遭逢《そうほう》、其の一、ニ、三

遭逢そうほう、其の一


 馬の手入れを済ませた茜。飼葉桶かいばおけを手にウッドデッキに上がる。

入口ドアの前には萌黄が立っていた。

 茜「あの、何か御用?」

萌黄「大陸の西からあなたを訪ねて来ました。私は萌黄シャーロット。萌黄と呼んでください。」

茜「西……から……。あ、私は夕紅 茜。どうぞ、中へ入って。」

 部屋に招かれた萌黄、中に入って来た。

茜「さぁ、掛けて。」言うと萌黄に椅子を勧め、自分も向かいの椅子に腰掛ける。

つい、またもたれかかってしまい、

茜「痛っ。……」小さくため息をついた。

萌黄「どうしたの?何処か具合でも?」

茜「なんでもないの。もう治りかけてる火傷の跡。医院のドクターもまもなく跡は消えるだろうって。」


 萌黄は話をどう伝えようか悩んでいた。

選ばれし者となれば、これからの苦労の数々、使い手としての萌黄も十分分かっている訳で、これからの茜にはそれを強いる事になるからだった。

茜「紅茶でもいかが?ちょっと待ってて。」

 選ばれし者探しを買って出た責任感が、重くのしかかって来た萌黄は、自分が継承した当時に重ね合わせて考えていた。


 茜がカップを手に戻ってくる。

茜「どうぞ。……萌、黄って言ったわね。私を訪ねたのは何故?……何か話が有って来たのでしょう?」

萌黄「え、ええ。……茜……、あなたにとって重要な事。この先、あなたが変わらなければならなくなる、大事な話。」

茜「いきなり訪ねてきて大事な話が有るって……。しかも私が変わらなきゃならなくなるって……何?」

 萌黄は服の内ポケットから技巧の書を取り出して茜に見せた。風の紋の表紙の文書を…。

萌黄は手をかざし、風の紋を光らせた。

萌黄「これが分かる?」

 茜は昔の噂に聞いていた使い手の印の事を思い出した。

キョーオウの街でも使い手が来ていた頃の話。茜が小さい頃の事だ。

 役所、銀行、郵便局、町長の家。その頃の街は悪人が多く、盗賊による強盗事件が絶えなかった。事件の度に使い手が現れては解決に導いた。その時、使い手は必ず印を残していたと言う。

 茜は、目の前に居るのが使い手であり、何の為にここに来ているのか。直接聞いてみるべきか躊躇ためらっていた。

萌黄は茜の思うところを察したのか、先に話し始めた。

萌黄「私は風の使い手。今光らせたのは風の紋章。そしてこの文書は技巧の書。」

茜「……昔、この街には使い手様が居たという小さい頃の話を思い出したの。」

萌黄「この街に使い手が居たのなら、この紋章に似た印が何処かにあるはずね。」

茜「萌黄?あなたは私にその紋章を見せに訪ねて来たの?それとも昔の使い手様の残した印を確認しに来たの?」

 萌黄は躑躅の20年を伝えたかった。

萌黄「どちらでも、ない……。ねぇ、茜。少し回りくどい話だけど聞いて。……私達使い手は親からこの文書を継承して使い手となるの。使い手はこの世界に8人存在してて、それぞれが獣神を従えている。街や村に、盗賊山賊の類や悪巧みを企てる者が居ると、空に悪意の化身、漆黒の竜が現れる。私達使い手は獣神と共にその竜を退治する事で悪意を消滅させるのが使命。役目を終える度に印を残して他の地へと旅をしていくわ。ところが……今の時代には7人の使い手しか居ない。継承せずに他界した使い手がいたの。その使い手に従えていた獣神は、これと同じ文書と共に、継承に相応しい者を20年余り、探し続けた。そしてその獣神は、ようやく候補者を、相応しい者を見つけた。……それが……あなたよ、茜。」

 茜はハッとして驚きを隠せない。

萌黄「いきなり訪ねてこんな話で、驚くのも無理ないわ。私があなたの立場だとしても驚くどころか何を言われているのかさえさっぱりだもの。……でも、その獣神は20年探してあなたが相応しいと……。それで私がその獣神に代わって訪ねて来た訳なの。」

茜「私が……選ばれ……た……と?」

萌黄「そう。獣神はあなたを選んだ。」

茜「そんな事言われても何が何だか分からない。私の理解を超えてるもの。」少し声を荒げる茜だったが、

萌黄「私、今この話をする事を躊躇とまどったわ。でも、20年世界中を探し回った獣神の事を考えた。それで話す事にしたの。……茜、少し街を案内して。出来れば昔の事件が有った場所がいい。」

茜「そう言われても、私はまだ幼かったし覚えてない。」

萌黄「悪いヤツらに狙われそうな所は無いの?この街はそんなに平和?」

茜「悪いヤツは居るわ。私はそういうヤツらを片付ける事を仕事にしてる。城からの手当を貰って暮らしてるの。」

萌黄「そうなんだ。それでその鞭が壁に幾つか掛かってるんだね。」

茜「え、ええ。そんなとこ。……と、とにかく外の空気を吸いに出ましょうか。私、医院にも行かなきゃ。」

萌黄「私が使い手なのは内緒よ。まぁ、分かる人には分かるけどさ。別に名乗る必要無いしね。」

 萌黄は茜の事を想うと、強引に選ばれたからって連れ出したくなかった。親から継承するのとは大違いなのをよく知っていた。茜とは先ず打ち解けてからにしようと考えたのだった。




遭逢、其のニ


 街を歩く茜と萌黄。

茜「萌黄。あなた、歳いくつ?」

萌黄「私は28。」

茜「あら偶然。私も28よ。……あ、街案内の前に医院によっていいかしら?」

萌黄「医院?火傷の治療?」茜「ええ。ここ数日は毎日。でも賊退治で傷は絶えないわ。それが仕事じゃね。」

萌黄「火傷も賊にやられたの?」

茜「ううん違う。火事にあってね、後ろでドーンって爆発が有ってその火で焼けたの。」

萌黄「後ろで……ドーン……?」


 歩きながら話していた2人は医院に着いた。

茜「少し待合室で待ってて。すぐ済むから。」

 医院のドアを入る2人。待合室の長椅子にローラが座っていた。

茜「あら、こんにちはローラ。どうしてここに?」

ローラ「茜お姉ちゃんが来るの待ってたの。……その人は?……茜お姉ちゃんがまた助けた人?」

茜「違うわよ。……私のお友達なの。」

萌黄「茜、ドクターの所へ行っていいよ。私がこの子と話してるから。」

茜「ありがとう、お願い。」

 ローラは診察室に入っていった茜を見送る。

 萌黄「ローラちゃん?私は萌黄。茜お姉ちゃんの友達だよ。」

ローラ「茜お姉ちゃんのお友達なの?だったらローラのお友達―。も、もえ……。」

萌黄「も、え、ぎ。萌黄って呼んでねローラ。」

ローラ「萌黄お姉ちゃん。」

 ローラは長椅子からおりて、ペコリと頭を下げた。

慌てて萌黄も立ち上がり、頭を下げる。

萌黄「よろしくね。」

 また2人は長椅子に腰掛ける。

ローラは足をパタパタさせながら萌黄に話しかけた。

ローラ「茜お姉ちゃん、私を助けてくれたの。だから萌黄お姉ちゃんも助けられたのかと思っちゃった。茜お姉ちゃんのお友達だったんだねー。」

萌黄「う、うん。茜お姉ちゃんのお友達だよ。……ローラは茜お姉ちゃんに助けられたの?」

ローラ「うん。お家が燃えちゃってて、私、ベッドの下に隠れてパパとママを呼んでたの。そしたら、茜お姉ちゃんが来てくれて、抱っこしてくれて、助けてくれたのー。」

 ローラの言葉で茜の火傷の事情を知った萌黄は、つい、ローラの手を握っていた。

 茜が治療を済ませて出てくる。萌黄はローラと手を繋ぎながら立ち上がった。

茜「あらー?2人共もう仲良しなんだー。」

ローラ「うん。萌黄お姉ちゃんは茜お姉ちゃんのお友達だから、ローラのお友達だよー。」

萌黄「もう終わったの?」

茜「うん、ドクターが往診に出掛けちゃうところだったから、ギリ間に合った。今日でもう通わなくて良いって。」

 話していると医師が診察室から出て来た。

茜「あ、ドクター。今日までありがとうございました。」

医師「背中の跡は少し残ってしまっているが、もう大丈夫じゃよ。ローラ。茜ちゃんの背中はもう治ったから、ここへも来なくてよくなったよ。」

ローラ「ドクターありがとう。」

 茜「ドクター、少し話していいですか?」

医師「往診には行くが、少しなら構わないよ。何じゃね?」

茜「以前、この街に使い手様が居たと思うの。その使い手様の印をご存知ですか?」

医師「あぁ、知っとるよ。……ちょっと腰掛けようかの。」

 長椅子一杯に皆んな並んで座った。

医師「茜ちゃんが賊退治を始める随分前の話じゃ。最後に使い手様が印を残したのは確か…銀行だったかのう。ワシも聞いた話だがの。空の黒い竜を使い手様が退治すると、銀行に押し入った盗賊達が消えてしまったという。その後、使い手様が床に印を残したんじゃと。また狙われる事が有ったら印に願えば飛んでくると言い残したそうじゃ。今の茜ちゃんなら片付けられる盗賊達だったかも知れんがねぇ。……それじゃ、ワシは往診の支度をせねば。怪我をしない様に、無理せんで暮らしなさい。」

茜「ドクター、お世話になりました。」

 医師は奥へと歩いていった。

 萌黄「茜……。」

茜「萌黄、私。印が見たい。」

萌黄「う、うん。それより……。」

 足をパタパタしているローラに目を向ける萌黄。

茜「あ、ローラ、待っててくれてありがとう。今日はお友達とお話が有るから、ローラはお家に帰りましょ。お姉ちゃん達が送ってあげる。」

 医院を出た3人は手を繋ぎながら歩いていった。


 町長の仮住まいまでローラを送ると、

茜「萌黄、銀行はここから近い。歩きで大丈夫?それとも馬を取りに行こうか?」

萌黄「大丈夫よ茜。……でも銀行の印、あなたには見えない。さっき見せた文書を持つ使い手だけに分かる印なの。」

茜「でも、萌黄がいれば私も見られるでしょ?銀行の建物は昔から変わってないはずだから、印は見つかると思うわ。」

萌黄「何故見たいの?さっき私の文書の紋章が光ったのは見たじゃない。」

茜「ううん、萌黄を疑ってるとかじゃなくて、この街で使い手様が残した印を見たいの。ただそれだけ。」




遭逢、其の三


 銀行の建物の前に来た2人。車寄せのある立派な銀行の佇まい。

萌黄「獣神の印を残すなら柱かなぁ……。」

 獣神の印は使い手が技巧の書をかざさなくても、近付くと光輝く。使い手により記す場所は様々。

 茜「建物は変わってないはずなんだけど……。」

萌黄「何か有った時に誰かが印に願うんだ。そんなに目立たない所じゃ無いと思うんだけど……。」

入口に歩いて行く萌黄。すると薄っすらと獣神の印が光った。

萌黄「茜!ここ。」

茜「これが……。獣神の印。」

萌黄「古い為か、入口で人の出入りが有るからか、薄っすらとしか光ってないけど、これは火の紋章よ。」

茜「火の紋章……。」紋章をじっと見つめる茜。

萌黄「他の場所の印も探す?」

茜「ううん。もう家に戻ろう。」


 獣神の印を後にして家路につく2人。

 そこへ小さな地震が起こった。揺れは小さいが萌黄が気付く。

萌黄「地震。……揺れは小さいな。茜は気が付いた?」

茜「地震?今小さく揺れたわね。最近はこの街でも多くなった。」

萌黄「多くなってきた地震は、茜を訪ねた理由の1つでもあるんだよ。」

茜「地震まで関係あるの?」

萌黄「それは話せば長〜〜〜くなっちゃうから今は止めとくよ。茜を困らせたくない。」

茜「萌黄の従えてる獣神は空にいるの?」

空を見上げる茜。

萌黄「普段は文書の紋に収まってる。体力回復や少しの怪我の治癒は出来るんだ。……茜、見たいの?なんなら獣神からも話が聞ける。技巧の書を継承すればだけどね。」

茜「ううん、止めとく。家でもう一度話を聞かせて。」


 茜の部屋に戻った2人。

茜「紅茶でも飲みながら話しましょうか。」

 湯を沸かしにキッチンに入る。


 萌黄は技巧の書をテーブルに出した。茜が戻り腰掛ける。

向き合う2人。2人共話を切り出し辛そうだった。

 茜「それが萌黄の技巧の書なのね。……」何故か2人はギクシャクしている。

萌黄「茜が継承を受けたなら、獣神を従える様になる。話す事も出来るの。私は、獣神が選んだ茜だから、継承を受けて欲しいと思ってるわ。それからは獣神の20年の話を聞いたり、あなたの気持ちを伝えるのもいいと思う。」

茜「使い手になったら、この家も引き払わなきゃならないのね……。」

ふと暖炉の両親の写真に目をやった。

 茜「あ、今紅茶入れてくるわ。」

萌黄も暖炉の写真を見ていた。両親……。萌黄は使い手を継承してからは両親に会っていない。


 茜「さ、萌黄。どうぞ飲んで。」

萌黄「茜の両親は?離れて暮らしているの?」

茜「私の両親は15の時に農作業の帰りに賊に殺されてしまった。それ以来は1人暮らし。その頃から賊退治を志したの。」

萌黄「この家は両親の思い出も有るわよね……。私は使い手になってからは両親とは会っていない。会うことより、使い手の使命を優先しなさいって言われて……。」

茜「使い手の……使命……。」

萌黄「うん。たくさんのおきてがある。この書にはそれが書かれている。使い手の歴史や、使い手の力についても。」

茜「その内容を全て知る必要があるのね。」

萌黄「そう。そして全てを記憶する。それから、ある所で使い手の力を授かったら、漆黒の竜を退治するための修練の毎日。その間に漆黒の竜が現れてしまえば、対峙しなければならない。」

茜「漆黒の竜は何故現れるの?」

萌黄「漆黒の竜は、人の悪意の化身。危険な悪巧みの意思が化身となって上空に現れる。それを片付けるのが使い手の使命。竜を消滅させると、悪い企てを計画した関係者達も消滅するわ。その時助けた人に、獣神の印を残して去る。お礼も手当も受け取らない。使い手は仕事ではなく使命で行動しているの。」

茜「同じ場所で過ごしてはいけないの?」

萌黄「ある程度の平和が戻ったら、他の地に旅するわ。もっと悪が蔓延はびこる場所へ……。」

茜「そう……。」うつむく茜。

 心の内を察した萌黄。

萌黄「ローラちゃんみたいに仲良しな子供達と離れる事になるわね。……長く1人で暮らしている茜はまた1人になるのが怖い?寂しい?」

萌黄は出来る限り茜の心に寄り添いたかった。

 茜「子供達、街の人達、顔見知りになった城の衛兵さん達……。離れなきゃ、別れなきゃいけなくなる訳ね……。」

萌黄「ううん、それは違う。それは茜次第よ。今の使い手達も、自分の出身地から離れたくないんだ。だから行動の中心として街にいる。でもまたそれなりに平和が戻れば旅をする。そんな行動をしている。……それにね、1人になる訳じゃない……と私は思ってる。獣神が側にいるもの。私、自慢じゃないけど、使い手の中では1番獣神とコミュニケーションが取れていると自負できる。一緒に行動する相棒であり、悩みを打ち明けられる相談役であり、何より、身近な友達であると私は思ってて、その気持ちで獣神とは接しているわ。」

茜「私を選んだ獣神……。20年も探し続けていた中で選んでくれた……。その理由は何だったんだろう……。」

萌黄「さぁ。それは獣神にしか分からない気持ちね。」

 茜は立ち上がると暖炉の上の小さな宝石箱を持ってきた。

茜「先日、国王からのお礼と、城への招待を受けた。……私が使い手の継承を受けたら、全ての人の気持ちを踏みにじる事にはならない?」

萌黄「それも茜次第だよ。継承を受けたら、使い手の力を授かりに出掛ける。それが済んだらこの街に戻って、国王の城に行けばいいんじゃない?……もちろん事情を伝えなきゃならない。獣神を従えた使い手なんだと誇示する事も有りかも知れないわ。」

茜「萌黄は凄いのね。私なんかと違う生き方をしている……。」

萌黄「全然凄くなんかない。凄いのはこの技巧の書と使い手としての力、頼りになる獣神があってこそなんだから。私なんか使い手のペーペーよペーペー。」

茜「ペ……ペーペー?どうして?使い手の力で漆黒の竜退治をするでしょ?」

萌黄「そりゃあそれなりの技持ちだけど、私なんかしょちゅう文書もんじょの読み返しで過ごしてる。記憶するのが苦手なんだー。これを全て記憶するなんて出来なくて。それで錫に……あ、錫は私の獣神。その錫によく泣き付いてたわ。未だにその事を厳しく言われる。」

 茜はまだ決心が付かなかった。ただ、萌黄を見ていると、辛い気持ちはあるのだろうけど、寂しさは見られなかった。

 萌黄「直ぐに決心付かないよね。話が唐突過ぎるもんね。」

萌黄は椅子に足を乗せて膝を抱えた。

萌黄「さっき街で、茜を選んだ理由には地震も関係するって話したでしょ?最近の頻発する地震、大地の怒りの時が近いのではって使い手達が危惧してるの。……大地の怒りの時、それは太古の昔の話。世界中が危機に瀕する天変地異が起こったの。それを8人の使い手と大地の竜が力を合わせて防いだ事で今の世界が有る……詳しくはこちら……。」

萌黄は苦笑いしながら技巧の書を指した。

萌黄「もし、それが私達の時代に同じ事が起こっても、今の使い手は7人。……。」

茜「1人……足りないのね……。」

萌黄「その1人を20年探し求めていた躑躅、あ、獣神の名前。火を司る獣神よ。飛び回って探す事に専念してたから、今の頻発する地震には気付いていなかった。この地で会って伝えたけどね。獣神は使い手の指示がないと、この技巧の書には収まれないの。20年の間、それが出来ず疲れを癒す事すら出来なかったと思うわ。」

茜「……私を選んでくれた、その獣神とはどうしても話せないの?」

萌黄「使い手しか出来ない……。……。!!」……ハッとする萌黄。

萌黄「あのね。私が獣神と話す時、たまーに額を付けて話すことがあるの。会話するのと違って。そうする事で、全ての自分が伝わるの。他の使い手はやらない事だけど、私は心から獣神を慕っているから、頼りにしてるから。他の使い手は神通力でそのまま話すけどね。……茜がそうすれば、もしかしたら躑躅は話してくれるかも……。ただ、使い手じゃない茜だから保証は出来ないよ。茜の全てを心から伝えたいって意思を持たなきゃ無理。どお?試してみる?」

茜「私、躑躅って言う名の獣神の、今までの苦労を聞かなきゃいけないんだと思うの。それと何故、どうして私なんかを選んだのかを聞きたい。」

萌黄「……分かった。人目につかない離れた場所、しかも広さがある場所って近くにある?」

茜「ここからしばらく北に行かなきゃ無いわ。そこに広い丘が有るの。……でも私、馬で向かうのはダメかしら?」

萌黄「逆に馬を驚かしちゃう。その場所から少し離れた所で馬を降りて来たらOKよ。」

茜「日暮れも近い。人目も避けれるからこれから向かう。」

萌黄「うんうん、良かった。茜の意思決定はそれからでもいいよ。私は躑躅を説得して、茜と会うように話して連れ出すから、茜はその丘で待っててね。」

 萌黄は家の裏で錫を召喚し、紋に収まると躑躅の元へ向かった。

 茜はそれを見上げながら、

茜「獣神……か。……躑躅。……私はあなたの期待に応えられるか自信がない。でも今の気持ちを伝えてみよう。」

 茜は、馬の背に鞍を乗せ固定すると、またがって丘に向け走り出した。

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