遭逢のニ、其の四、五、六

遭逢のニ、其の四


 南の光の大陸を縦断した後、海に出ていた籐黄。

籐黄「錫から千里眼が来た。答えた様だ。」

金糸雀「南半球の大陸のどの辺り?」

籐黄「東側の国の中央。造作も無い、まもなく着く。もう一度千里眼を送っておこう。」

金糸雀「皆んな居るのに火の使い手はどうしてるの?皆んなはただ待ってるだけなのかしら?」

籐黄「獣神達はそこに居る。……氷の者……風の者……。だが火の者は分からぬ。」

金糸雀「火の使い手に課した試練?せめて海寄りの場所で待つとかにすれば……。」

籐黄「光の者よ、案ずるでない。まもなく着く。他の使い手に尋ねるがよい。」


 ルグトールを出てほんの数時間。獣神一の最速の翼を持つ籐黄。

ジアロック朝に入り、遠くに高い山が見えてきた。

籐黄「光の者。あの山の頂だろう。」


 躑躅「ん!籐黄。もうやって来た。」

白藍「その様だ。さすが籐黄、速いな。」

萌黄「光の使い手?初対面だわー。」


 錫「見えた。まもなくだ。」

萌黄「籐黄。……さすが獣神一と言うだけあるわね。」

 籐黄が真上でひるがえる。翼を羽ばたくと側に降り立った。

籐黄の胸の紋からは金糸雀が出てきた。

 金糸雀「皆さん、こんにちは。私は光の使い手、金糸雀ラグレスです。良かったー。合流出来ました。」

萌黄「私は風の使い手、萌黄シャーロットよ、初めまして。萌黄って呼んで。」

金糸雀「萌黄さん初めまして。……淡藤さんもここに来ていたなんて。」

淡藤「火の使い手が、鎮める竜の洞窟に向かうのならこの国に上陸するだろうと思ってな。」

金糸雀「もしや。こ、こちらの方が選ばれし火の使い手ですか?」

萌黄「ほら、茜。自己紹介して。」

茜「あ、私、夕紅 茜。茜って呼んでくれていいわ。初めまして、金糸雀。」

金糸雀「茜さん、初めまして。もう海を渡れたのですね。」

萌黄「茜は既に躑躅に収まってここまで来たわ。……ところで、金糸雀?……ここへはどうして?」

金糸雀「街の用事が済んだら、北半球の大陸の皆さんの所に向かう予定だったのだけれど、もう既に皆さんここに来ているって籐黄の千里眼で……。ちょっと遠回りだけど西へ向かい、赤道沿いに周って来ました。」

萌黄「赤道沿いに周って?星を1周じゃない。」

籐黄「南半球の上空は西への強い風。その風に乗り西へ飛んでここまで参った。」

萌黄「聞いていた通り。籐黄は獣神一のスピードの持ち主ね。」

金糸雀「あ、皆さん。私の獣神の籐黄です。」

萌黄「淡藤さんとは前に会った様なので、私の獣神から。錫よ。隣は火の使い手の獣神躑躅。」

 淡藤「私は少し外そう。女性使い手同士、話していなさい。……そうだ、金糸雀。気の球について話すといい。……白藍、頼む。」

淡藤は女性使い手達に気を使ったのか白藍に収まり飛び立った。


 茜「金糸雀は歳はいくつ?私達より少し若いかな?」

金糸雀「27になりました。」

萌黄「茜、金糸雀は私達の一つ下ね。」

金糸雀「そうなんですか。歳が近くて良かったです。しかも2人の女性使い手なんて。そもそも使い手同士はなかなか会うことも無いけど、茜さんが選ばれたおかげで皆んなに会えたのは、すごく感慨深いですね。」

萌黄「金糸雀がもう少し早くここに来てれば、一緒にランチタイムだったところよ。」

金糸雀「ランチ〜?うわぁ、一緒に食事したかったですぅ。しばらく食事なんてしてなかったので。」

萌黄「それなら茜の修練には金糸雀も来るべきね。茜の故郷のラムチョップは美味しかったわー。」

茜「力を授かった後には、故郷の街を拠点にしようと思って。金糸雀にも術の修練のお手合わせをお願いしたいところね。」

萌黄「で、さっき淡藤さんが言っていた、気のたまの話って、何だったの?」

金糸雀「あぁ、その話は先日淡藤さんに会った時の話です。」

 そう言うと、金糸雀は掌を口元に当て、技巧色に光りながら気の球を作る。何やら呟きながら……。そして掌から球を離して2人の側に。球はそのまま弾けると、金糸雀の声が聞こえた。

『修練よりラムチョップが楽しみです。』

茜「す、すごーい!気の球に言葉を詰める事が出来るなんて。なんて可愛いのー。金糸雀、それ教わりたいっ。」

萌黄「なるほど気の球に言葉をねー。ってそれ教わってどうすんのよ茜!」

茜「機会が有ったら子供達に見せたいなって思っちゃって。」

金糸雀「茜さん、それは伝える言葉が長くなると弾けてしまうから、少しだけなの。それで良ければ、是非教えますよ。淡藤さんが私の洞穴に来た時には、白藍が最初、洞穴の下に舞い降りたの。

だからこれで知らせたら感心してました。」

萌黄「そっか。気の球は中は空洞だから、そこに言葉の意識を閉じ込めた訳ね。面白―い。」

金糸雀「これを覚えたきっかけは、籐黄と喧嘩した時でした。私が原因だったのに、なかなか謝れなくて。それでやってみたの。籐黄にも感心されちゃいました。」


 籐黄は横たわりながら言った。

籐黄「女性使い手は口数が多くて困るな。」

錫「左様。風の者とて同様の事。軽く聞き流すが良い。」

躑躅だけは神通力で呟いた。

躑躅の神通力「これからの我の試練になるな。」

茜「ねぇ躑躅?そこで神通力でつぶやかないでっ。」

躑躅の神通力「其方達は話が尽きそうに無いな。」

金糸雀「茜さん、まだアークの力を授かる前ですが?……今の躑躅の声が聞こえてるんですか⁉︎……驚きです!」

萌黄「今、茜は心で獣神の言葉を聞けるのよ。」

茜「萌黄曰く、神通力とは違う力らしいわ。」

躑躅「使い手達。白藍が戻ったら、ここを出るとしよう。」

女性使い手3人の話はまだ尽きそうになかった。




遭逢のニ、其の五


 翌早朝……。

 淡藤「結局3人で向かうのか。」

萌黄「錫に頼んで決まったんです。茜だけじゃ心細いし、躑躅に頼りっきりじゃ気が休まらないだろうって金糸雀も言うし……。」

淡藤「ならば少し同じ時を過ごすといい。茜がアークの力を授かれば、その後の修練もある。私は、この大陸を横断しながら竜退治をして過ごしているよ。大陸の南には闇の使い手が居るんだが、漆黒の竜が多いのだそうだ。何か有れば手助けに向かえるしな。」

茜「淡藤さん。私、上達したら、この大陸に飛んできます。その時は修練のお手合わせをお願いします。」

淡藤「そうだな。楽しみにしている。皆んな気を高めて過ごす様に頼む。あの時の為にも。」

金糸雀「私まで同行する事になりましたが、今後も使い手としての使命に努めることは忘れていません。淡藤さん、またお会いする時までお元気で。」


 躑躅「さあ使い手達。向かうぞ。錫と籐黄が待っている。白藍、我々の気配が別れたら、その時が火の者の独り立ちとなろう。それを感じていてくれ。ではいずれ……。」

3人はそれぞれ獣神の胸の紋に収まると、鎮める竜の洞窟へ飛び立って行った。


 鎮める竜の洞窟。それは核の山脈の中央にそびえる山のふもとに入口がある。技巧の書を持つ使い手のみ入口の扉を開く事が出来る。南半球の大陸の西寄りに有るが、ジアロック朝の山からは西の風に乗ると獣神達でも苦も無く行き着ける場所だ。


 躑躅の神通力「火の者。核の山脈が見えてきたら、我の見た目を送る。心でよくよく見ておくが良い。再び来る時の為に。」

錫の神通力「うむ。風の者、光の者。其方達は1度来ているが、もし大地の怒りの時には、再び訪れなければならん。心に焼き付けておく事だ。……籐黄、先に向かっても良いぞ。我らは籐黄の翼には追いつけん。」

萌黄の神通力「そうね、金糸雀。籐黄は速く飛べる。先に向かっちゃってー。」

金糸雀の神通力「はい。それでは少し先に向かって待ってます。」

茜「気を付けて。金糸雀。向こうで会いましょう。」

籐黄は翼を羽ばたくと一気に先へと飛んで行った。




遭逢の二、其の六


 錫と躑躅より一足先に隣国ルードスター王国に入った籐黄。南には闇の使い手が居るザイラル国が有る。この2国の国境に沿って飛んでいた。

 ルードスター王国側の北の遠方には、城とその城下町が、霧に霞んで見えている。籐黄は、城下町の上空を舞う漆黒の竜に気が付いた。

 籐黄「光の者よ。北に進路を変える。其方には竜退治をしてもらわねばならん。」

金糸雀「漆黒の竜。それは大変。急いで向かって。」

籐黄「かなり低く舞っている。急がねば竜が意思を持ち始める。心しておけ。」

金糸雀「籐黄。念の為千里眼を飛ばしておいて。」

籐黄「御意。われが違う方向に向かったのを知らせよう。」


 遅れてルードスター王国に入った錫と躑躅。

躑躅の神通力「隣国に入ったが、先を行く籐黄は北へ進路を変えた。今千里眼が届いた。」

錫の神通力「うむ。我らは如何にする?」

萌黄の神通力「急に進路を変えたのは何故?金糸雀はどこへ寄り道する気かしら。北の方角に何か見えない?」

錫の神通力「城下町が霧に包まれ霞んで見える。城下町に用が出来たのではないか?」

萌黄の神通力「今は使い手は居ない国。どうしたんだろ金糸雀……。」

茜「もしかして、漆黒の竜が見えたとかじゃない?使い手が居ない国……竜が現れても野放しって事でしょ?躑躅、何か感じて!」


 籐黄が向かったのは国王の城、カヌレット城を中心に広がる城下町。過去の戦争の名残りで、街を囲む城壁を持つ。その古い城壁を囲む様に、武装した賊達がいた。

 錫と躑躅は霧に包まれ、漆黒の竜を感じ取る事が出来ないでいたのだった。

茜「躑躅、一旦地上に降ろして。直接感じてみる。」

萌黄の神通力「感じてみるって、霧に包まれてて見えないわよ。」


 躑躅の神通力「錫、一旦降りる。」

2体の獣神は地上に降り立った。乾燥して荒れた地面。

 躑躅は着地するなり茜を紋から出した。萌黄も出てくる。

萌黄「茜。あの霧じゃ、見える物も見えないんじゃない?」

茜「見るんじゃないわ。こうして……」

茜は側の岩に駆け寄ると、抱える様にして岩に耳を付ける。

 茜はかなり遠い城下町を心で感じていた。

茜「馬がいるのね。城下町ってどんな地形?」

 萌黄は技巧の書の地図を見ながら答えた。

萌黄「平らな所に、古くからの城壁で囲まれた城下町みたいよ。馬がいるって、そりゃ当たり前よ。馬車だって走ってるし。」

茜「馬車の音は感じないわ。馬、馬が多い。しかもかなりの頭数だけど……。」

萌黄「うむむ……。籐黄が千里眼を飛ばした事といい、何か有るのかも知れない。錫!城下町に向かうわ!茜。あなたは鎮める竜の洞窟へ向かって!」

そう言って錫の紋に収まると城下町に向かい飛び立つ。


 茜「萌黄……。……ねぇ躑躅、私は。」

躑躅「共に向かいたいのだな?良かろう。其方に従う。が、其方にはアークの力は無い。何を考えている。」

躑躅は茜を紋に収め羽ばたいた。

 茜「馬の数が多いのが地を伝う位聞こえるわ。そんなに街には馬がいるの?私が考えたのは、多分城下町の外から聞こえたんだと思う。城下町に向かって走ってるのか、既に古い城壁を囲んだのかは分からないけど……。」

躑躅の神通力「うむ、其方の言わんとするところ理解した。高く飛んでみるとする。」


 錫は城下町に向かい全速で羽ばたいている。

萌黄の神通力「錫、籐黄は?千里眼で知らせて!」

錫「御意。」


 高く舞い上がった躑躅。

躑躅の神通力「錫が千里眼を送った。籐黄はまもなく城下町。」

茜「躑躅からは見えない?何か感じないかしら?このまま城下町へ向かって。」

躑躅は高度を高く取り、進んだ。

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