修練、其の十六、十七、十八

修練、其の十六


 金糸雀がキョーオウに戻って来て、技召スピードを見せつけられた茜と萌黄。

修練を夕方までで切り上げて、茜の家で食事会となった。

今回は葡萄も希望して4人でテーブルを囲む事に。

 街の市場へは馬を手放してしまったので、4人こぞって買い物を済ませ、家に戻っての食事だった。

 萌黄「余分の買い物は無いはずなのに、随分な量よ、これ。」

金糸雀「私のわがままでラムチョップにしてもらったので、重かったかも知れませんね。」

茜「4人分まとめて焼けるから待っててね。」

葡萄「楽しみですー。」

そこへお茶を淹れて萌黄が配膳する。

萌黄「葡萄も金糸雀の技召スピード、遠目に見てたでしょ?これは金糸雀が披露してくれたお礼の食事会よ。茜の焼くラムチョップは美味しいわよー。焼き加減がサイコーなの。」

葡萄「益々楽しみになりましたー。」

 先輩(?)使い手の経験談や、皆んな故郷を拠点に動いてる事などを色々語り合った。茜に関しては、鞭の名手と言われる前の努力の話を聞かせていた。

葡萄「茜さんの反射神経なら、直ぐにでも漆黒の竜を相手に出来ますよ。」

萌黄「そうね。実践あるのみって感じよね。」

茜「先ずはジャニオン王国の隣の国に行こうかと思ってるの。国土面積が広い国らしいから街も多いでしょ?」

萌黄「私がここに来る前に一狩りしたわ。ネパリアって街。」

金糸雀「あの時が近いって淡藤さんが言ってた。皆んな一緒に行動したら獣神達は何と言うでしょうか?私は誰かと組んで竜退治が出来たらといつも考えてました。攻撃が間に合わない時に、防御してくれながら一緒に戦えたらって……。」

萌黄「それが許されるなら茜が適任だね。」

葡萄「僕もそう思います。」

金糸雀「4人がダメなら、2組に分かれてとか……。」

 話題は今後の作戦会議に変わった様だ。

茜「隣国はプロキオート共和国と海を東に渡った国。」

萌黄「海向こうの国は私の故郷ラビルス国。かなり竜退治をしたから、淡藤さんが居るジアロック朝かな。海を渡らないならプロキオートね。茜の上達ぶり、淡藤さんに見せたいなー。」

葡萄「ネクロマットの街に会いに来てくれた山吹さんも、かなりの使い手の様ですし……でも、茜さんの事はどの使い手でも上達の早さに驚きますよ、きっと。」


 萌黄「世界中に13の国。会ったことがない使い手には会っておきたい気はするけど。獣神達は別行動を勧めるだろうなぁ……。」

金糸雀「茜さんの独り立ちが目標ですものね……。」

萌黄「2組に分かれるなら葡萄。アンタと私。で、金糸雀は茜と。私は防御を兼ねた攻撃。茜も同じ。」

茜「獣神達は認めてくれるかしら?」

萌黄「もう皆んな充分1人で竜退治が出来る。2組で行動したいって言ったらさ、『其方達は、』あ、錫の真似よ。『其方達は既に1人で十分な力がある。共に行動するのは無駄。』……なぁんて言われそうな感じー。」

葡萄「そうだよなぁ。渋紙も厳しいからなー。」

萌黄「私の故郷ラビルスは島国で小さいから1人で十分。2人1組に分かれるなら広い国へ向かうとか。」


 茜はテーブルに地図を広げた。皆んなはカップを隅に避けて立ち上がる。

茜「先ず2組が認められたとしたら、プロキオートとどこに向かうのが良いかしら?」

萌黄「プロキオートはまだ漆黒の竜は出そうだから賛成。もう1つの国ならジアロックかもっと南のシャインルクスかなぁ。」

金糸雀「私がここへ戻る途中、シャインルクス経由でメリプトに寄ったけど。シャインルクスは浅葱と瑠璃さんが居る。プロキオートより西のユロピクト王朝はどうかしら?同じ大陸よ。」

茜「他の使い手の居場所も知ってから、行き先を決める方がいいのかもね。」

金糸雀「南半球には使い手が4人居るから心配ないって。でも……あの時が来たらどんな事が起こるか分からないわ。」


 茜「文書には、太古の昔のあの時の事が記されてる。……世界が悪意に満ち、漆黒の竜が蔓延する。その時世界中で同時に起こる地殻変動を引き起こし、世界各地で起こる事象(地震による大地割れ、割れた大地から噴き出す溶岩の様な物、流動化する土地、流氷が溶け出し洪水を巻き起こす、厚い雲に覆われ雷鳴が轟き暴風が舞う、厚い雲に覆われ光を失い凍りつく街、雷鳴が鳴り止まず光に包まれる街)に襲われると。やがて核の山脈の上空には、集まった漆黒の竜が更に変化へんげし、闇雲やみくもに変わる。その闇雲が各地からも集まって来る。その闇雲を、使い手達が技召によって遥か宙の果てに、技召の柱を作り巻き込みながら、吹き飛ばさなければならない。その間には大地の怒りを鎮めるべく、大地の竜によってその異変を鎮めに向かう。大地の怒りが鎮まると再び大地の竜は眠りについてしまう。……思い当たる国に身を置けば早く対応出来ると思うの。」





修練、其の十七


 萌黄「大地が割れ、溶岩が噴き出す……火山が有る国と見る?流動化する土地……らしき国は?流氷が溶け出し洪水が巻き起こる国、海に面した国かしらね?厚い雲に覆われ、雷鳴が轟き光を失い凍りつく国?雷鳴が鳴り止まず光に包まれる国?……文書から察すると、最低5つの国が異常事態って事よね。」

茜「その国に目星を付けて行動すれば……。」

葡萄「使い手が皆んな集まって話し合うのが早そうですが……。集まる場所と言っても……。」

金糸雀「分かりやすい場所は核の山脈しかない。集めるにも獣神達の千里眼では会話が出来ない分、すれ違いも有りそうだけど。」

萌黄「国中が混乱するくらいの何かが起こったら、悪い奴らが台頭する。漆黒の竜がどれだけ現れるか……。」

茜「文書によれば、核の山脈の上空に漆黒の竜が集まって、闇雲に変わると記されてる。萌黄の考えは正しいと思うわ。」

金糸雀「意思を持った漆黒の竜達が、核の山脈の上空に集まるんですね。そして闇雲に変わる。」

葡萄「闇雲ってなんでしょう?漆黒の竜が変化したものでしょうか?それとも巨大な竜の塊になったりして……。」

茜「使い手達が、技召の柱を作って、遥か宙の果てに吹き飛ばすと記されてる。」

金糸雀「明日朝、丘で獣神達に相談してみませんか?私達使い手としての心の準備の為。あの時が来た時に先ず何をして核の山脈に向かえばいいのか。聞いてみませんか?」

茜「文書に記されてるのは、漆黒の竜を消し去りながら核の山脈に向かうべし……これだけよ。」

葡萄「やはり獣神達に相談するのが得策の様です。」

萌黄「……『土の者よ、其方に従おう。』……。」

葡萄「……ってまた錫の真似ですかー?似てませんよぉ、萌黄さーん。」


 萌黄「明日朝、獣神達に相談すると言う事でー。さーあ!残りのラムチョップ食べちゃおー。」

茜「萌黄ったら、考えてたらお腹減ってきたのね。」

金糸雀「実は私もですぅ。」

葡萄「僕も、同じ……です。」

萌黄「でしょでしょー。さ、茜。そうしましょーよ。」

茜「分かったわ。また焼いてあげる。」

萌黄の一言で張り詰めた空気は一転、和やかにディナーの続きになったのであった。




修練、其の十八


 翌朝早く……。

 丘の上に集合し、さながら8者会議となった。

茜「獣神達は夕べの会話はご存知でしょう。ご意見を賜りたく存じます。躑躅から順に、あの時の事や私達の今後の行動等を、話して欲しいの。」

躑躅「大地の怒りの時、もう2千年程前の事。使い手達の攻防虚しく、漆黒の竜は数を増し、群れを成して核の山脈上空に集まった。それは空で渦を巻き、やがて闇雲に変わった。」

葡萄「闇雲というのは竜の塊なのですか?それとも雲に変わった物なの?」

渋紙「闇雲は既に竜ではない。強い悪意が更に変化したもの。こうなるともう技召を放ったとて消す事は出来ぬ。使い手達は、鎮める竜の扉を開き、山の頂に全ての力を込めて柱を立てる。8つの技巧色に渦巻きながら、柱が伸びていき雲をも越える。アークは柱の力の増幅も担っている。」

錫「我ら獣神の吐くアークの力もあるがな。柱が闇雲まで到達すると、全ての闇雲は巻き込まれる。その時、闇の使い手が柱を徐々に浮かせる。それを合図に我ら、そして全ての使い手達の力で、遥か宙の果てまで飛ばすのだ。」

萌黄「世界中の様子はどうなるの?大きな被害はどうすれば?」

籐黄「我らが柱を作る前、鎮める大地の竜は世界を飛び回りあらゆる技召を使って鎮めていくのだ。柱が遥か彼方に飛ばされたのち、鎮める大地の竜が戻られ、再び眠りにつかれる。」

茜「わ、私は、まだアークの力を出しきれません。今、あの時が起こってしまったら、私は……私は……。」

躑躅「案ずるな火の者。其方は十分力を出せる。使い手達は全ての力を振り絞って柱に向ける。其方もそれに追いつけば良い。」

金糸雀「あの時の前に、私達は何をすれば良いのでしょう?」

籐黄「光の者には申したはず。大地の怒りの時が起こってしまったら、出来る限りの漆黒の竜を消し去り核の山脈に向かう事。我らの紋に収まるまでの間で良い。世界の全ての街から悪意が芽生えるとは考えにくいからだ。」

錫「左様。夕べ、其方達が話していたであろう。広い国に行くも良い。漆黒の竜が多く出る国に、その街に行くも良い。」

渋紙「されど其方達の時代に必ず起こるであろう。遅くも早くもな。その為の鍛錬を続ける事こそ今の使命。故にそれが行動。」


 金糸雀「夕べ私達が話していました。4人で、若しくは2人1組での行動は許されるでしょうか?」

躑躅「継承間もない火の者、経験の浅い土の者。しかも女性使い手が3人。……我は其方達に従う。」

渋紙「我も躑躅に同じ。協力し合うもまた力になろう。」

錫「風の者は寂しがりでいかん。其方達が選ぶが良い。」

籐黄「我も同様。獣神同士も情報を取り合える。」

 萌黄「獣神達の反対が無くてホッとした。……なら夕べの茜の最初の案、2人1組で行動しましょうか。」

錫「時間が有れば修練の手合わせも出来よう。依存は無い。いて風の者に意見するならば、我の真似は意味が無い。」

萌黄「またー錫ったらー。それは冗談なのー。」

錫「其方の寂しがりを癒やしてやっている。真に受けるな。」

萌黄「えっ?錫の冗談返しだったのー?嬉し〜〜〜。」

茜「だから萌黄ったら。いつか錫の怒りに触れて高い空から落とされるわよ。」


 渋紙「むっ!地鳴り!揺れるぞ。」

葡萄「ほんとだ。皆んな!地震が来るよ。」

 すると横揺れが来た。揺れはさほどでも無かったが、しばらく揺れが続く。

葡萄「大地の力が強いから地鳴りがしたんだ。キーンって音、聞こえませんでした?」

金糸雀「少し聞こえた様な……。光なら見えたかも知れません。」

籐黄「うむ。揺れの中心なら光が見えたかも知れん。」

茜「地震と火の能力は関連性が無いわ。」

萌黄「私も同じ。地震と風は関連性無い。」

躑躅「だが音や光は分かるだろう。気に掛けておく事だ。」

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