遭逢、其の十三、十四、十五

遭逢、其の十三


 造船所跡のドック。壁に囲まれた、船を組み立てる巨大なスペースだ。

あちこちにびついた作業機械が残されたまま。

葡萄が過ごしやすい様に片付けていた物を、渋紙は翼で吹き飛ばし、散らかしてしまう。

 葡萄「何してるの渋紙?」

渋紙「鍛錬の準備を始めたまで。其方は自分の気を感じた事は無かろう。先ずは自分の気を感じられる様にする。」

葡萄「気を感じる修行?しかも自分の気を?」

渋紙「左様。気の形は定まっていない。普段使い手は身に纏っている。だが気は使い手の意思で形を変えられる。先ずは気を集め、向こうの端の壁に気を当て、帰ってきた自分の気を感じなさい。形は好きでいい。我の横で。さぁ始めるが良い。」

葡萄「気を放つ事は技召を放つのとどう違うの?」

 渋紙は横たわり、葡萄の目線で語り始めた。

渋紙「技巧の術は攻撃と防御なり。技召して放つのは使い手の気の力とアークの力によるもの。アークの力を抑えて己の心の中の力のみを出す事こそ己の気。常に心は冷静沈着におくのだ。さすれば身に纏うことも容易。形も自由に変えられる。」

葡萄「使い手の術はアークの力と自分の気が合わさった技なんだね。……でも自分の気をどう放つのか。渋紙?それはどうすれば?」

渋紙「心は冷静沈着におくと申した。現代の言葉で言うところ、イメージ、想像する事。てのひらでもこぶしでも良い。一点に集めて放つ。先ずは小さく掌に集めてみる事から始めなさい。我はここで其方の気を感じていよう。」

 葡萄「……小さな気を掌に集める……。イメージする。」

葡萄は目を閉じイメージしていた。……掌に変化が無い。

渋紙「何をしておる土の者。」

葡萄「な、何をって。気を集めようと……こうして……。」

渋紙「ふぁっはっは。其方の姿は川の水でもすくって来た様に見えるだけ。気など集まっておらん。」

渋紙は長い鋭い爪の手を葡萄の前に出した。掌を上にすると、茶色の技巧色の球が現れた。

それを向こう側にポイっと投げる。一瞬の間もなく戻ってきて葡萄の額に当たった。

 葡萄「はっ。これは渋紙と神通力で話す時の感じだ。」

渋紙「如何にも。神通力では其方はどうしている?それと同様の事よ。それで其方はどの形で放ちたかったのか?まさか格好の良い形で等と考えておらんだろうな?」

渋紙の鋭い眼孔を葡萄に突き付けた。

葡萄「し、渋紙。ごめん、分かったから今にも食い付きそうなその眼止めて〜〜〜。やります!しっかりイメージしますっ。」

渋紙「其方には使い手としての自信が足りん。土の使い手である自分に自信を持っていい。それなりに竜を消滅させたのは其方の自信になっておろう。さぁ、繰り返しなさい。」


 葡萄は呟きながら、「渋紙は片手の掌に気を集めていた。……こうかな……。気を集めて球に……。」

ようやく掌に小さい、本当に小さい技巧色の粒が光った。

 渋紙は優しい目で見守っている。

渋紙「気を抜かず、続けなさい。呼吸を整えて、絶えず気を集める事に集中する。」

葡萄「呼吸を整えて……集中して……気を抜かずに。……僕の、土の使い手の気を集める。」

掌にボール大の大きさまで気を集められた葡萄。

 渋紙「一旦止め、土の者。その調子だ。次は同じようにして、もう片方の手で始めなさい。」

今度は左手の掌に気を集めようとする葡萄。それを解説する様に渋紙が静かに語る。

渋紙「心の気、集めたらそれを掌まで。腕を通る気を感じろ。やがて気は掌に出てくる。」

葡萄の掌に薄ぼんやりと茶色く光り始めた。渋紙が続ける。

渋紙「そのまま心から掌へ。流れる気を感じる事だ。掌に、球になれと念ずる。」

右手の時より早く気が球になり集まった。

 渋紙「止め。……その調子で続ければ身に付いてくる。慣れたら両の掌でも試すが良い。自分の気が分かってくる。」

葡萄「ありがとう渋紙。なんか分かってきたよ。このまま続ける。」 

右手、左手。交互に球体の気を作り続ける。


 葡萄は考えた。「さっき渋紙は集めた気を放ったというより、投げるようだった……。それも力を使って投げた様には見えなかった。どうすれば……。」

 左右交互に集めていたのを今度は左右同時に集めようとする。

葡萄は呟きながら、「左右同時でも集め方は同じ。心の気を左右に分ける……腕を伝わる感じが分かってきた。…両手の上にそれぞれ球を作る。……出来た!」

渋紙「気を制御する事に気が付いたようだな。繰り返しなさい。」




遭逢、其の十四


 赤道の大陸の東側の国、オーロックス公国最北の街ルグトール。

ここは海沿いに広がる山の稜線りょうせんふもとに多くの建物が立つ。

 この地にやって来たのは淡藤だった。

淡藤「白藍、この街では着地に困るな。使い手の近くに向かう為にも気配を感じてくれないか?」

白藍「砂浜に降り立つ他無かろう。……。うむ。使い手は山に居る。近くまで寄ろう。」

 砂浜に降下しようとしていた白藍だったがひるがえして山に上がって飛んだ。

 多くの山々は、角ばった柱の様な岩が連なる地形。

以前は海だった場所が、隆起によって出来上がった地形と言える。

その岩肌に獣神が降り立つ事が出来そうな場所を見つけた白藍。

白藍「一旦降りる。」

 広い岩に降り立った白藍は紋から淡藤を出した。

淡藤「こんな地形の何処を棲家にしているのか?」

白藍「穴を掘れば良い。」

淡藤「街の様子をどう伺っているのか尋ねたいものだな。」

 ボヤキにも似た会話を挟む様に、金色の光のたまが上から舞ってきた。

その球が割れると声がした。

金糸雀かなりあラグレスの声「どちらの使い手でしょう?」

金糸雀は、自分の気の球体に言葉を込めて離した様だ。

 見上げる淡藤。

白藍「使い手の気配。黄金の技巧色、光の使い手に間違い無い。上へ上がろう。」言うと淡藤を紋に収め羽ばたいた。

 白藍が言ったように、そこは穴が掘られ、獣神でさえ出入りが出来る広さだった。再び紋から淡藤を出す白藍。

 奥には金糸雀とその獣神、籐黄とうおうが待っていた。

金糸雀「私は光の使い手、金糸雀 ラグレスです。金糸雀とお呼びください。そして獣神籐黄です。」

淡藤「私は劉抄 淡藤、氷の使い手だ。淡藤と呼んでくれ。そして私の獣神、白藍。……それにしても、気の球体に言葉を詰めるとは……感心した。」

金糸雀「でも短い言葉でしか出来ません。小さな手紙のような物。私の遊びから生まれた方法です。先程、白藍の姿が見え、真下に舞い降りたので。……普通、谷なら声も届くでしょうけれど、ここから叫んでも反射が無く聞こえないかなと思ったもので。……獣神と分かってなければ使いませんでしたけど。」

淡藤「意思を伝えるにはいい方法なのかも知れない。それより、今日ここに出向いたのは、あなたに大地の揺らぎについて聞こうと思ってやって来た。」

金糸雀「淡藤さん、金糸雀でいいわ。……大地の揺らぎ?地震の事でしょうか?」

淡藤「如何にも。金糸雀はこの地は長いのか?……その間に何か変わった事象は無いか?」

金糸雀「この山の岩肌はご覧になりました?小さな揺れでも、崩れやすいんです。この街では、漆黒の竜退治と同じ位、崩れた岩を動かしたわ。家の真上の岩が落ちてきたら、人はおろか、家ごと潰れてしまいます。何軒かは助ける為に岩を動かしました。というか、単連弾で粉々にしたというか……です。」

淡藤「なるほど。それなりに苦労のある場所なのだな。……なれば、あの時が来るようではこの街は大変そうだ。」

金糸雀「あの時……ですか?……はっ。……」

大地の怒りの時を思い浮かべてなのか、その惨事を察する金糸雀。

白藍「如何にもだ。其方の思う、その通りになるやも知れぬ。」

淡藤「金糸雀。何を感じた?」

金糸雀「いいえ、感じたんじゃない。あの時が来たら、この街はどうなるかを考えたの。」

白藍「其方の気は強い。離れていても神通力で会話が出来るだろう。そうではないか?」

籐黄「白藍、如何にもだ。我は少し離れていても神通力が通じる。光の者の気の強さ、大きさは大したものよ。」

淡藤「金糸雀はこの地形の為に強くなったのだな。たくましいな。女性の使い手は、男の私とは違う、術と違うものも持っているのだろう。ここへ来る前に風の者に会ってきた。今の風の者は女性。この世界中の風の流れを全て知っているかのようだった。案内の通りに白藍が飛んだが、あっという間に隣の大陸に行き着けた。ここへも、白藍が風を探していたようだ。素晴らしい能力だと思う。」


 金糸雀「籐黄、あの時が来る前に、ここで少しやる事が出来たわ。崩れそうな岩は片付けましょう。」

籐黄「其方に従おう。して、氷の者。もし大地の怒りの時を迎えてしまったら使い手を集めなければ。躑躅はようやく技巧の書を選ばれし者に渡した様だが…。」

淡藤「その件は風の者、萌黄に託した。共に行動しているはずだが…。」

籐黄「躑躅の気配が小さい故、様子が分からぬ。躑躅は今何処におるのだ?」

淡藤「北半球の大陸の東。そこは東の最果ての地かも知れない。」

籐黄「この街の、この星の反対側……。どうりで気配が小さい。火の者は鎮める竜の洞窟への旅を始めたのか?……。」

淡藤「次に向かう南半球の大陸。そこに居る闇の使い手に会ってから火の者に、躑躅に会うとしよう。あの時の為にも。」

金糸雀「私も、ここで用が済んだら北半球の大陸の東に向かいます。何処かで会えるかも知れない。風の使い手の手助けもしたい。」

淡藤「同じ女性使い手としていいかも知れんな。北半球の上空の風は西からの強い風だった。北へ向かい、そこから東に向かってから風を探し、それから北半球の大陸を東に向かうのがいいと感じる。おそらく港も近いだろう。」

金糸雀「分かった淡藤さん。そうします。」

淡藤「何か変わった事が有れば籐黄の千里眼を飛ばしてもらうと良い。南半球にも使い手は居る。この赤道の大陸の西にもだ。心配無い。」

金糸雀「ありがとう淡藤さん。」

淡藤「では我らは東に飛び、南半球の大陸を横断する。また会う時まで、しっかりな。」

金糸雀「淡藤さんも気を付けて!」

金糸雀にそう言い残し、白藍の紋に収まると、東にある南半球の大陸を目指した。




遭逢、其の十五


 造船所跡の壁に、茶色の技巧色の球が当たって弾ける。

そのまま視線を変えると葡萄が気の球体を放っている。

更に視線を葡萄のそばに置いてみる。獣神渋紙は相変わらず横たわり葡萄を見ていた。

 葡萄「向こうの壁で弾けてしまう。渋紙、教えてください!」

渋紙「我が其方の額まで気の球を運んだのだ。球を離しただけではない。その後操らなければ戻らない。」

葡萄「そうだったんだ。だから僕の額に飛んで来たんだね。ありがとう渋紙。やってみる。」

渋紙「あまり続けて気を使うものではない。少し休もう。」

 渋紙は起き上がり、なかば強引に胸の紋に葡萄を収めた。

 ここからは神通力での会話の様子だ。

渋紙「其方の上達は感心した。次は操る事。我の額に気を運ぶのだ。技召の操り方に近いもの。但し、攻撃技召でない事を忘れるでない。気の球とはいえ衝撃はある。其方は攻撃技召の様な速さが気の球に無いのが気付いておらぬ。浮かせている気持ちで操る。」

葡萄「浮かせているつもりで操る……。渋紙、掌の上から操る練習をすればいいかな?」

渋紙「其方がそう理解したのなら試すが良い。さ、もういいだろうもう一度外へ。」

 渋紙の胸の紋から葡萄が外へ出される。

渋紙「土の者、応召を頼む。」

葡萄「あ、気が利かなかった。ごめんなさい渋紙。……応召!」

葡萄は技巧の書を取り出し、渋紙を紋に収めた。

葡萄「まだまだ当分時間掛かりそう。ゆっくり休んでて渋紙。」


 黙々と繰り返し気を出す、気を集める、気を操る練習をしていた。向こうの壁に当たって、少し戻せる様になってきた。

 周囲に転がっている瓦礫がれきや錆びついた機械を避けながら、気の球体を操るのに手こずっている。

葡萄は呟いた。「ゆっくりだけど、操るというのが分かってきたけど、渋紙のあの時のスピードには追いついていないや。……常に場所を把握してなきゃあのスピードで手元に戻せない。投げてもいないのに何故だろう……。渋紙は球体の気を軽く手を振った程度であのスピードで戻ってきた。……という事は、手から離れたらスピードも操っている事になる。よしっ。」

 葡萄は掌の上で球体をフワフワさせたり、お手玉の様には操る事が出来てきていた。今度はスピードも操る練習を始めた。

掌から、軽く振り出す球体。そこから加速!

壁に当たり弾けてしまったり、角度が変わり他の障害物に当たってしまう。

 葡萄は苦悩していた。

葡萄「球体に自分を乗せて操縦するみたいにしたらどうかな。」

球体を振り出す。その球体からの見た目をイメージする葡萄。

葡萄「壁に当たる。そのまま戻れっ!」球体は同じスピードで戻るも別の方向に飛んでしまった。

葡萄「今はこれが限界かー。また渋紙に聞いてみよう。……渋紙、召喚。」


 渋紙「長い時間休んでいたが、その後どうだったのかは紋に収まっていようと分かっている。少しは上達したな、土の者。さあ、其方の疑問に答えよう。」

葡萄「ありがとう渋紙。それで今の疑問。球体に集めた気を操るだけじゃなく、その気からの見た目をイメージしながら戻って来させるのが正しい方法?」

渋紙「左様。操る事は止めぬ。止めれば気は消える。ここの周囲はどうだ、心で見えていたか?」

葡萄「戻る時に角度が変わると跳ね返ったりして見失うんだ。」

渋紙「壁に当たり跳ね返る。角度が変わって他の方向へ向かう。見失う前に元の方向に操れば良い。それには周囲の障害を記憶する事。その記憶はこの場所を俯瞰でもイメージするのだ。真上から操る様に。」

葡萄「ひゃぁ〜そんな事までして球体を操るんだ。……ふぅ。少し休んでいい?渋紙ぃ。」

言うと大の字に寝そべった。

渋紙も同じ様に横たわり葡萄に語りかけた。

渋紙「弾技遠隔を使う時、其方は何をする。」

 弾技遠隔だんぎえんかくとは、弾技召を遠隔操作する技。(例:弾技遠隔!円連弾。)と叫ぶ。強く高いレベルの気を持つ使い手は、叫ばなくとも心で操れる。

 葡萄「その時の漆黒の竜の姿をイメージしてる。向きや翼の羽ばたき。スピード。」

渋紙「イメージはそれと同様。あとはここの障害物まで心で見ながら操る。」起き上がる渋紙。

渋紙「少し速度を落とす。我が語るを覚えるがいい。」

 言うと鋭い爪の手から気の球体が出る。

渋紙「勢いなどいらん。それは心で描く。手から離す。先ずは壁めがけて。……跳ね返ってきた。角度が変わるが慌てるな。自分に引き寄せるつもりで念じれば障害物を避け向かってくる。さぁ、其方の額に当たる。……最初から速度まで操ろうとするな。それ以前に、操る事が障害物を心で見ながら避ける事なのだ。自分に向かって戻る様に操るのは最後。分かったか?」

茶色の技巧色が葡萄の額で弾けた。もちろん痛みは与えない。

 葡萄「分かった。ここで渋紙は少し見てて。」

葡萄は今の渋紙と同じ様にやって見せた。そのスピードも同じ位。……壁に当たり跳ね返る。障害物に向かっている。葡萄は見易い様に上に球体を逃した。そのまま自分に向けて戻ってきた。掌で受け取った。

 渋紙「うむ。なかなか上手くなった。今、上に逃したのは何故だか分かっているか?」

葡萄「跳ね返った球体が大きな機械に当たりそうなのが分かって、横に逸れても、別の瓦礫が転がっていたから上に逃して、手元に戻る様にイメージしたのだけど……。」

少し不安げな葡萄の表情。

渋紙「うむ。其方の通り。間違いなく心で見たのだな?」

葡萄「はい、間違いなく心で見えました。」

渋紙「よかろう。其方の方法で良い。少し繰り返したら、速度を付けなさい。」

 葡萄は渋紙のゆっくり操った手本を再現しながら繰り返しやっていた。

渋紙「次から手元に戻す度に速度を付けなさい。始め!」

 徐々にスピードが付いて動く球体の気。最初に渋紙がポイっとやって見せたスピードにまで追いついてきた。

渋紙「一旦止め。では我の額に戻してきなさい。我は動かぬ故、其方の操り次第。さぁ、始め!」

 掌で球体の気を作ると、あっという間に向こうの壁に飛ぶ。跳ね返る角度もものともせず、障害物も避けて戻ってきた。そして渋紙の額に当たり弾けて散った。

渋紙「それで良い。成功だ。更に応用したければ、速度を上げるなり軌道を変えるなりするといい。応用には熟練が必要。そう慌てるまでもない。」

葡萄「ありがとう。自分の気をこれからはもっと感じながら過ごします。」

渋紙「そうなれば、身にまとって行動出来よう。他の使い手も気配を感じ易くなる。強さ大きさも自由になるだろう。」


 葡萄「ねぇ。渋紙は躑躅の元に行った方がいいと思う?」

渋紙「それは其方次第。気の操りを忘れぬのなら直ちに向かっても良い。」

葡萄「もう少しだけ、付き合って渋紙。……それで少し頼みたいんだけど……。」

渋紙「ん?土の者、一旦紋に収まり休むか?」

葡萄「ううん。僕は疲れてない、大丈夫だよ。渋紙には少しの間空を旋回しててよ。僕が渋紙の身体に球体の気を当てる。そうしたら降りてきて。」

渋紙「なるほど、いいだろう。今度1つ違うのは距離だ。障害物は無くなったとて距離が違う。少し強い気が必要だ。しかも我が動いている。動く物を心で見通せ。さ、では始めよう。」

渋紙は空へと舞い上がった。

 葡萄は呟いた。「確かに距離はかなり違うし、旋回する渋紙に向けるのにも操るのが大変かな……。」

葡萄は掌から離すのではなく少し投げるようにした。これでも上手く出来ていた。スピードもかなり早く渋紙に向かっていた。……が渋紙には当たらず通過してしまう。

 葡萄「あぁ……。つい目で見てしまった。自分の目が球体に付いているかのように心で見通す。……球体に乗って見ているように。……よしっ。渋紙いくぞー!」

同じ様にして空に向けた。葡萄は心の中でイメージしながら操る。スピードを付けた分、渋紙には早く届く。渋紙は避けてはいないが顔の横をすり抜けてしまった。

 葡萄「なんとなく渋紙が見えた。今度は!次は当てる!」

同じ様にした。旋回している渋紙に合わせて、方向を曲げたり速度を変えたりした。遂に今度は見事に片方の翼に当たった。

 渋紙が降りて来た。

渋紙「土の者よ。感心したぞ。気を曲げる、速度を変える。そして我に当たった。気の操りはもう教える事は無い。鍛錬するのみ。上達は自ずと付いてくる。」

葡萄「これを攻撃技召と合わせたら強くなる?」

渋紙「当然だ。アークの力をみくびるでない。そもそも使い手の技召はアークの力によるものだ。」

葡萄「じゃあ僕の気が、星の裏側に届く位に鍛錬しなきゃ。」

渋紙「うむ。しっかりやる事だ。して、一旦ここを離れ、躑躅の所に向かうのか?」

葡萄「西から東への風は向かい風で強くない?、北半球の大陸には海すれすれで飛べば風も少ないし、早く着くと思う。でも渋紙が同意してくれるなら、だけど。」

渋紙「それは其方に従う。如何にする?」

葡萄「萌黄さんには修練してもらってお世話になってる。少しの寄り道ならと思う。手助けになるかも知れないし。行こうよ渋紙!」

渋紙「承知した。躑躅に千里眼を向けてみる。待たれよ。」

葡萄はその間、掌で球体を作っている。上下に左右に動かせる様になっている。そのまま向こうの壁に離す。スピードを付け跳ね返り戻ってきた。それを掌で受ける。散らさずに受けた。

 渋紙「ほう。なかなかの上達ぶり。散らさずに掌に戻すとはな。手前で止めたのだな。……うむ。それも応用なり。」

葡萄「それで、躑躅はどの辺り?」

渋紙「今躑躅から千里眼が帰ってきた。大陸の東の端だろう。ここからは夜更けには着ける。」

葡萄「ジャニオン王国だね。じゃ、行こう。」

 渋紙の胸の紋に収まった葡萄、飛び立つ渋紙。海に出て海面すれすれに飛んでいく渋紙の姿がやがてシルエットに。そして小さくなって見えなくなった。

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