遭逢《そうほう》のニ、其の一、ニ、三
遭逢のニ、其の一
獣神白藍と淡藤はジアロック朝に入って更に北上、火の者との合流をするべく滞在の地を探っていた。
一方でジャニオン王国、キョーオウの街を葡萄に任せて南半球に飛び立った躑躅と錫。
萌黄の神通力「茜、聞こえてるかなぁ?」
茜「も、萌黄?聞こえてる。まだ神通力は使えないのに何故?」
萌黄の神通力「お互い紋に収まっていながら、こうして会話出来るのは、躑躅のおかげね。ありがとう躑躅。」
茜「躑躅が?」
萌黄の神通力「うん、躑躅が私の神通力をあなたに伝え易く増幅してくれている。茜の言葉も、一旦躑躅が聞き取ってから私に伝えてる。もう躑躅―。私、錫から躑躅に乗り換えたい気持ちよーん。」
錫「風の者。その位にしておきなさい。」
萌黄「あらぁ?錫ったら柄にも無く焼いてるのねー。」
茜「萌黄、その辺にしときましょ。錫から落とされても知らないわよ。まだ私はアークの力は授かってないんだから、落ちても助けられないわ。」
萌黄「は、はは。ごめんなさい……。」
躑躅「白藍は近い。氷の者の気配も有る。この近くに降り立っている様だ。」
錫「うむ。千里眼を使う。」
錫の千里眼が周囲を伝う。
ジアロック朝のほぼ中央に位置する、国中を一望できる高い山の頂で、羽休めで舞い降りていた白藍と淡藤
白藍「氷の者よ。錫の千里眼。……錫と躑躅の気配。まもなくここから見える。」
淡藤「む……。火の者は?獣神だけでここに向かっているのか?」
白藍「今、我の千里眼で応じた。このまま気配を頼りに来るはず。獣神の気配しか分からぬ。」
淡藤「まさか火の者は海を渡っているというのか⁉︎錫には萌黄がいる。躑躅は……。技巧の書は継承しているのだろうが、別行動なのか?」
萌黄の神通力「茜―。淡藤さんと合流出来たらランチにしちゃう?少しなら持ってきてるけどー?」
茜「ラ、ランチって。萌黄―。あなた食事の支度までして出て来たの?」
萌黄の神通力「茜との生活が楽しくてー。排泄は面倒だけど、ランチやディナーは誰かと一緒なら一層美味しくて楽しいじゃない?」
茜「私は躑躅の胸の紋に収めてもらえただけで感動なの。今は食事は気にしないわ。」
躑躅の神通力「火の者風の者。其方達は使い手なのだ。何が嬉しくて楽しんでおる。」
萌黄の神通力「茜に会ってから、使い手なるも食事をしても良いのではないかと感じています躑躅。」
躑躅の神通力「我が従えた使い手の全てが男性。女性を選ばれしは我の試練なのか?」
茜「違うわ躑躅。萌黄がそうしたいだけ。あなた方の紋に収まっているだけでも癒えるのは分かる。でも時々誰かと食事の時間を持ちたいの。もちろん、怪我も空腹も癒えるでしょうけれど、心の中の少しの隙間を癒す為なの。試練なんて思わないで。」
躑躅の神通力「面倒な事は
錫の神通力「白藍が千里眼を返した。気配は近い。」
萌黄の神通力「まもなく合流?淡藤さん驚くわー。いえ、驚かしちゃいましょ、茜。」
茜「萌黄!その辺にしないとホントに錫から落とされるわよ!」
山頂で待つ白藍と淡藤。
白藍「見えた。まもなく来る。気を送ろう。」
淡藤「躑躅、錫。その後どうなったのだろう……。」
やがて躑躅と錫が降りて来た。
錫が萌黄を下ろす。
萌黄「淡藤さん、やっと合流出来ましたね。」
淡藤「うむ。躑躅が選ばれし者に継承したと……。」
萌黄「躑躅は見ての通りです。20年の疲れはとっくに癒えています、淡藤さん。」
淡藤「では火の者は海を渡ってこの大陸に?」
そこで躑躅が茜を胸の紋から下ろした。
茜「夕紅 茜と申します。初めまして。」
淡藤「こっ、これは!……獣神が紋に収める事を認めたのか。……既に文書の記憶は成し得たのか。」
萌黄「淡藤さん。驚いた?」
淡藤「錫と躑躅はこちらに向かっていると。ただ使い手の気配が分からぬと言っていた。……既に躑躅が認めた訳だな。」
躑躅「左様、我の見込んだ者。間違いは無かった。既に文書のほとんどを記憶した。だから紋に収め、ここへ来た。」
淡藤「申し遅れた。私は氷の使い手、劉抄 淡藤。淡藤と呼んでくれ。」
茜「淡藤さん……ですね。他の使い手を探して回ってると萌黄に聞きました。」
淡藤「使い手への伝達は雷の使い手、山吹と手分けした。もう使い手達には、あの時の為の警戒はしている。」
萌黄「淡藤さん。茜は火の使い手として十分な素質を持っています。驚きますよ。」
淡藤に、いたずらに微笑む萌黄であった。
遭逢のニ、其のニ
淡藤「萌黄。私は既に驚いている。選ばれし者とは言え、まもなくして躑躅の紋に収まるとは……。」
萌黄「茜、掌を。淡藤さんに気の
茜は萌黄に言われると、両掌に小さな気の球を現した。
淡藤「なんと!アークの力も無しに気の球を作れるのか!」
萌黄「その
淡藤「神通力……使えるのか⁉︎」
茜「違います。少し、心で分かるだけです。」
萌黄「あーあ。また謙遜しちゃってー。淡藤さん、茜は神通力に似た心の力が有るみたいなの。」
淡藤「そうなのか……。」
淡藤は無言になった。神通力で躑躅に話す。それを萌黄も聞き取っていた。
淡藤の神通力「躑躅、すまないが少し試させてもらう。」
茜は直ぐに聞き取れた様で、目を閉じた。
淡藤の神通力「この地へ立つ前、渋紙も一緒のはず。渋紙はどうした?」
萌黄「さぁ茜、聞こえてたら答えてあげて。」
茜「渋紙と葡萄は、私の故郷に留まってくれています。賊が多いので任せました。」
淡藤「茜。……アークの力に頼らずとも、聞こえているのか?」
茜「近くなら、かろうじて聞き取れます。でもここへ来る途中は躑躅が助けてくれて、話しながら来れました。」
錫「氷の者よ。それが躑躅の選んだ人物。其方は如何に感じた?」
淡藤「躑躅の長い年月は無駄ではなかった。そう思う。今後が楽しみになった。」
萌黄「それなら、淡藤さんも修練に協力してもらうかも知れません。その時はよろしくお願いしますね。」
淡藤「喜んで応じよう。力を授かった後には手を貸そう。」
茜「はい。その時はお手合わせお願いします。」
淡藤「技巧の書が継承されたと聞き、この先の苦労が思い浮かんだが、その心配は無さそうだ。楽しみに待つ。私はこの地にしばらくいよう。先ずはここに戻って欲しい。」
白藍「うむ。それも良かろう。」
萌黄「さーて。それでは軽くランチにしましょー。」
淡藤「ラ、ランチ⁉︎」
萌黄「淡藤さんも一緒に。たまにはいいでしょ?あとで排泄面倒だけど……。」
茜「萌黄、淡藤さん困ってるでしょ。」
萌黄「淡藤さん。誰かと一緒に食事って良いものですよ。」
淡藤「……酒と肴は良いが……食事は……遠慮したい。」
萌黄「まーまー、そう硬い事言わずにー。」
獣神達は横たわり丸くなって見ている。
白藍「氷の者。文書の掟に記されてはおらん。」
淡藤「分かった。ここは躑躅を立てよう。」
萌黄「やったー。さーあ、ランチにしましょー。」
淡藤を巻き込んで、萌黄が持ち寄ったサンドイッチでささやかなランチタイムになった。
遭逢のニ、其の三
オーロックス公国、ルグトールの街。淡藤がここを去ってから、金糸雀(かなりあ)は地震対策に講じていた。
金糸雀「
籐黄「光の者よ。躑躅と錫が、既に南半球の大陸に
金糸雀「えー。じゃあ選ばれし者、火の使い手は?」
籐黄「火の者は分からぬが、氷の者と風の者は合流し南半球の大陸の様だ。」
金糸雀は文書の地図を見ながら、
金糸雀「ね、籐黄?南半球の何処の国?」
籐黄「国の名は知らん。大陸の北東の国の中央辺りになる。」
金糸雀「北東の国、ジアロック朝。……とすると、ルグトールからは回り道だけど、西向きの風に乗れば半日掛からないんじゃないかしら?どう思う?」
籐黄「火の者の気配は分からぬが、皆移動はしていない。」
金糸雀「じゃあ急ぎましょ。西へ全速で飛べば合流出来そうじゃない?」
籐黄「其方に従う。如何にする?」
金糸雀「向かいましょう。籐黄、念の為千里眼を飛ばして、お願い。」
籐黄「御意。」
籐黄は金糸雀を紋に収め羽ばたきながら、白藍、錫、躑躅に届く様強い千里眼を飛ばした。
ジアロック朝、中央の山頂でランチタイムの最中。
白藍、錫、躑躅には籐黄からの千里眼を感じていた。
獣神達は語らずに目配せするのみでいた。
萌黄「淡藤さんはこの地にしばらくいるんですか?」
淡藤「そうだな。そのつもりだ。使い手が訪れなくなって久しいらしい。竜退治しながら揺らぎに気を配る。」
茜「この山がこの国で1番の高さでしょうか?他には高い山は無いんですね。」
萌黄「ほんとにそうね。明るいから、周りが見渡せる。漆黒の竜が現れてもまともに見えそう。」
淡藤「ちょうど良い地形だ。まるで灯台にいる様だな。」
萌黄「茜、あなたは躑躅と向かって大丈夫?」
茜「うーん……。萌黄としばらく一緒にいたせいか、ちょっと不安。一緒に来て欲しい気もするけど、躑躅は頼りにしてる。不安と言うか、ドキドキって感じよ。」
淡藤「ここに来る前に会った使い手。光の使い手だが、金糸雀 ラグレスと名乗る女性だった。強い気を操る使い手だ。南の光の大陸のルグトールと言う街で会った。そこで合流するのも1つの手だな。」
萌黄「同じ女性使い手なら、1度は会っておかなきゃ。ね、茜。」
茜「私は……まだ行く所が有るじゃない。だから萌黄だけで訪ねても……。」
萌黄「鎮める竜の洞窟、そんなに危ない所じゃないけど、茜は結構不安そうね。」
躑躅「その光の者が動いた。西へ飛んで、南の光の大陸を横断した。今は既に海に出ている。」
錫「左様。千里眼が届いたが、もうこの大陸にも近い。」
白藍「うむ。我ら獣神の中で最速の翼を持つ籐黄の事。何か有ったのかも知れんな。」
淡藤「してここへ向かってくるのか?」
白藍「それは分からん。」
萌黄「じゃあ千里眼で答えて。この場所だけでも知ってもらったら都合がいいでしょ?……ね、錫、お願い。」
錫「御意。」
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