修練、其の十、十一、十二

修練、其の十


 茜と葡萄で本気の修練が始まった。もちろんキャリアで言ったら葡萄のが上だが、茜には今までにつちかった反射神経、運動神経が有る。術を心得ている葡萄の方に少し分がありそうな手合わせではあった。

 茜「さっき葡萄が連続して放ったのは10連続まで。遠隔になるとそれが4つになった。先ずは向かって来るものから弾き返す!」

 波動壁を盾に弾き返していく。

茜「真っ直ぐ飛んでくるものは弾き返せる。その間を縫ってこっちからも放てるだけ放つ。1つなら遠隔出来そう。」

 葡萄「遠隔を混ぜて放つ。真っ直ぐと見せかけて左右に!……うっ。茜さんが遠隔で来た!」

真っ直ぐ放ったものが赤い技巧色と茶色い技巧色ですれ違う。

 茜の遠隔の1つはそれを幾つか弾き消えた。

続いて葡萄からの連続で放たれた、彼の限界の10連続。

 茜は数を感じ、円盾を両手で前に放った後、単連弾を両掌で2回、4つを放ち、更に1つずつを左右の手で遠隔した。

 葡萄の次が放たれるまでの少しの間が出来て、遠隔で左右から向かって来た。葡萄は気が付いていない。

茜は渦柱盾で10連続を交わしながら、遠隔で左右から葡萄に向けている。

 葡萄が遠隔で上に2つ放ったが、茜の左右からの単連弾が両脚をすくう様に命中。倒れ込んだ。

葡萄の放った上からの単連弾はもう遠隔出来ず、えなく茜の目の前に落ちて弾けた。

 躑躅「止めー!火の者の勝ち。土の者は遠隔された左右に気が付いておらんな。」

葡萄「遠隔されたものに気が付きませんでした。」

 葡萄に近寄る茜。

茜「大丈夫、葡萄?私の技召は火傷も伴うんだわ……ごめんね。……渋紙―!葡萄を紋に収めて!少し火傷をしたの、お願い!」

葡萄「僕は大丈夫。茜さんとは速さは互角だったのに、遠隔の単連弾に気が付きませんでした。」

茜「私も片手に1つならと思って操ったけど、渦柱盾が出せなかったら当たってたわ。」

 渋紙が寄ってきて葡萄を紋に収めた。神通力の葡萄の声が聞こえてくる。

葡萄「茜さんはやっぱり凄いや。僕ももっと頑張ります。」


 躑躅「さて、火の者。少し休むか続けるか。」

茜「私は大丈夫。次は萌黄とね。頑張る!」

 茜と萌黄の手合わせになった。2人共離れて位置に着く。

躑躅「では、始めっ!」

 萌黄「葡萄は限界個数を放って隙が出来た。私はそうならない様に……単連弾っ!そして遠隔っ!」

茜「単連弾?こっちへは幾つ?」両掌で放つ。間を開けてまた放つと、交わされて向かって来た球に気付き波動壁を立てて受ける。

 茜「こっちも遠隔で当てる!」両掌から遠隔しながら応じたが交わされ、すれ違ったが、それを萌黄に向けた。ほぼ至近距離に来た萌黄の球2つは、もう目の前。

茜「うっ!円盾―!」大きめの盾で弾いた。

 萌黄も向かって来た球2つを円盾で前に放ち、押し返す様にするとそのままどちらも消える。

今度の茜は放てるだけの単連弾を放った。8連、10連、12連。いや14連、16連。萌黄は防御で一杯一杯だ。

 茜は左右に遠隔を放つ。上に上げてそのまま萌黄に向かわせ、更に真っ直ぐ放つ。2連、4連。

上に放った球の遠隔に入る。上から真っ直ぐ飛んできたものが回転しながら向かった。

 萌黄も4連が向かって来るのに合わせて波動壁を立てる。今度は上からの防御、球防壁を使った。

茜は更に単連弾で真っ直ぐ連続で放つ。そして遠隔しながら左右に。また真っ直ぐに連続で放つ。そして左右の球に集中した。

 萌黄「円っ!盾っ!大っきいのー!」

萌黄は真っ直ぐ飛んで来るものにまた円盾を放つ。

 萌黄の左右を、茜の遠隔する球がかすめた。

萌黄「しめた!単連弾っ!」

ここで萌黄の出せるだけの単連弾が放たれた。茜は冷静だった。萌黄をかすめた2つを、今度は後ろから向かわせた。

 茜は最初に来た球に円盾を放ったが、その後から飛んで来るのに気が付いて波動壁で受け止める。

かなりの衝撃、ザザザっと後退しながら飛ばされた。顔をかすめた単連弾で前髪が少し切られた。

 萌黄の後ろに回った遠隔の球は両肩辺りに命中。前に突き飛ばされる萌黄。

萌黄「ま、まさか、かすめた2つを私に戻したの⁉︎参ったー。」

 躑躅「そこまで!風の者、一旦錫に収まりなさい。」

萌黄の両肩が焦げている。錫が近寄り紋に収めた。

 躑躅「火の者。大丈夫か?」

茜「私は……平気……髪が少し切れた位。」

躑躅「紋に収まるか?」

茜「紋に収まったら髪の毛まで元に戻ってしまうの?」

躑躅「其方が願えばそうはならん。」

茜「じゃあ、この切れた前髪は放っておいていいわ。これは大切な使い手仲間との、修練の思い出として心に刻む。」

躑躅「それもよかろう。」躑躅は胸の紋に茜を収めた。




修練、其の十一


 南半球の大陸。ジアロック朝。身を置いていた国を見渡せる山。そこから飛び立ち、街を転々と見て回っていた獣神白藍。

淡藤「この国は平屋ひらやの建物ばかりで被害は山の裾野が崩れた位の様だ。西のルードスター王国に向かう。」

白藍「紫紺が北へ飛んだ。」

淡藤「ならば合流してザイラル国の様子も聞けるだろう。西へ向かってくれ白藍。」

白藍「承知した。」


 一方の紫紺。ザイラル国の被害を確認してから北のルードスター王国に向かっていた。

紫紺「白藍が北東の国から西へ飛んだ。どうやらこちらと同じ国に向かっている。」

烏羽「ならば都合がいい。合流して情報交換出来る。近くなったら千里眼を向けて知らせてくれ。」

紫紺「御意。」


 赤道の大陸、マクロネス共和国。ワンダルキアの街の上空に戻ってきた黄檗。

山吹「街を確認したい。そのまま回ってくれ。」

黄檗「白藍と紫紺が動き出した。隣国に向かっている。籐黄が光の大陸へ戻っていた。」

山吹「ルグトールの街か。何事も無ければいいが……。」

黄檗「心配には及ばん様だ。籐黄は大陸を西に。隣国に入った。」

山吹「メリプトに入ったか。さすが籐黄。速さには付いて行けんな。で北半球の大陸の東の様子はどうだ。躑躅と火の者は。」

黄檗「躑躅、錫、渋紙は同じ所。おそらくは、まだ火の者の修練をしているのだろうな。」

山吹「今回の地震には気が付いているんだろうな。」

黄檗「案ずるでない。渋紙と土の者なら当然気付いている。周囲を確認に回ってからの修練開始と見ていい。」

山吹「この街の様子は?」

黄檗「ここは落ち着いている。復旧に動き回る民が見える。」

山吹「ならば他の街へ向かってくれ黄檗。」

黄檗「御意。」


 赤道の大陸を縦断し、籐黄は隣国メリプトに入って、近くの街を見て回っている。

籐黄「この街は被害は無さそうだ。次の街に向かう。」

金糸雀「ネクロマットは最後に回って。次は南西の小さな街へお願い籐黄。」

籐黄「うむ。この国は街から街がかなり離れているのだな。途中の我の見た目は必要無いだろう。」

金糸雀「分かったわ。街に着いたらまた見た目を送って。」

籐黄「承知した。」





修練、其の十二


 キョーオウのいつもの丘。修練で少し火傷を負った萌黄と葡萄だったが、もう獣神の紋からは出ていた。

3人は茜の話で持ちきりだった。

 萌黄「茜の反射神経は鋭いわ。感心した。後ろに交わしたから気を抜いちゃった。」

茜「今日の修練はかなりキツかったわ。これが精一杯の力。」

葡萄「もう茜さんは謙虚ですねー。凄かったですよ。防御しながら攻撃するスピードは全然問題無いと思います。……で、茜さん。前髪、少し長さが変わってません?」

茜「あ、これ?萌黄の技召を受けた時に衝撃で後ろに後退したの。その時に切れたのよ。」

萌黄「それは躑躅の紋に収まれば回復したはずじゃない?」

茜「ううん。しばらくこのままにしたい。だって、大切な使い手仲間との修練の思い出だから。」

萌黄「名誉の負傷ってとこね。茜が上達するのは早いだろうから、直ぐに別の使い手とも本気の修練が出来るわよ。」

茜「そうはいかないわ。まだ円連弾、直列連弾……。まともに受けたら死んじゃうわ〜〜〜。」

萌黄「その2つの攻撃技召は、作って放つまでに間があるの。男性使い手はどうだかよく分からないけど、山吹さんは得意じゃないって言ってた円連弾も直列連弾も、防御技召で離れて受け止めたけどかなりの衝撃。」

錫「あの時の受けた防御技召の強さ、放つ速さの加減で緩和出来たはず。」

萌黄「そのスピードに追いつけてなかったのよねー。」

錫「速さに追いつける様、我が手合わせしよう。」

萌黄「きょ、今日はこの辺にしておきましょ。ね、ね、皆んな。」

茜「スピードかぁ……。攻撃も防御もどちらにも必要よねぇ。私、またしばらく自習しなきゃ。」

葡萄「僕も同じです。もっと隙を減らして、早く対処出来る様にしないと、もっと怪我しますからね。」

茜「葡萄は技巧土の術。重かったわー。厚い防御技召を作らないと衝撃を受けきれない。大きな岩がぶつかった感じがした。で、萌黄の攻撃技召の衝撃では前髪が切れた。」

萌黄「使い手それぞれの術の特徴よね。茜の攻撃技召は確かに火の使い手そのもの。当たって火傷したもの。」

茜「私、日暮れまで自習するわ。2人は?」

 萌黄と葡萄は顔を見合わせてから、

萌黄「茜の自習の見物。」

葡萄「僕も渋紙に見てもらいながら自習します。」

 かなり離れた場所に移動する葡萄、その側に渋紙が横たわっている。躑躅と錫も横たわり自習の見物といったところか。

萌黄「茜の自習を見て私も参考にしまーす。」座り込む萌黄。

苦笑いしながら少し離れて立ち位置を決める茜だった。

 茜は離れた所に立って背を向けた。

茜「円連弾は……手で円を……描きながら、放つっ!」

円盤状に放つと、赤い技巧色を引きながら飛んで行き消えた。

茜「作って放つまでのスピードが単連弾には劣る訳ね、なるほど。……次は直列連弾。剣を振りかざす様に放てばスピードは遅くない気がする……両腕を振り……剣の様なものを……放つっ!」

剣という鋭さは無いが、細い板状のものが放たれた。

 茜「相手を切り裂く鋭さが要るわ。もう一度。……心で描いてから放てそう。……円連弾っ!」

薄く鋭いリングが放たれた。

茜「うん。これが理想。切り裂く強さが有るかが問題ね。」

 円盾を放つと同時に、円連弾で追う様に放った。先に放った円盾は、直ぐ後に放った円連弾で2つに切り裂かれ消えた。

 茜「円連弾は縦に放つのが面倒ね。」

言うと同じ様に円盾を放った直後に直列連弾を放った。やはり先の円盾は2つに裂かれて消えた。

 茜「次は連続。円盾を大きめに放てば外さない。」

円盾が放たれた。直ぐに

茜「円連弾っ!」3つを放てた。円盾を裂いたのは最初の円だけ。後の2つは互いにぶつかり消えた。

茜「何なに⁉︎ぶつけて消えてしまったって事⁉︎……うーんコントロールが難しい……。じゃあ次。」

 円盾を放ち、直後に直列連弾。同じ3つを放つ。やはり切り裂いたのは最初のだけで、残りは互いにぶつかり消えてしまう。

茜「2つならいける。よしっ。」言うと円盾を放った直後に円連弾。2つであったが、どちらも円盾を切り裂いた。

 茜「ふぅー。2つが限界かなぁ。じゃあ次。」

同じく円盾を放ち、直後に直列連弾を2つ放った。円盾を見事に切り裂き消えた。

 茜「2つ放って間を開けるしかないかなぁ……。」

茜はちらっと萌黄を見る。萌黄は立ち上がり側に来た。

 萌黄「2つ放つか3つ放つか、それとももっと必要かも。でもそれは相手の大きさに合わせればいい事よ。渦柱盾を前に放ったとしたらどお?」茜は渦柱盾を前に放つ。

背丈より少し長い程度の柱が放たれ、直後に円連弾を作れるだけ放った。互いがぶつからずに渦柱盾を輪切りにした後に消えた。

 萌黄「でしょ。大きいものには数を使って放てばいい。体力の無駄にならない様にするの。波動壁を放って切り裂くのはちょっと面倒かな。……波動壁!」萌黄から放たれる。

すかさず円連弾。萌黄は縦に上手く放つ。3つ、4つ、5つ放たれ、波動壁は細かく縦に切られて消えていく。

 茜「萌黄!その縦方向の放ち方。教えて!」

萌黄「横はそもそも腕が横に動かせるから放ちやすい。縦方向は下側に力を集めておいてギューンって伸ばして放つ感じよ。だから要領としては、波動壁を下から作るイメージかな。放つのは自分の放つって意識だけ。」

 茜「やってみる。……うーっ直列弾!」

萌黄「うんうん。まあそんな感じだけど力のバランスが大事。上も下も強さは同じに放てなきゃ、今のそれは弱い。切り裂けた部分と当たっても切れずに弾ける部分が出来ちゃう。」

茜「波動壁でやった。作り始めと終わりの力を、均等にするのと一緒ね。」

萌黄「うん。その通り。じゃ、また下がって見てるわ。」

日暮れまで、茜の修練は続きそうだ。

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