修練、其の四、五、六
修練、其の四
山の中腹、夕べ雨を
渋紙「むっ。地鳴り!揺れるぞ土の者!」
葡萄「あ、僕も聞こえた!」
直ぐに突き上げる様な縦揺れが来た。続いて横に揺れ始める。
渋紙「土の者。空に上がる。」
言うと渋紙は葡萄を紋に収めて舞い上がった。森から飛び立った多くの鳥達が見える。
ドンという縦の揺れで茜達が驚く。
茜「わっ、地震!」
その後、横揺れが長く続く。キッチンの食器が落ちる音が聞こえている。萌黄と金糸雀はテーブルの下で様子を伺っている。
萌黄「茜―。大丈夫―?」
茜は揺れに気付いてベッドにくっついていた。
金糸雀「この揺れは大変だわ!揺れが収まったら、私外を見てきます。」
渋紙は近い街に飛んだ。白い煙があちこちで上がっている。
葡萄「あそこの街では火事が起こったかな?煙が立ってる。」
渋紙「城に向かう。」
葡萄「せっかく片付け始めた城壁がまた崩れてるかも。」
渋紙「うむ。かなりの揺れ。石造りの城でも崩れているだろう。」
街を後に城に向かって飛ぶ渋紙。
オーロックス公国、ルグトール。金糸雀が居た街では、柱の様な崖がほとんど崩れ無惨な光景に変わり果てている。
南半球の大陸、ジアロック朝に身を置いていた淡藤のところでも揺れがひどかった。
淡藤「山の裾野で崖崩れが起こったな。白藍、煙が上がっている街に飛んでくれ。」言うと淡藤は白藍の紋に収まり舞い上がった。
同じ大陸の南。ザイラル国、ジェイドの街。港に建つ頑丈そうだった倉庫街では壁が所々崩れている。
紫紺「闇の者。海から弱い津波が向かっている。」
烏羽「岸壁や港の人達は高台に避難を始めた。紫紺、次は国の城に飛んでくれ。」
紫紺の紋に収まる烏羽、城へ飛び立った。
シャインルクス王朝、オールクスの街。小島の頂で浅葱と瑠璃が様子を見ている。
洞窟で過ごしていた山吹は慌てて黄檗に収まり、街を見に飛び立っていた。
黄檗「どうやら他の獣神達も周囲を見て回っている様だ。」
山吹「久しぶりに噴火したと言っていた山がまた火を吹かなければいいが…。」
黄檗「山が膨らみつつある。また噴火するのも近いだろう。」
山吹「赤道の大陸も危なそうだ。瑠璃の身体は良くなってきた。私はワンダルキアが心配だ。一旦瑠璃に話した後、赤道の大陸に向かってくれないか。」
黄檗「其方に従おう。風に逆らい向かっても、半日で着ける。」
山吹「すまない黄檗。」
浅葱の紋から出て街を見ていた瑠璃。
瑠璃「街で白い煙が上がり始めた。火事が起こったのだろうか?」
浅葱「消火の済んだ建物の様だ。大事には至っておらぬ様子。人々は落ち着いている。」
こういった事象の後は、必ずと言っていい程に略奪や強盗と言った
北の小さな街を離れ、ジャニオン城に近付いた渋紙は城の様子を感じながら飛んでいた。
渋紙「城の人々は落ち着いている。大事には至っていない様だが、近くまで向かうか?」
葡萄「そうだね。石造りだから心配無いと思うけど、また城壁は崩れているかも。被害を確認しようよ。」
渋紙「御意。」
茜の家では、キッチンの棚から落ちた食器を片付けている茜と萌黄。落ちた食器以外の被害は無かった。金糸雀は外の様子を見に出ている。
萌黄「いやー。かなりの地震だった。皆んなが使っていたカップが全部割れちゃったね。」
茜「片付け終わったら、新しい物を出すわ。」
そう言うと暖炉の上の倒れたフォトフレームを立てた。
萌黄「私達も手分けして街に出る?」
茜「そうね、金糸雀が戻ったらどんな様子か聞いて、それから決めましょ。金糸雀はルグトールの街が気になってると思うの。籐黄ならそんなに時間も掛からないって言ってたから。帰ってもらって様子を見た方がいいんじゃないかな。」
萌黄「そうだね、茜がキョーオウを思う気持ちと同じで金糸雀も故郷は心配だよね。……で割れた食器はどこに捨てればいい?」
茜「あ、裏に木箱があるからその中に捨てて。」
萌黄は外に出ると空を見上げる。食器を捨てて戻ってきた。
茜「ありがとう萌黄。空、どんな様子?」
萌黄「あぁ。竜は出てない。こういう時って、ドサクサに紛れて強盗を計画したり、略奪したりする輩が必ずいるのよねー。計画されてから実行ってなると、空に漆黒の竜が現れるけど。突発的に略奪が始まったりすると分からないからなぁ。」
茜「そうかー。企てによって現れる……だもんね。その輩は衛兵さん達に任せておくしかないなぁ。……あ、金糸雀。おかえり。」
金糸雀が籐黄に収まって、周囲を見回って戻ってきたところだ。
金糸雀「大きな被害は無さそうよ。街の人達に騒いでる様子も無かったし、大丈夫みたい。」
茜「ねぇ金糸雀。あなた、ルグトールに戻ったら?心配でしょ?」
萌黄「地震の被害がありそうな街なんでしょ?一度見に行っておいでよ。茜の修練はまたここに戻った時にお願いするからさ。」
金糸雀「皆んな……ありがとう。じゃあ私、行ってくるわ。」
萌黄「籐黄には、東に向かって高く飛んで、西から東への風を見つけてもらうといいよ。そうすれば籐黄ならあっという間に着けるわ。気を付けてね金糸雀。」
茜「また会いましょう金糸雀。」
金糸雀は家の裏で籐黄の紋に収まり舞上がっていった。
修練、其の五
茜の家。金糸雀を送り出した2人。
萌黄「丘に行きましょ。葡萄が来るまで少し術の修練。」
茜「うん。そうする。」
茜は本当にあの時が来たらと思うと不安でならなかった。
早る気持ちも有り、焦りも出ていた。
錫と躑躅は丘に向かい飛んでいた。
躑躅「火の者よ。焦らない事だ。じっくり術を身に付けよ。にわか技召を放ったとて効果は無い。常に冷静沈着に努める事だ。」
錫と躑躅が降り立つと同じくして、渋紙も降りて来た。
3人は皆、紋から出て話し始めた。
茜「葡萄。北の街やジャニオン城の様子はどうだった?」
葡萄「街に被害は無いみたいだった。城の城壁、せっかく片付いた様だったのに、その横がまた崩れていた。崩れてしまった大きな石壁があったら渋紙に運んでもらってもと思ったけど、大丈夫みたい。」
茜「ありがとう葡萄。城が大事にならなくて良かったわ。」
葡萄「あれ?金糸雀さんは?」
萌黄「彼女には故郷に帰ってもらった。ルグトールの街の地形の話を聞いていたから、今回はかなり被害が出てると思って。」
葡萄「海沿いの街だもんね。柱状の崖じゃ崩れてもおかしくない揺れだったからなぁ。ここジャニオンの国は地面が柔らかいみたいで地震に強い土地だなぁと感じました。さすがに山にいて地鳴りが聞こえましたが。」
茜「地鳴りって?」
葡萄「強い地震の前に地面がキーンて鳴るんです。大地の力が伝わって来る音みたいなものです。」
萌黄「私は風を感じられる。葡萄は地面を感じられるって事ね。さすが土の術の使い手だわ。」
茜「私は……火を感じられる様になるかしら?」
萌黄「うん。そのうち感じられる様になると思う。火と言っても色々だけど、小さいものから大きいものまで全てよ。……風も一緒なんだー。空高い上空の風は大きいもの。自分の直ぐ周りの空気の揺れは小さいもの。全て感じられる。」
葡萄「茜さん。僕の場合もそうです。今日の地鳴りは大きいもの。靴で蹴って転がっている小石の響きは小さいもの。」
茜「へー。皆んな使い手の特性が身に付くんだ。となると私の場合は……。?」
葡萄「例えば火山の噴火の様な火が大きいもの。マッチで点けた火が小さいもの。って感じでしょうかー。萌黄さん。」
萌黄「えっ?私の例えを聞くの?うーん、朝日や夕陽、太陽の火が大きいもの。暖炉で消し残った炭の火が小さいもの……かしらー?」
茜「太陽の火は直接感じられるものなのかなー?暖炉の火は分かるけど。」
萌黄「まぁまぁ。どんな火が感じられる様になっていくかはこれからの茜の意識の事。朝、陽が登るのを感じるのもその1つかもね。茜早起きだもん。……ま、そのうち黙ってても感じる様になるわ。」
茜「それも修練の一つね。覚えておく。」
萌黄「獣神達はすっかりリラックスしちゃってる御様子なのでー、今日は茜の防御技召をやろうか。茜は防御技召を作る練習。」
葡萄「萌黄さん!僕もお願いしたいです。」
萌黄「気の球みたいに作っても防御にはならないから、アークの力を込めないとダメ。攻撃技召を受けると怪我するから、最初は怪我しない程度でやりましょ葡萄。」
茜「じゃあ私と葡萄で萌黄の攻撃技召を受ければいいのね?」
萌黄「私の攻撃技召は、もちろんアークの力は最小にするけど、直接受けたら衝撃は有るわ。そこも考えながらやる。その前に、作るところからね。」
獣神達は、ようやく始まったかとでも言いたそうに、ゆっくり起き上がった。
萌黄「茜は先ず柱、壁、球のそれぞれを作り出すのをやってみよう。先ず私が一通りやってみせるわ。」
茜「コツみたいなものを、説明しながらにしてくれると嬉しいんだけど……。」
萌黄「オッケー。じゃあ先ず簡単なのからね。掌に気を集めて、前に送る円の盾。
そこに錫から技召の球が吐かれて萌黄に向かって来た。
萌黄は円盾を放ち交わした。
萌黄「……って感じで跳ね返すイメージ。今の錫の球は手加減中の手加減。スピードも強さも無くて、衝撃も無いけど、一応私は放ってみた。これは腕が上がれば連続で放てるし、大きくも作れる様になる。次は
また錫の口から、今度は2つが吐かれて飛んできた。
萌黄は飛んで来る位置に、技巧色に光る渦柱盾の柱を立てる。
直ぐに球が当たり弾き返して消えた。
萌黄「今は2つの球から防ぐ為に2本の柱だけど、壁の様に立ててもいいし、タイミングに合わせて順に立てるのも有りよ。今度は
錫は5つの球を順に吐いた。バラバラのスピードだった。
萌黄「はっ!はぁぁぁっ!」
萌黄はついキツめの気合が入っている。1度の衝撃で消えない様に厚く作り上げた波動壁は5つの球の内3つ交わして消えるが、すかさず波動壁を作り前に放った。残り2つは放たれた波動壁と共に弾けて消えた。
萌黄「ふぅ……。危うく衝撃喰らうとこ……。さて、最後は
茜は錫の様子を伺っている。
錫の口から大きい技巧色が光るとかなりのスピードで萌黄に向かって飛んできた。
萌黄「うっわ〜〜〜。球防壁っ!大っきめのヤツっ!」
萌黄を包む様な球防壁に向かって、錫の球は球防壁の曲面に合わせて流れる様にして後ろに散らばった。
気が付くと錫の姿が無い。
既に萌黄の真上を旋回して、萌黄を掴んだ。そのまま上昇する錫。
萌黄「錫―!それは困るー。やめて〜〜〜!」
結構な高さまで上がると萌黄が離された。
萌黄「わ〜〜〜ぁっ、あぁ〜〜〜球防壁―っ!」
作られた球防壁に着地、弾んで……転がった。
萌黄「だからやめてって言ったのに錫ったらー。」
舞い降りた錫は何食わぬ顔で横たわった。
萌黄「こ、これが球防壁でした。……ホント苦手なのよ。」
躑躅「風の者。球防壁は万能なり。其方の応用が足りん様だ。錫の吐いたものの防御はまぁ良い。落ちる自分を守るには衝撃が無い様作らねば。例え咄嗟な事でも冷静に。あれでは半球体の塊ではないか。衝撃から身を守るのだ、塊の壁に着地したら強く弾んでも仕方あるまいな。」
茜「形の向きを変えて、柔らかく作るのかしら?」
修練、其の六
萌黄のトンデモ講義が終わって、茜は頭の中でかなりまとまってきた様だ。
錫「左様。火の者の理解の通り。今風の者は地面に球防壁の面を置いたが、その逆が理想。身を守る為に柔らかい球防壁にする。」
萌黄「なーるほどー。私はいつも逆だったから弾んで転がっちゃうんだ。んでー、柔らかく柔らかく、ね。」
渋紙「手本としては上出来。では場所が平らでない所なら如何にする?さぁ土の者?」
葡萄「ぼ、僕に振られましたかー。黙って見ていたかったんですが……。え、えーと萌黄さんの様に上から落とされたとして、下が平らな所じゃなかったら……。うーん、球防壁は弾んでしまう形のものってのが強いからー……。うーん……分かりません。」
躑躅「防御技召の全ては同じ。円盾、波動壁、渦柱盾。共に厚さ、硬さを考えその場に合った
葡萄「なるほどー。つい漆黒の竜の体当たりばかり気にするし、修練の相手からは攻撃技召が来る。そればかり考えてた。自分を守るべき時のパターンは様々だもんね。竜に掴まれて空から落とされるとか、翼で
渋紙「冷静に、常の冷静にだ。ならば自ずと最善の対応が出来る。攻撃からの防御も正しいが、身を守る受身もまた防御。」
萌黄「その時に合った防御技召を使うって事で、さー茜は自習してて。今度は葡萄にやってもらう。……さ、葡萄ここに立って。錫―お願いねー。」
葡萄「萌黄さんからの攻撃技召じゃないんだ……。」
萌黄と立ち位置を交代するなり錫から技巧色の球が飛んできた。
葡萄「うわっうわっ、円盾っ!」
少し放つタイミングが遅すぎて衝撃で尻もちを付く葡萄。
萌黄「早く立ちなさい葡萄!」
既に次は2つ飛んで来た。
葡萄「波動壁―!」今度は上手く交わせた。……が、波動壁が消えるともう2つ。次が来ている。
葡萄「渦柱盾、渦柱盾っ!」1つは交わしたが、2つ目の渦柱盾は力が弱かった為に衝撃を受ける葡萄。身体2つ分程飛ばされた。
その間に舞い上がっていた渋紙に掴まれ舞い上がる。
高い位置から落とされる葡萄。一瞬怯んだが、球防壁を作って着地出来た。身体は弾んだが、萌黄のそれとは違い上手く立って着地出来た葡萄。
萌黄「慌てちゃダメよ。冷静に。いつ何が有るか分からない。周囲を感じていなきゃ。」
言うと今度は萌黄が渋紙に掴まれた。
萌黄「あ〜〜〜っ……冷静にー!球防壁―っ!」
今度は面を上に球防壁を作り、そこに落ちる萌黄。弾んでしまっていたが立って着地は出来た。
ポーズを決めている萌黄に、
錫「風の者、上出来ではないか。弾むのは衝撃を上手く緩和している。立てる様に弾めばよい。……して、着地の時の身体の形は無駄。その隙にまた掴まれる事になろう。」
萌黄「もー錫はちゃんと褒めてくれないんだからー。ポーズは冗談よ冗談。……修練なのにごめんなさい。」
錫「我が常々言っておろう。それが其方の隙と言うヤツだ。まぁそこが其方らしいがな。」
茜は離れた所で自習中。
茜「円盾は比較的作り易い。イメージし易いと言うか、心の中でも形が現せる。向かってくるものの強さ、動きを感じて……。」
赤い技巧色の大きめの円盾が出来上がり、遠くに放つ。
茜「連続では無理だわ。大きさが小さいものしか出来ない。これは何度もやらなきゃ……身に……付か……ない……わ……ね!。」
6連続の円盾が放たれた……が、顔位の大きさの円盾。連続して放っているのはいいのだろう。
躑躅は茜の姿を優しい目で見ていた。
茜「波動壁……気で壁を作るイメージかなぁ?前に壁をイメージする方が正解?うーん……。」
試行錯誤しながら波動壁を作ろうとする。が、掌の幅でしか作れないのである。
茜「気が先走ってるのかしら?アークの力が込められてないのね。技巧色が薄い。……前に壁を……作るっ!波動壁っ!」
熱く熱せられた鉄の壁の様なものが現れてしばらくすると消えた。
茜「今度は何?アークの力が強いから?まるで熱く燃える板みたい……波動壁は気とアークの力の合わせ方が難しい……。技巧色が濃くなって、更には燃える様になって現れる訳ね。前に壁を作るイメージなのは分かってきたけど難しい……。」
茜は両腕をゆっくり左右に広げる。
同じ様な熱く燃えたぎる鉄の板の様、しばらくしてまた消えた。
茜「気だけだと掌の幅……気を少なく込めると長く現れたまま……私の動くスピードで変えられるかも。……前に壁を……少し早く……作るっ!……波動壁!」
濃い技巧色が揺らめく見事な壁が出来た。
茜「これだわ!……でも厚さの調節が出来ない。この部分を重ねて練習ね。えーと、円盾は連続で放つ練習。……んー。波動壁は作り出すスピードと厚さの練習っと。」
ペンでメモを始めた茜。
茜「先ずこの2種類を続けよう。」
大きい円盾を作っては消す繰り返しから、作ったら放ちまた作って放つ繰り返し。徐々に技巧色が濃い円盾になり、連続のスピードが速くなってきた。
茜「うん、円盾は比較的楽そうね。さて波動壁ね。よしっ。」
両腕をゆっくりから徐々に速く動かし、出来た波動壁を見ている茜。ゆっくり始めた方は長く残っている。技巧色も作り始めが1番濃い技巧色なのに気付く。
茜「気とアークの力のバランスが良く分かるわ。私的には燃えたぎる様な波動壁を前に放ちたい気がする。漆黒の竜にダメージ与えられそう。でも防御としてはダメなんだわ……。攻撃技召を受けて衝撃を感じないと無理ね。怪我してもやらなきゃ、身に付きそうにないわ。」
すると躑躅が神通力で話してきた。
躑躅「火の者よ。円盾の術は上出来。其方の思う通りで上達する。悩む事ではない。さぁ我が技召の球を放とう。波動壁で受けなさい。飛ばされても何も無い場所に背を向け、合図しなさい。」
茜は自分の後ろに何も無い所に歩いて行くと、神通力で答えた。
茜「躑躅、お願いします。遠慮無くやって。」
茜は躑躅の口から技巧色が見えた時、飛んでくる軌道を思い浮かべながら両腕の動かすスピードを決め、
茜「波動壁っ!」
球を弾き飛ばすと壁が消えた。躑躅が話しかけてくる。
躑躅「軌道を考えて作るのに間に合っているのは、球が遅いからだ。故に波動壁を作る速さが遅い。次は我からの速さを変える。波動壁をもっと早く作る事が必要。いいな。」
再び吐く躑躅の球はさっきより速い。
もう余計な事を考える余裕が無かった。ただ反射的に波動壁で受けた感じになった。かなり弾き飛ばされた茜、起き上がりながら躑躅に話す。
茜「躑躅。今のは壁の厚さが足りないの?」
躑躅「左様。速さに追いついていないのもあるがな。我の吐く球をその場で弾き飛ばす壁が最良の波動壁。まだ続けられるか?」
茜「もちろん、身体は何とも無いわ。元の所に戻ったら直ぐお願い。」
離れた場所で、萌黄 対 葡萄で続けていた2人が、弾き飛ばされた茜を見ている。立ち上がり、歩いて行くのを見て安心した2人は再び始めた。
茜「作るスピードに追いつかず、アークの力が足りない。もっと強くアークの力を込めながら早く壁を作る……。慌てず冷静に。」
元の立ち位置に来たのを察した躑躅が直ぐに放ってきた。
茜「来たっ!波動っ壁―っ!」
球が当たると同時に波動壁が消え、また少し飛ばされた。
茜「躑躅、今のはどお?」立ち上がりながら話しかける。
躑躅「うむ。今のはまずまずだ。あと少しのアークの力と作る早さ。まだ大丈夫か?」
茜「立ち上がれなくなるまでお願い!」
また立ち位置に戻るとすかさず球が放たれた。
茜「うっ!波動壁っ!」
波動壁ごと身体1つ分程後退するも持ち
茜「今のはどお?」
躑躅「今のが使い手の攻撃技召なら良しとしよう。だが後ろに押されてはいかん。立っている位置で衝撃が無い位がいい。漆黒の竜の体当たりにはもっと厚みが必要。厚みが増せば強度も増す。まぁ厚みはまだ考えずともよい。立っている位置で衝撃を交わすのみ。ではもう一度。」
躑躅に遠慮は無い。同じ様に飛んできた。
茜「後ろに持って行かれない強さ。波動壁っ!」
今度は上手く交わせた様だ。
躑躅「うむ。では次は少しの
茜「分かった。お願い!」
先ず1つ目が、間を開けて2つ目、共に飛んでくる。
茜「波動壁っ!くっ、波動壁っ!」
多少よろけたものの立ち位置は変わらず交わせた。
続けてまた飛んできた。上手く1つ目を弾き返したが、その時、壁の技巧色が薄くなり2つ目の時に後ろに飛ばされた。
茜「1つ目を弾き返した時、波動壁の技巧色が薄くなったのは私がアークの力を弱めてしまったせいね。」
言うと立ち上がり立ち位置に戻る。
茜「もう一度、お願い!……(今度は上手くやる!)。」
同じ様にまた飛んできた。連続の波動壁は難なくこなせた。続けてまた来る。
茜「今度は大丈夫!波動壁っ!…ううっ!」
1つ弾き返しもう1つ。
茜は1つ目を弾き返すと波動壁のアークの力が弱まると感じ、2つ目を弾く前にアークの力を加えて上手く交わせたのだった。
躑躅「火の者。上出来だ。1つの壁で連続して交わす為の要領が分かっている。其方の通りよ。疲れてはいまいか?少し我の紋に収まるがよい。」
そう言うと胸の紋に茜を収め、躑躅も横たわった。
躑躅は笑みを浮かべているかの様に見えた。
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