遭逢のニ、其の七、八、九
遭逢のニ、其の七
金糸雀「籐黄、私は城壁に降ろして。あなたは漆黒の竜の上空まで上がって。出来れば技召を吐いて竜の気を
籐黄は城壁に金糸雀を降ろすと上昇していった。
金糸雀「ひ、低い!もしかすると既に意識を持ち始めているのかも。……何なに!外に騎馬が。城下町を襲う気⁉︎……これは馬には可哀想だけど、少し脅かさなきゃ。……単連弾っ!」
黄金に輝く球が、壁の側にいる馬達の足元に命中。絶えず単連弾を放つ金糸雀。
近くの馬達が、技巧色の輝きに視界を取られ暴れ始めた。
金糸雀「次は漆黒の竜よ!単連弾!単連弾!単連弾っ!」
金糸雀に1番近い漆黒の竜の翼を貫通。しかし飛翔するのには影響は無さそうだった。
金糸雀「次はこれでどう!直列連弾!」
光の帯が漆黒の竜に向かう。金糸雀は角度を変え連続して放っている。
技召の出処に気付き向かってくる漆黒の竜。
金糸雀「くっ、やっぱり……。もう意識を持っているんだ。……単連弾!単連弾!」
漆黒の竜の頭目掛けて単連弾を放った金糸雀。命中すると上空に翻る漆黒の竜。
上空の籐黄の吐いた技召に当たる。墜落していく漆黒の竜にすかさず金糸雀の直列連弾が次々と命中。
切り裂かれた竜は光の技巧色に包まれ消滅した。
後を追っていた錫は、城下町が近付くと、霧の中の城壁が見える所まで来ていた。
錫の神通力「風の者。今光の技巧色が見えた。」
萌黄の神通力「とにかく私を降ろせる所まで向かって!金糸雀に何か有ったんだわ!」
一方で錫を追って城下町へ向かっている躑躅。
躑躅の神通力「火の者よ。光の者に何か有った様だ。城壁の上で技巧色が光っている。」
茜「漆黒の竜なの?……でも……でも今の私は、金糸雀と一緒に技召で応じられない。戦えないわ。……。躑躅、あなたは技召を吐く事で竜退治が出来るの?」
躑躅の神通力「我には致命傷は与えられない。吐く技召では一点集中しない。故に
茜「く、くっ……そっ。躑躅!どうして?ねぇどうしてなの?獣神たる者、漆黒の竜を消せないって事?……あなたの、その鋭い牙も、風切る翼も、堅強な身体も、丈夫そうな尻尾も!皆んな役に立たないって事?」
躑躅の神通力「漆黒の竜は民の悪意の化身。我ら獣神が相まみれることはない。」
茜「カッコつけてないでとにかく急いで!金糸雀が!金糸雀に何かあったら……。」
躑躅の神通力「錫も着いた。そう慌てるでない。」
城壁から1体を片付けた金糸雀。
金糸雀「はぁはぁ……。何体居るのか分からない。まるで霧で姿を見られない様にしているみたい。……街の人達は……。街の中では外の様子に気が付いていないんだ。……ならば!門に向かう!」
石積み城壁の幅の狭い最上部。門に向かい走って行った。
金糸雀「やっぱりだわ。下の騎馬達は門に火を付ける気かしら。」
門の前には騎馬がかなりの数集まっている。
金糸雀は単連弾で、同じ様に馬を驚かす。
技巧色で目が
馬の
警報の鐘の音が響く中、漆黒の竜が上空から降りて来た。籐黄の吐く技巧色は他の竜に向けている様だ。
城壁には3ヶ所門が有る。警報の鐘の音で他の門でも矢の一斉攻撃が始まった。
門番の兵士「使い手様が竜を退治しに来ている!下の騎馬を狙えーっ。門に近付かせるなー。」
門の周りから離れていく騎馬達。
金糸雀「漆黒の竜は少なくともあと2体。しかも皆んな意識を持ったって事でしょ?……えぇぇいっ、弾技遠隔っ単連弾!」
技巧色に光る球を放つと、降りて来た竜に目掛けて次々に飛んでいく。続けて放っている金糸雀。
それを操り命中を試みる。
城壁まで来た錫は、金糸雀の姿を見付け、萌黄を門の近くの城壁近くに降ろした。門の横の金糸雀に気付いた萌黄は駆け寄って行く。
萌黄「錫―!霧が邪魔!直ぐに風に乗せて霧を払ってーっ!」
錫は東の
萌黄「金糸雀!漆黒の竜に意識がある!」
金糸雀「分かってるー。それより上、上ぇぇぇ!直列連弾!」
萌黄「うっわっ。向かってくるー!金糸雀ぁっ!ううううーっ。球防壁―っ!」
萌黄は金糸雀と共に球防壁のドームに包まれ、漆黒の竜の体当たりを間一髪で
萌黄「金糸雀、続けて!また来る!」
金糸雀「単連弾!単連弾!単連弾―っ!」
萌黄「こーっちはーっ!直列連弾!!かーらーのーぉっ、単連弾!単連弾!単連弾っ!」グレーの技巧色の球が次々に放たれる。
再び向かって来た竜の翼に命中。風穴を開けた。
金糸雀「直列連弾!」
相当数の直列の技召が命中した。漆黒の竜は縦に細かく裂け消滅した。
金糸雀「はぁはぁ……萌黄さん!まだ、まだ上にも居るの!」
2人が見上げる先で籐黄の吐く黄金の技巧色が見えた。
萌黄「はぁ…くっそぅ!あと何体いるの?」
すると霧が晴れてきた。風上では錫が翼を羽ばたき、霧を風に乗せている。
金糸雀「籐黄が見えた!……2体!まだ2体いるわ」
籐黄は1体に付かず離れずで技召を吐き、追い回していた。
萌黄「金糸雀!単連弾を籐黄に当たらない様に遠隔して狙って!もう1体は私が。」
そこへ遠くから躑躅が来るのが見えた。
萌黄「はっ、躑躅が来た!」
全速で向かって来る躑躅。
茜「躑躅。このままあの竜の間近でまた同じ軌道に引き返せる?」
躑躅の神通力「間近で今飛んできた方向に翻す事など造作も無い。」
茜「じゃあやって、お願い。ギリギリでよ!あなたの丈夫そうな尻尾でアイツを叩き落とすのよっ!なんなら真っ二つにしてっ!キョーオウの空から私の使ってた
躑躅の神通力「切れるかは不明。竜が消滅するかも不明。」
茜「大丈夫。城壁に2人がいるわ。叩き落としても構わない。お願いっ。」
金糸雀は竜の翼に幾つも風穴を開けた。漆黒の竜は羽ばたいているもそのまま落ちていく。
金糸雀「籐黄!離れて!……行っけぇーっ!直列連弾!直列連弾っ!」
ほぼ至近距離まで落ちてきた漆黒の竜は、細かく裂かれ黄金の技巧色に光って消滅した。
萌黄「躑躅―っ!」
金糸雀「えええ⁉︎躑躅は何する気⁉︎」
萌黄「獣神が漆黒の竜に体当たりかっ⁉︎」
躑躅は漆黒の竜を目前に見て翻る。まるでUターンだ。躑躅の身体が背を向け、尾が漆黒の竜を裂いてしまう。
少し離れ羽ばたきながら向きを変える躑躅。
2つに裂けた身体が落下しながら消滅していった。
萌黄「じゅ、獣神が……躑躅の尾が、漆黒の竜を真っ二つに。」
金糸雀「なんてことに……なってしまったの?」
籐黄が降りて来ると金糸雀を胸の紋に回収、舞い上がる。続いて錫も戻ってきて、萌黄を紋に収めて舞い上がった。
城壁の周りは馬だけが見えている。人は全て消滅した様だ。
躑躅が城壁に沿って飛んでいる。
茜「躑躅の尾は岩をも砕きそうね。感動しちゃった。私、無我夢中で躑躅にとんでもない事を指示してしまって……申し訳ありません。」
躑躅の神通力「其方はまだ力を授かっておらん。やむを得ずしたまで。使い手の守護は獣神の使命。」
茜「躑躅。……私。……使い手としての使命を
城壁沿いに周って戻ってきた躑躅。いつの間にか、側には錫と籐黄もついていた。
萌黄の神通力「茜―。無事でいるー?」
茜「あ、萌黄。……漆黒の竜は片付いたのね。良かったー。」
金糸雀の神通力「躑躅。あなたの、と言うか獣神の尾で漆黒の竜を真っ二つにするなんて、考えても見なかったわ。」
躑躅の神通力「火の者は、我を馬か鞭と勘違いしている様だ。」
萌黄の神通力「うーん。それは有るかも知れないよ躑躅。」
金糸雀の神通力「躑躅の尾が鞭になって片付けたって事⁉︎」
躑躅の神通力「だから申した通り。火の者が指示した。」
茜「私は……その……。思いついたのがその方法だっただけで……。私は術が無い、戦えないからその……。」
萌黄の神通力「躑躅の一撃は凄かったけど、それを指示した茜も、
金糸雀の神通力「躑躅が間に合わなかったら、私達、もっと手こずってたもの。良い攻撃でしたわ。」
遭逢のニ、其の八
ジアロック朝の中央にそびえる山の頂では、白藍が隣国ルードスター王国での様子を感じていた。
白藍「核の山脈に向かわず北に向かった所で竜退治の寄り道とは。しかもかなり技召を放っていた様だ。」
淡藤「して、竜は片付いたのか?」
白藍「その様だ。籐黄に至っては技召をかなり吐いていた。霧が流れているのが見えるか?あれは錫が風に乗せて流した。」
淡藤「霧が邪魔していた訳か。困難だったろうな。……いずれにせよ片付いたのなら私達が向かわずとも問題無いだろう。」
白藍「うむ。また核の山脈に向かった様だ、問題無かろう。」
萌黄の神通力「皆んな、少し北に移動しちゃったから、核の山脈までは南に進路を!風を見つけたら西へ向かえば風に乗れるわ。滑空しながら身体を休めて!」
錫の神通力「御意。」
籐黄の神通力「さすが風の者よ。申す通り向かうとしよう。」
金糸雀の神通力「さっきの竜退治で籐黄も疲れているでしょう。かなりの技召を吐いたもの。だから滑空で向かえるなら助かる。」
茜「躑躅。ダメージは無かったの?あなたの尾は大丈夫?」
躑躅の神通力「鋭い牙、風切る翼、堅強な身体、丈夫な尾。火の者が申したであろう。あの程度では
躑躅は20年あまり、技巧の書に収まれないままに世界中を探して回り、旅をしていた訳だが、茜に出会い、以前と変わらない英気を養えていたのだった。
萌黄の神通力「茜が技巧の書を渡されて継承まもなく躑躅を収められたからなのね。躑躅はキョーオウの街で既に元の躑躅に戻れたんだね。」
躑躅の神通力「左様。土の者と修練していた頃には疲れは癒えていた。そこは火の者に感謝すべきところ。我もまさか技巧の書に直ぐに収まれるとは思っても見なかった。」
金糸雀の神通力「へー。茜さんは本当に力のある方なんですね。」
茜「私は……自分の心に感じた事を外に出しただけ。それに応じてくれた躑躅のおかげだから。」
籐黄の神通力「全く女性使い手同士の話は、こうも尽きぬのか。」
錫の神通力「そう申した。女性使い手ならばそうなるのだろう。」
萌黄の神通力「錫はまたそこで、皆んなに聴こえる様に話してますねー。地上に降りて書の紋に収まってますかー?」
錫「途中休んでも良いが……。」
躑躅の神通力「もう良い。核の山脈が見えてきた。まもなく着く。その時に我々は紋に収まれば良い。」
3人の女性使い手の旅の道中は、獣神達にとってあっという間だったかも知れない。何故なら、語らいながらの飛翔には疲れは感じていなかったからだろう。
遭逢のニ、其の九
躑躅が先に鎮める竜の洞窟入口に降り立つ。続いて錫と籐黄が降り立った。
茜は技巧の書を取り出し、一旦抱えて心を落ち着ける。
既に錫と籐黄は応召していて、側には萌黄と金糸雀が見守っていた。
茜は技巧の書を躑躅に向けると、
茜「躑躅、応召!」……躑躅も技巧の書の紋に収まる事が出来た。
萌黄「金糸雀。見た?茜は力を授かる前でも、ちゃんと出来てるでしょ?」
金糸雀「そうですね。凄いと思います。躑躅も茜さんを選んだ甲斐があったと言うものです。」
降り立ったそこは、高さの有る
扉の中央には鎮める竜の紋が刻まれている。
萌黄「さ、茜。技巧の書を扉の紋にかざして。」
言われると茜は技巧の書の紋を扉に近付けた。紋は赤い技巧色に輝くとゆっくりと奥に開き始めた。
萌黄「茜。あなたが先になって中へ歩いて行って。私と金糸雀は今回は部外者。後ろから付いて行くから。」
茜「うん、分かった。」
金糸雀「茜さん、緊張しなくても大丈夫です。廊下は長いですが、その先にアークが安置されています。」
茜「ありがとう、金糸雀。」
3人が中へ入ると扉は閉じていった。1番手前の左右の
少しジメッとした長い廊下を進む茜。歩く茜の足元が暗くなる目前で、篝火が行先を照らしてくれる。誰が掘った訳でも無い洞窟、自然が作り上げた洞窟だ。幾つかの篝火に案内されながら進んでいく先にアークが見えた。最後の篝火が灯ると、アークの奥にも大きな高い扉が有るのが見えた。茜は立ち止まってしまう。
萌黄「大丈夫よ、茜。奥の扉が鎮める竜の扉。手前のアークにも鎮める竜の紋が有る。書をかざしたらまた光り出す。書はそのまま手に持っていて。」
茜「ありがとう、萌黄。」言うと茜は再び歩き出し、アークの前に立った。
技巧の書をかざし、手元に戻す。
紋が赤い技巧色に輝き出すと、アークからの声が聞こえてきた。
アーク「これは火の者の文書。……ようやく訪れたか。……躑躅は収まっている様だな。……よろしい。では、火の者にアークの力を授ける。」
アークは赤い技巧色に包まれた。技巧の書からは躑躅が引き出され、同じく赤い技巧色が包む。
アーク「選ばれし使い手、火の者よ。其方を火の使い手として認める。」
アークの言葉の後、茜も赤い技巧色に包まれた。
アーク「今後は、火の者は獣神躑躅と共に、使い手の使命を全うする事。文書の掟に背くべからず。良いな。……火の使い手として、次期継承までの間、使命を遂行する事。我の力をその使命に使いなさい。」
躑躅は技巧の書に再び収まり、赤い技巧色は次第に薄れていった。
茜はそのままひざまずいている。
萌黄と金糸雀が近寄り声をかけた。
萌黄「茜、アークの力を授かったよ。」
金糸雀「茜さん。よくここまで頑張りました。
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