修練、その十九、二十、二十一

修練、其の十九


 翌早朝……。

 獣神達に相談した結果、茜の提案通り。

海を渡り茜と金糸雀はジアロック朝へ。萌黄と葡萄はプロキオート共和国に向かい行動する事になった。


 キョーオウを出発して間もなく。錫と渋紙は国境を越え、プロキオート共和国に入っていた。

萌黄の神通力「この国の中央、ネパリアには立ち寄った。他の街に降りましょう。」

葡萄の神通力「分かりました、萌黄さん。」

 萌黄は出発前に確認した通り、国の北方の街ロマリアに目を付けた。ロマリアは、街の近くに氷河が有る。あの時が来て、氷河が溶け出せば、街は水浸しはおろか、川は氾濫し洪水が起こると考えたのだった。


 そして一方で、海を渡り、ジアロック朝に入った茜と金糸雀。

籐黄「この国には既に白藍はおらん様だ。隣国にて紫紺と一緒に行動している。」

躑躅「うむ。街の様子を見て回っている様だな。」

金糸雀の神通力「隣国?竜退治したルードスター王国ね。……紫紺……とは?」

籐黄「獣神紫紺。そして闇の者。」

茜の神通力「淡藤さんは、ここジアロック朝に居たわよね?動いたって事は、ジアロックは落ち着いてるって事かしら?」

金糸雀の神通力「そう考えられるわね。どうしましょう、更に南下してシャインルクス王朝まで向かう?」

籐黄「闇の者はしばらく南のザイラル国に居た。その闇の者が氷の者と行動しているのならザイラル国よりシャインルクス王朝が良いと見る」

躑躅「如何にも。して籐黄。この先向かい風になる。我は低く飛びたいが良いか?」

籐黄「承知した。では低く飛んで南下しよう。」

 茜と金糸雀は当初の予定地ジアロック朝ではなく、更に南下してシャインルクス王朝に向かった。

躑躅「むう。向かう国に浅葱が居る。このままの進路でよいか?」

茜の神通力「使い手がいる国だったのね……。でも、かなり飛んでる。羽休めで一旦シャインルクスへお願い。」


 籐黄「ふふ。火の者は優しいのう躑躅。我の事を思い出させる。」

茜の神通力「籐黄、過去に何か有ったの?」

籐黄「光の者の街ルグトール。崖に、棲家とする洞穴を掘っていた時の事。我が技召を吐いて棲家を作ると約束したが、周囲の岩が崩れ、我が下敷きになった。もがいても、あまりの重さに身動き取れなかった。光の者はその岩を、単連弾を器用に使い粉砕した。直ぐに技巧の書の紋に収めた光の者の事は忘れもしない。」

躑躅「籐黄。その優しさが女性使い手なのだろう。」

茜の神通力「金糸雀……。」

金糸雀の神通力「あの時は、籐黄の姿が見えない位に岩が覆い被さってしまってて。もう必死でした。でも、獣神は技巧の書の紋に収まれば、怪我は完全に治癒すると、そのあと知らされたんです。」

茜の神通力「私も、力を授かる前。躑躅は20年あまり、ずっと疲弊に耐え継承者を探してたって聞いて、夢中で祈ったわ。それで躑躅を初めて応召出来たの。」

金糸雀の神通力「そうでしたか。あの当時の私と一緒ですね、茜さん。獣神を思う気持ち、一緒ですっ!」


 籐黄「さぁ、その辺にして少し眠りなさい。あと一時いっとき程掛かる。躑躅、上陸して直ぐ羽休めとしよう。」

躑躅「良かろう。」




修練、其の二十


 プロキオート共和国、ロマリアの街に入った萌黄と葡萄。見た目を伝えてもらう2人。

萌黄の神通力「異変が起こるとすればあの氷河。そして側を流れる川。氷河が溶けて洪水を起こしかねない地形。」

葡萄の神通力「はい。よく分かります。洪水になれば近くの民家は水浸みずびたしか最悪流されてしまいますね。」

錫「氷河の移動は遅い。あらかじめ崩してしまうか?」

萌黄「そうね、錫にしては名案じゃない。」

 錫と渋紙は氷河に向け技召を吐く。川に崩れ落ちる多くの氷河。

葡萄の神通力「あとはどうします?数日滞在しますか?」

萌黄「そうね、そうする?。錫、少し上流に向かって。何処かに横穴を掘って欲しいわ。」

錫「御意」


 上流の厚い氷河に横穴を開け、そこで羽休めとなった錫と渋紙。それぞれの紋から出た萌黄と葡萄は獣神達を技巧の書に収めた。

葡萄「萌黄さーん。ここで長居は出来ませんよぅ。寒―い。」

萌黄「確かにそうね。じゃ、葡萄。温め合っちゃう?」

葡萄「も、萌黄さん。ダメです。冗談はよしてくださいよぅ。」

萌黄「あら、葡萄ったら可―愛いーい。」言うと空が見える所まで歩いて行った。

 萌黄「漆黒の竜はいない。獣神達の羽休めが済んだら移動ね。」

葡萄も寄ってきて、

葡萄「空にはいない様ですね。」

萌黄「さて、この国の街を見て回って、隣国に移動しましょう。」

葡萄「分かりました。」


 シャインルクス王朝。見えた陸に降り立つ躑躅と籐黄。茜と金糸雀は紋から出て獣神達を応召した。

茜「少し、羽休めしてもらいながら、街に歩いてく?」

金糸雀「そうですね。でも街と言ってもどの方向に向かいましょう。」

茜「浅葱と瑠璃さんがこの国に居るんでしょ?私達じゃ、気配は感じ取れないものかな?」

金糸雀「近くならともかく、少し離れてしまったら、使い手には無理なのでは?」


 2人は歩きながら話していた。

茜「大地の怒りの時、使い手達は技召を合わせて大きな柱を立てる。使い手の技召は混ぜ合わせることが出来る……のよね?」

金糸雀「考えた事は無かったですが、そうなりますね。」

茜「8人でなくても、2人でも同じなんじゃない?」

金糸雀「理屈としてはそう出来なければおかしいですよね。」

茜「金糸雀。単連弾で試しみよう!ゆっくりでお願い。放つのはあなたのタイミングでいいわ。私の単連弾を金糸雀の単連弾に合わせる。」

金糸雀「面白い発想です、茜さん。……ではやってみます。」

 金糸雀の掌に黄金の技巧色の単連弾が作られた。そこに茜が単連弾を込める。掌の単連弾は黄金色の周りに赤く取り巻く様に変わった。

金糸雀「はぁぁっ!」金糸雀は2色を纏った単連弾を放った。

海の沖まで回転する様に飛んで行って消えた単連弾。

金糸雀「す、凄い。スピードは付けて無いのにあんなに速く飛んだ。回転してるみたいだった……。」

茜「思った通りだわ。気とアークの力は、混ぜ合わされると力も増幅する。金糸雀、もう1度。私が円盾の強いものを放って、直ぐあなたの単連弾に力を込める。円盾に追いつくスピードで放って。」

 金糸雀が掌に単連弾を作るのを見て、茜は強化した円盾を海に向かい放つと同時に金糸雀の単連弾に力を込めていった。

金糸雀「追いつくギリギリ!放ちますっ!」

 円盾を追跡しながら、回転はおろかキリモミ状態で向かっていく。スピードは円盾より遥かに速い。円盾に命中すると、黄金と赤の技巧色に輝き散っていった。

茜「凄い破壊力になった。凄いわ、金糸雀!」

金糸雀「追いつくギリギリのスピード感。力の量。どっちも最大に近かったです。」

茜「しかも放った円盾の強度は、今、私が放てる最大強度よ。」

金糸雀「それを一撃で……。茜さん、こんな技召は初めてです。」

茜「文書を読んでて思いついたの。複数の使い手の技召は混ざるんだろうなって。」


 金糸雀「放つまでの時間はかかりますが、漆黒の竜は一撃で消滅しますよ。茜さんの思い付きには感心しました。」

茜「これなら何度も技召を放たなくても一撃。遠隔も力を合わせた使い手なら誰でもいいんだと思う。……金糸雀、これも試したい。もう一度お願い。放ったと同時に単連弾を幾つか飛ばす。金糸雀は遠隔に集中して。」

 金糸雀からは2人の技巧色の単連弾が放たれた。茜が幾つか単連弾を空に放った。遠隔する金糸雀、1つ、2つ弾け飛ぶ。茜は金糸雀の腕を静止させると自分が遠隔を代わり、飛んでいった単連弾を弾き飛ばした。茜の考える所が的中したのだった。

 金糸雀「2人の力がこもっているから、2人のどちらでも遠隔が効く訳だわ。これも凄い発見です!」

茜「アークの力はたくさんの応用が効くんだわ。凄い。」

金糸雀「集中力も、力もいくらも減っていない。1/2で済むって事ですね。」

茜「意思を持った漆黒の竜を一撃で消し去れるなら好都合なんだけど……出来るかしら?」

金糸雀「獣神達も感じています。茜さん、後で話を伺ってみましょう。良い点悪い点があるはず。いい意見が聞けると思います。」

茜「前に金糸雀が言ってたわね。獣神達の言葉は宝物だって。使い手はそうして上達するのね。」

金糸雀「ええ、そうです。」茜にニッコリ微笑む金糸雀。

また2人は何処かの街に歩いて行った。




修練、其の二十一


 ロマリアの川に張り出している多くの氷河を崩し終えて、また獣神達は国を飛び回っていた。

錫「躑躅と籐黄は到着した様だ。」

萌黄「で、茜と金糸雀はどうしてるかしら?」

渋紙「獣神達の気配が小さくなった。文書に収まっているのであろう。光の者の気は強い。が、火の者の気も強くなったものだな。」

葡萄「そうなんだ。ねえ渋紙。僕の気は強くなったかなぁ?」

渋紙「風の者との手合わせ以降、強くなっている様だ。上達している。」

萌黄「そうよ葡萄。もっと自信を持っていいわ。もう初めて会った頃の葡萄ではない。頑張ってるわ。」

錫「慌てる事はない。常に心掛け、冷静にしていれば良い。」

葡萄「皆んなありがとう。もっと頑張るよ。」

 萌黄「さて、隣国レマートに向かいましょう。」


 金糸雀「東へ向かうとオールクスの街、このまま南に行くと山になるけど、どうします茜さん?」

茜「山から煙が出てる。火山かしら?獣神達に飛んでもらって調べましょうか?」

金糸雀「そうですね。噴火した時の被害が出そうなら対処したいですね。」

 茜と金糸雀は獣神に収まり、南に見えている山に向かった。山は火山で、先日噴火したばかり。山吹と瑠璃が話していた次の噴火は近いのだろうか。

 躑躅「山がかなり膨らんできている。近く噴火するであろうな。」

籐黄「うむ。地下のマグマはその力で光も伴っている。かなり大きく噴火しそうな気配だ。」

茜「この辺りまで近いと、内部のマグマの火を感じられる。この山裾位の大きさの火の塊よ。」

金糸雀「そこまで感じ取れるんですか?それは火の使い手の能力なんですね。」

茜「言われてみると、そうかも知れない。山の木々が熱で枯れ始めてる。噴き出す溶岩の流れが読めないわね。」

金糸雀「葡萄がいればそれも分かったかも知れません。でも、噴火が近いのが明らかであれば、周囲の街に被害が出そうです。」

茜「瑠璃さんと言う使い手に会って伝えておく?」

 躑躅「水の使い手、従える獣神は浅葱。西の海の近い街に気配を感じるが、如何にする?」

金糸雀「この山の状態は報告しに行きましょう茜さん。」

茜「じゃあ躑躅、向かって。あと千里眼で知らせて。」

躑躅「御意。」

 山から浅葱、瑠璃のいるオールクスの街に向かうことになった躑躅と籐黄。千里眼を使った。

 浅葱「躑躅の千里眼。……籐黄の気配も。水の者。この街に向かっている様だ。答えるぞ。」そう言って千里眼で応じる浅葱。


 躑躅「浅葱の千里眼。答えた様だ。籐黄、このまま向かう。」

籐黄「分かった、向かおう。」


 当の浅葱と瑠璃はと言うと、解毒からしばらくの間、アークの力を試しながら、技召の確認までを度々行っているところだった。

 瑠璃「アークの元に向かえば力は回復しただろうが、浅葱には心配を掛けてしまった。……報いる為、時間を掛けてしまったが、もう大丈夫。元の様に動ける。」

浅葱「ならば良かろう。大きい大地の揺れが増えてきた。洞窟に身を置くのは危険と見ている。別の場所に移動を望む。」

瑠璃「あぁ。あそこでは海面が上がったら沈んでしまう。移動は賛成だよ。それもいいんだが、海沿いの集落の長には知らせておいた方が良さそうだ。間違いなく津波に飲まれる。西へ向かっても躑躅と籐黄には分かるだろう。」

浅葱「うむ。ならば西の集落を転々と当たろう。」


 躑躅「浅葱が西に動き始めたな。海に沿って動くのか?」

籐黄「躑躅は西の海沿いから飛んでくれ。我は浅葱の東に出てから追いかけよう。いずれ合流出来るであろう。」

躑躅「うむ。従おう。では浅葱と合流まで別れよう。」

 躑躅と籐黄は浅葱に合流すべく、海に向かった。


 浅葱「躑躅と籐黄は山を離れた後、東西に分かれ海に向かい飛んでいる。我らと合流を考えている様だ。」

瑠璃「とにかくこっちは海沿いの集落に。避難が必要な集落もあるはず。早めに手を打ってもらわねば。」

浅葱「御意。」

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