修練、其の十三、十四、十五

修練、其の十三


 円連弾、直列連弾を縦方向に放つ為、茜は試行錯誤中。萌黄は離れた所から見ている。

更に離れた場所には葡萄が自習中である。

 茜「円連弾は円を描く様に……放つっ!」先ずは右腕だけでぐるっと回して直ぐ放った。考えるところが有った様で試してみたが、

 茜「あら、これだとアークの力が込められない。……」

自分の掌を見つめながら呟いた。赤い技巧色が光っている。

両手をぐっと握りしめて拳にする。消えた技巧色が、拳の周りにまた現れた。

茜「これで同じ様にして……放つっ!」

両手を拳に変えて同じ様に試してみたが、これは上手くいきそうだ。

茜「アークの力をもう少し込めて……放つっ!」

放ってから消えるまでの技巧色の濃い輪が遠くに飛んでいった。

茜「円連弾はこれね。……左右同時に放ってから直ぐ別々に放ってみよう。うーん鞭の練習の様に的が欲しい。」

 すると背後から、躑躅が技巧色に光る技召のたまを吐いて、茜をかすめて遠くへ飛んで消えた。茜は振り返って、

茜「躑躅、ありがとう。そのまま好きなだけ連続して吐いてくれる?当てる為の的が欲しかったの。」

躑躅「其方の呟きは聞いている。手を貸そう。連続して幾つ必要か?」

茜「うーん……じゃあ6つからお願い。」

 そう言われた躑躅は少しの間で6つの球を吐いた。

茜は球に目掛けて両腕を使い円連弾を向ける。

3つは当てたが他は先まで飛んで消えた。

 茜「躑躅、もう一度お願い!」

同じスピードで飛んでいく球。茜は少し早く作り、早く放った。

今度はスピードは十分追いついていたが全て外してしまう。

 躑躅「其方は当てようとしてはいまいか?……そうではない。速さを感じ、追いつく速さで放つ。当てる意識ではない。同じ軌道を行くその速さを。加えてそれに上回る速さで追いかける様な要領。其方の心で感じるのが肝要かんよう。速さはよろしい。其方なら8つ放っても消し去れるであろう。」

茜「分かったわ。でも6つでお願い。確実に身に付けたい。」

躑躅「よかろう。次は軌道を散らす。心で軌道を感じ、その軌道に沿って追う様に速く放つ事。では始める。」

 躑躅の口から容赦無い速さで吐かれる球。

茜「飛んでいく順を感じ、スピードを感じ、軌道を感じて、追いつくスピードで放つ、円連弾、円連弾、円連弾っ!」

赤い技巧色が輪を取り巻きながら、放たれた順に向かっては弾け飛び、6つ命中させた。

 躑躅「うむ、上出来。もう少しアークの力を込めても良い。」

茜「分かった。もう一度お願い!」

 今度の躑躅は、スピードを変えたもの、強さを変えたものを含めて球を吐いた。

茜「強さが違う!スピードもじゃない!円連弾っ円連弾っ。くっ、円連弾っ!」

ここでタイミングがずれた円連弾を遠隔して操り、結果また6つ命中させた。……が、躑躅は納得していない。

 躑躅「何故1つを操った。今は操って消し去るのではない。」

茜「遅れてしまった。だからつい遠隔したの。」

躑躅「まぁ良い。其方が理解出来ているのなら良しとする。次は8つ、またバラバラの性質の球だ。」

 スピードを変え強さを変えた球が8つ。今度の茜は冷静だった。順に当てる事を無視して、左右の手でスピードを変えたりして放っていた。余裕で8つの円連弾が放たれ、命中して弾け散った。

 躑躅「ほう。其方は器用よのう。左右違う性質の技召を放つとはな。」

茜「鞭を両手使いした事を思い出したの。上手く出来てた?」

躑躅「強さが同じものだったが速さを良く使い分けた、問題は無い。我の言った通り、8つ出来たであろう。いや其方の今の技召なら10とおも蹴散らせる。ここで1つ言おう。今は縦に放った。最初の様に横で放つ時、左右が干渉しない様にする。頭の上で作らず、肩先で作る要領。後で試してみると良い。さぁ次は直列連弾、慌てず続けなさい。」

 見ていた萌黄は茜に並んで始めようとしている。

萌黄「茜は鞭を操る動きを応用してるんだね。私も見てないで自習するー。」

茜「萌黄……。頑張ろう!」





修練、其の十四


 南半球の大陸。ザイラル国とルードスター王国の国境付近。

白藍と紫紺が合流した様だ。荒れた大地に降り立つと、淡藤と烏羽が歩み寄る。

淡藤「ザイラル国の様子は?出て来たと言う事は、さほど被害は無かったか?」

烏羽「津波は心配したが、小さな波で良かった。幾つかの街も被害は無い。紫紺が、白藍がルードスター王国に飛んだと言うんで私も向かって来た。そっちの被害は?」

淡藤「ジアロック朝の中心の山で崩れた箇所がある程度。街は平屋ばかりで被害は無かった。」

烏羽「ルードスターでは核の山脈に入る前に、火の者が立ち寄った様だな。」

淡藤「あぁ。籐黄が先に入った後、錫、躑躅が合流して漆黒の竜を片付けた様だ。」

烏羽「火の者はまだ対峙出来なかったろう。」

淡藤「それはそうだが、結果どう片付けたかは分からない。しかし、火の者は素質が有る。さすが躑躅が探し回っただけはある。ジアロックの山で躑躅、錫、籐黄と合流したが皆女性使い手。しかも躑躅が選ばれし使い手は、躑躅と話せた。神通力に似たものを持っていて、心で話したと。近くにいた獣神達の声を聞いていた。」

烏羽「それは将来が楽しみな使い手だ。」

紫紺「今は北半球の東の国。躑躅、錫、渋紙の気配。」

烏羽「修練を始めているんだな。使い手それぞれ、修練に苦心するが、火の者は血脈けちみゃくでは無い。苦労も多そうだ。」

白藍「我の感じたところ、気の力に差は無い。上達は早い。」

淡藤「技巧の書をほぼ全て記憶している。躑躅が直ぐに胸の紋に収めジアロックに来た。」

烏羽「何!そこまでか。既に獣神相手の修練に移っているかも知れんな。……しかし、ルードスター王国。やけに霧が多い。」

淡藤「籐黄を従える金糸雀、錫を従える萌黄。共に城下町辺りで竜を片付けた様だったが、霧に邪魔されただろうな。」

烏羽「手分けして東西に別れよう。カヌレット城の城下町でまた合流しようか。」

淡藤「分かった。私は東から回ろう。では後ほど。」

 淡藤と烏羽はそれぞれ獣神の紋に収まって飛び立った。 


 メリプト王国の被害状況を見に渡って来た籐黄。

 金糸雀「さて籐黄。あとはネクロマットの街。葡萄の為にも、ちゃんと見た目を伝えてね。お願い。」

籐黄「御意。」

金糸雀「今まで被害は無かった。ネクロマットはどうかしら?」

籐黄「民は復旧に終始している様だ。問題無かろう。」

金糸雀「葡萄の代わりによく確認して、それからキョーオウに戻りましょう。」

 籐黄の翼を持ってすれば、1国を見て回る事はあっという間。ここメリプトは国土面積が小さい分、街を見て回るのも時間は掛からなかった。

 籐黄「街に入る。」

金糸雀「ここも被害は無い様ね。人の動きも落ち着いている。葡萄が暮らした造船所跡は港かしら?」

籐黄「うむ。港が見えてきた。」

金糸雀「あれかしら……?。ドックの隔壁が壊れて海水が入ってるけど。近付いて籐黄。」

 籐黄はドックの壁の上に降り立った。

籐黄「揺れで隔壁扉が外れたのだ。それで海水で満たされた。」

金糸雀「そっかー。葡萄の棲家、とても残念な事になったわね。……籐黄。千里眼をキョーオウに向かって送って。風が向かい風になる。海面スレスレで向かいましょ。」

 金糸雀は自分の棲家が無くなってしまったが、葡萄も同じ様に残念がるだろうと感じ、深いため息をついた。





修練、其の十五


 キョーオウの丘の上。茜と萌黄は並んでそれぞれ自習中。

茜「直列連弾は難しいわ。1カ所に集めた力を縦に伸ばす感じよねぇ……ううう。はっ!」

技巧色が均一じゃない直列連弾が放たれた。

 萌黄「確かに難しいわ。最初はスピードより均一に力を込めて全体が技巧色に包まれる様に。……集めた力を縦に伸ばす様にして、放つっ!」

細長い板状の技巧色がブレずに真っ直ぐ飛んでいった。

 茜「それなのよ萌黄。私、伸ばす感じがどうも掴めない。」

萌黄「うーん……例えるなら、剣をさやから抜きまでの動作に似ているかも。……腰の剣をサッと振り出す直前までの動作。」

茜「剣……扱った事ない。」

萌黄「衛兵さんの腰の剣を思い起こしてみて。」

茜「波動壁の応用では鋭い技召にならない……。」

萌黄「金糸雀なら上手く教えてもらえるかも。前に立ち寄った霧の城下町の時は参考になるんだけど……。」

 躑躅「籐黄が戻ってくる。向かいの大陸から千里眼が来た。」

茜「日暮れまでに少し教われそう。」

錫「優れた使い手でも得て不得手はある。身に付けようとするのも良し、他の弾技召を伸ばすも良しだ。」

躑躅「使い手によっては、三日月の如く放つ者も居る。それも時間の誤差を補う工夫。籐黄が来るまで色々試すが良い。」

 茜「三日月の様な直列連弾……。」

萌黄「茜。金糸雀の直列連弾は三日月みたいにれていたわ。スピードを維持する為のベストな形なのかも知れない。」

茜「少し反らせて作るのか……。中心から……上下に……そして放つっ!」

三日月っぽい技召が回転しながら飛んでいった。

萌黄「金糸雀のは回転はしてなかった。……中心から上下に……三日月を放つ。」

やはり回転しながら飛んでいった。

 錫「ブレずに、回転せずに放つのは両の腕の加減を変えるから。其方達は中心から上下に何故こだわる?その逆も試さねば比較も出来んだろう。」

茜「なるほど。錫の言う通り。……今度は上下から中心に……作って……放つっ!」

三日月では無いが、矢尻の様な形が作られて飛んだ。

 躑躅「火の者よ。三日月にこだわる必要は無い。使い手それぞれなのだ。其方の形でも十分。あとは気とアークの力の配分。」

 萌黄も試していた。萌黄の場合は三日月に近い。

萌黄「錫。的が欲しい。1つ吐いてみて。」

 錫から球が吐かれた。

萌黄「速さに追いつかない!はぁぁぁっ!」

鋭い三日月の直列連弾だったが、追いつかなかった。

 錫「上下から中心への動き、力の込める強さを続けてみると良い。其方に合った動きも身に付ける事。」

萌黄「ありがとう錫。繰り返し放って、自分の動きを見付ける。」

 隣の茜はひたすら繰り返し放っていた。

 茜「三角の様な形、矢尻の様に少し先がとがった形。スピードに強さを兼ねた形を見付けなきゃ。横向きで放つのが楽なのに、縦になると形が定まらないなんて……。連続何てまだまだ先ね。」

 2つ、3つと連続して繰り返した。どうやら茜の場合のベストな形は矢尻の様な形に落ちつきそうだ。

 萌黄は自分で放った円盾に向けて連続して放つ練習をしている。


 籐黄が到着、舞い降りた。金糸雀は葡萄の方に歩いて行く。

金糸雀「葡萄。ネクロマットの街、見てきたわ。でも……あなたの言ってた造船所跡、隔壁扉が壊れて海水で満たされてた。」

葡萄「そ、そうでしたか……。あそこは風が通って過ごし易かったんですが、残念です。でも一時的な棲家でしたから、地震でそうなっても仕方ありませんよ。確認してもらってありがとうございます、金糸雀さん。」

金糸雀「私の棲家にしていた洞穴も地震で埋まってしまったの。仕方ないわよね。お互い、別の場所を探す事になるわ。」

 葡萄はペコリと頭を下げた。金糸雀は茜達の方へ歩いて行った。


 茜「金糸雀。ルグトールの街は無事?」

金糸雀「ええ、大きな被害は無かったです。私の棲家の洞穴は埋まっちゃいましたが。」

萌黄「私の様に、転々と場所を変える方が気が楽だけど、愛着ってのもあるもんね。残念だったけど、地震相手では仕方ない。また違う場所を見つけて棲家にするしかないわね。」

金糸雀「地震に弱いのは分かっていたので、諦めはつきます。」

茜「それならいいけど、大丈夫?元気出して金糸雀。……そうね、金糸雀に元気になってもらわなきゃ、お手本が見られない。」

金糸雀「何のお手本ですか?」

萌黄「あの霧の城下町の時の金糸雀の直列連弾。連続して縦に放ったヤツよ。私達にはちょっと難しいのよー。」

金糸雀「分かりました。今晩はラムチョップで手を打ちます。」

萌黄「条件付き〜〜〜?どうする茜?」

茜「それがお手本の対価なら手を打ちましょう。」

金糸雀「直列連弾で良いですか?向こうに放つだけで構わないでしょうか?」

萌黄「金糸雀最速の直列連弾を披露して欲しいわ。円盾の大きいのを放つから、縦に切り刻んでちょうだい。」

金糸雀「分かりました。大きさに合わせてこちらも数を決めます。お願いします。」

萌黄「いくわよー。円盾っー!」

 背丈位の円盾が放たれた。

金糸雀「直列連弾っ、直列連弾っ」

金糸雀の腕が上下する度に放たれる黄金の直列連弾が4つ、円盾を追いかけて切り刻んだ。

 萌黄「今度はスピードを付ける。円、盾っ!」同じ大きさの円盾、今度はスピードが違う。

金糸雀「直列連弾っ、直列連弾っ!円連弾っ、円連弾っ!」

縦に切られた円盾が消える前に円連弾が横方向で切り刻んだ。

茜「作って放つまでのスピードが全然違う。技巧色が安定してる。金糸雀、凄い!しかも腕を上下往復で作れるなんて。」

萌黄「最大幾つ放てるのよ金糸雀。スピードと強さを安定した技召でどの位なのか……限界まで放ったことがない?」

茜「外にも内にも動かして作れるから、凄いスピード。」

金糸雀「じゃあ限界まで放ってみる。」

言うと金糸雀の手先だけじゃなく、ひじ辺りまで技巧色が包む。

金糸雀「直列連弾!……直列連弾!……直列連弾!……。」

叫ぶ度に8つ放っている。

互いがぶつかる事なく、縦に綺麗に並んで飛んでいく。24まで放って膝を地についてしまう。

金糸雀「これが……はぁはぁ。限界個数……ふぅーっ。円連弾も、作って放つスピードは同じなのですが……ふぅー。横に放つ方が楽です……ふぅ……。普段は左右交互に放つので数は少ないです。」

萌黄「やっぱり金糸雀は最速ね。」

茜「片手で放てるってのも凄いわ。力の集まり方が半端じゃない。肘の辺りにまで技巧色が現れてた……。」

萌黄「防御が追いつかない、故に、切り刻まれる。」

金糸雀「でも攻撃技召を弾きながらだと、強い防御には歯が立たないわ。別の動きに集中しながらと、ただ放つだけとは大違い。私の場合は、外れてしまって向かってこられたら身を交わす他ないんです。確実に当てなきゃ自分が危なくなる。だから数では半分位放つのが限界かも知れません。」

茜「感心するばかりだわ。金糸雀は身を守りつつの攻撃技召なのね。私はどちらも持ってる。もっと出来る様にしなきゃね。」

萌黄「単連弾でも同じ数かそれ以上放つ訳でしょ?」

金糸雀「単連弾ですか?」

 金糸雀は頭の中でイメージしながら指折り数えている。

金糸雀「安定した技召の連続の限界は片手で14、5位です。」

茜「両手同時だったら30って事⁉︎」

金糸雀「遠隔しないならって条件付きです。」

萌黄「防御技召が破れる……そして残りの単連弾で吹き飛ばされるか風穴が開く……。恐るべし光の使い手ね。」

金糸雀「私の技召は、先を読まれたら終わりなんです。躑躅にもっと先を読むようにって言われて、自分はそれを上達させないとって思いました。」

茜「それでも先読みすら追いつけないわ。見るだけで良かったって感じる。」

萌黄「金糸雀が単連弾だけってハンデ付きでも無理よ。」

 籐黄「光の者は気の強さも違う。故に多く連続出来る。漆黒の竜が向かって来たら、出来る限り当てて弱らせ、身をかわした後に追い討ちを掛けなければならん。」

茜「かわすために身軽だったりする?」

金糸雀「かわす程度ですが……ホントに避けるだけ。直ぐに攻撃に切り替えなければならないので……。」

 躑躅「今の光の者の技召は我には歯が立たない位。籐黄でしか太刀打ち出来まい。」

茜「やっぱりそうなんだ。1つ1つは見えなかった、全部が尾を引いて繋がっている様にしか見えなかった位。」

萌黄「金糸雀。単連弾の最高速で幾つか放って欲しいなー。」

金糸雀「じゃあ少しだけ。……単連弾っ!単連弾っ!」

まるでマシンガンの様に、両掌から数個の単連弾が放たれ遠くで消えた。

萌黄「はぁ〜〜〜。ただ手をかざした程度の間に⁉︎その間だけで左右4つずつ……。」

金糸雀「でも皆んなと同じ要領で放ってるんです。作って放つスピードは光の使い手の特性の様なものですから技召自体の差は無いですよ。」

茜「はぁー、もう感心しきりだわ。よーく覚えておかなきゃ。金糸雀、ありがとう。参考にして頑張る!」

金糸雀の並々ならない努力が思い浮かんだのか、決意を一層高めた茜であった。


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