2人は獣神の紋に収まって飛び立った。

躑躅「ここから北の国に紫紺が向かった。そこで一度闇の者に会っておくのが良いのではないか?」

籐黄「うむ。風には逆らうが、造作も無い。向かおう。」

躑躅と籐黄は海の向こう、ザリウム公国に向かうのだった。





修練、其の二十四


 南半球の大陸、ルードスター王国のとある街はずれ。

白藍と紫紺が東西から見て回り、合流したところだった。

淡藤「こっちは異常無し。烏羽、そっちは?」

烏羽「こっちも問題無し。この国は霧が多くて困る。低く飛ばなくては街を見て回れず。これでは漆黒の竜が現れても霧が邪魔だな。」

淡藤「先日、カヌレットの城下町で竜退治をした時も、錫が翼で霧を飛ばしながらの攻防だったらしい。」

烏羽「なるほど。地上から竜に気が付いた時には、意識を持ってしまっている事態になる訳だ。」

淡藤「危ない地域に変わりはない。私は海を渡り北半球の大陸の西。ユロピクト王朝に向かう。君はどうする?」

烏羽「このまま核の山脈の南の国に向かおうと思う。」

淡藤「何かあったら紫紺の千里眼を使ってくれ。ではあの時まで。」

2人は獣神の紋にそれぞれ収まり分かれて飛び立った。


 北半球の大陸、レマート国。国土の殆どでは、山が連なり寒さが厳しい土地だ。

中心地ヒューベットの街は淡藤の出身地。萌黄と葡萄は獣神達の見た目を確認しながら飛んでいる。

 葡萄「隣国レマートに入ってきましたが、ここは山だらけの国なんですね。」

萌黄「淡藤さんの出身地ヒューベットの街が中心地らしいわ。ここから見る限り、山の所々に集落があるけど、どうする?葡萄」

葡萄「何処かに降りて、獣神達の羽休めをしますか?地面の様子を感じられれば、あの時が来たら何が起こりそうか分かるかも知れません。」

渋紙「如何にも。土の者よ。大地の異変が有れば感じ取れるであろう。錫、一旦降りるとしよう。」

錫「うむ。飛んでいるだけでは異変は分からんだろう。任せる。」


 獣神達は降り易い山の頂を見つけ降り立った。

萌黄と葡萄は山頂に立っていた。

萌黄「やっぱり寒いわね。で、この山で何か感じる?」

葡萄「寒いのは確かなんですね。ここは火山は無いのに地熱が高い気がします。何処かの山でマグマが噴き出すなんて事も考えられますが……。」

渋紙「土の者の言う通りだが、直ぐに起こる事象では無さそうだ。白藍がここの南の国に向かっているようだが、如何にする?」

萌黄「ユロピクト王朝ね。じゃあこのまま南に飛びましょう。」

 再び獣神の紋に収まって、南に向かい飛び立った。


 一方、マクロネス共和国、ワンダルキアの街に戻った黄檗と山吹は、街上空を見回って他の街に移動中。

 山吹「ワンダルキアは地震には強い土地なのかも知れないな。黄檗、海沿いか山のどちらに向かおうか?」

黄檗「海なら津波、山なら崖崩れ。共に危険は予測出来る。」

山吹「赤道の大陸は雨が少ない。乾いた大地の地割れが気になるが……。漆黒の竜の気配は無さそうだ。街を離れ荒野を回ろう。」

黄檗「御意。」

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