第4話

レオンが城につく頃には夜になっていた。

「遅いわよ。レオン」

城の門の前ではレイが仁王立ちしていた。

「レイ・・・」

そのままレオンが抱きつこうとすると、素早くかわす。

「聞きたいことがあるの」

「なんだい。君の為なら何でも答えよう」

「気持ち悪。まぁいいわ。あの子。龍也って子何者なの」

「龍也様はルーカス様の魂を継ぐものですよ。人界で私が見つけました。」

「なるほどね・・・」

レイは静かに考え込んだ。

「もう一人の海様はただの人間で、シルバ様が狼族の首飾りを与えて力を持っただけですけどね。」

「え?あの子ちゃんと獣人の魂を持ってるわよ」

レイの言葉に驚きを隠せない。

「いや。海様は人間ですよ。門を通っても何も起きなかったんですよ」

獣人は人界から戻る際通行する門で、動物へ変異するのだ。龍也はその際竜の姿になったが海は何もならなかった。

「そんなはずはない。魂はしっかりと獣人に反応があったわ。」

レイの言葉に腕を組む。

「しかしトレーニングをしていても海様は特別能力を何も感じませんでしたが・・・」

城の門で仁王立ちしている二人をファイが迎えに来た。

「ちょっと二人ともいつまでそんなところにいるの」

「ファイ様、申し訳ございません。すぐにお夕飯の準備を」

レオンが急ぎ足で先に城内へ急ぐ。

「何お話をしていたのかしら。魔女さん」

「お嬢ちゃんにはまだ早い大人の話よ」

ファイとレイは不敵な笑みを浮かべ、別々の方へ歩いて行くのだった。

 夕食を済ませると一同は大広間に集まった。レオンが遅れて到着し手には秘宝を持っている。

「これは前回ファイ様と共に人界に取りに言った時の物です。おそらく人界にはあと一つ。獣界にはあと二つあると思われます。」

ブレスレットを皆に見えるように持ち、レオンが続ける。

「この秘宝を集めることが何よりも最優先ですが、竜族の生き残りを捜し力を貸してもらうことも考えていきたいと思います。レイ、竜族についてはお願いしてもよろしいですか」

レオンに話を振られ大きくもたれかかっていた椅子から立ち上がる。

「別に構わないけど、そこの竜族のおぼちゃんも一緒にお願いしたいわ」

龍也に向けられた視線に戸惑う。

「僕ですか・・・。なんのお力にもなれないかと思いますがそれでも良ければ」

自身のなさそうな龍也の元までレイは歩み寄り龍也の顎に手をかける。

「いるだけで力になるからお願いね」

レイの不敵な笑みに戸惑いながらもにっこりと笑顔を返す。

「俺も行く」

海がすかさず立ち上げる。

「あんたは駄目よ」

ファイに阻まれそちらをにらみつける。

「なんでだよ!俺だって力になりたいんだよ」

「でしたら、海様は我々と共に獣界の秘宝を捜しに行きましょうね。」

レオンの不敵な笑みに海は背筋が凍えそうだった。

「大丈夫よ。取って食ったりしないから」

レイに言われても海は納得できない表情だった。ただでさえわけのわからない世界で不安の多い中唯一の人間であるお互いと離れることが心配でならなかった。

「お二人も十分実践で活躍できるだけの訓練は行っておりますので、心配なさる必要はありませんよ。何しろレイは魔女です。魔力で彼女に勝てるものはそうはおりません。お恥ずかしいながら我々がレイと戦っても結果が目に見えているのです・・・」

「じゃあなんでわざわざ龍也を連れて行くんだよ」

食い気味にレオンに突っかかる海。それを見てレイが間に入る。

「この子はね、竜族でしょう。ただ力になってほしい。って伝えるよりも、この子を連れていき彼の為に力を貸してほしいと伝えれば竜族も協力してくれるんじゃないか。ってことをレオンは言いたいのよね」

「はい!レイさん!!」

それでも納得いかない表情の海を見て龍也が今度は口を開く。

「海。そんなに心配しなくてもちょっと竜族を捜しに行くだけだよ。レイさんは強いみたいだし、僕も自分の持つ力を試したいんだ!!だめ・・・・・・かなぁ」

かわいらしく首をかしげると海の顔をのぞき込む。

「・・・・・・・・・。龍也のばか。」

「はいはい。ありがとね」

海のばかには色々な意味が込められていた。それを感じ取った龍也は笑顔でレイにつげる。

「レイさん。一緒に行きましょう」

ファイとレイとレオンは目を丸くする。

「え?今ので海。納得したの?」

「えぇ。海は僕の一番の理解者ですから」

竜族の本質的な力なのは、それとも龍也の生まれ持った性格なのか。龍也の話術に圧倒させる一同であった。


 朝日が登る前にレイと龍也は、城のテラスにいた。

「長旅になりますか?」

「いえ、ならないわ。今日中に帰れるように頑張りましょう。目星はついているの。ただ、きっかけがなかっただけだから、あなた。お願いね。」

「承知しました。では、行きますか。」

「えぇ。きっと今日のディナーはおいしいわ」

テラスの先に足を掛けて朝日に向けて飛び出した。

「りゅうやぁ」

飛び立ったその場所に、部屋から飛び出してきた海が立っていた。

「いってきまぁす」

笑顔の龍也がとてもまぶしく海はそこからしばらく動けなかった。

「ほんと、ばかね」

部屋からファイが、海に声を掛ける。

「うるさい。お前に俺の気持ちがわかるか。小さいころからずっと一緒にいて俺があいつを守ってやってたんだ」

「今は、あんたが守られてるじゃない」

馬鹿にしたような高笑いに、一瞬海の表情が変わった。

「・・・・・・・・・・・お前の・・・・いう通り・・・かもな」

静かに部屋に戻り、廊下へ続く重い扉を開けた。海のその背中を見つめ、ファイは胸を締め付けられる想いだった。


 広々とした荒野が広がり先には大きな海が見えてきた。龍也はその景色に胸を高鳴らせていた。

「すごい景色ですね。海なんて久しぶりに見ました。飛んでいるとあっという間に進みますね」

「えぇ。人間は地面を這いつくばって行動するから、時間掛かるものね」

「這いつくばるって・・・」

レイの悪気ない言葉に小さな毒を感じ苦笑する。そんな龍也を心配そうに見つめるレイ。

言葉につまりここまでほとんど会話をせずにきたが、レイのほうから投げ掛ける。

「どうしてあのぼうやは、君にあんなに執着してるの。」

冷静に前をむいて飛びながら声を掛けてくるレイに対し驚いてレイのほうに顔を向ける龍也。そのはずみで飛び方が不安定になるがすぐに持ち直し少し言葉に詰まる。

「あぁ・・・。あれは僕のせいなので」

「お姉さんに教えてみなさい」

レイの不敵な笑みに、苦笑いしながらも前を向きながら淡々と話を始める。

 時は、海と龍也が出会った8歳の頃に戻る。龍也は母の再婚により授かった弟の出産により、日本に戻っていた。母の実家に身を寄せ、しばらくの日本滞在の為、龍也はランドセルやら日用品の購入に大きなショッピングモールにきていた。

「りゅうちゃん!ランドセル何色にする」

体のラインの出るいわゆるセクシーな服装の女性は、彼の母であった。母は日本人であるが、日本人離れしたきれいな顔立ちをしていた。龍也は母の足元から動かず、棚に並べられたランドセルを見上げる。

「ママは、ピンクがいいなぁ」

ピンクのランドセルを手に取り龍也に背負わせる。

「やだ、かわいい」

母のおもちゃにされ、色々なランドセルを試着させられ、写真を取られ・・・・の繰り返しであった。3歳の頃に父が亡くなり、5歳の頃に父の弟と母が再婚したので、目まぐるしい家庭環境の中で、彼は適用する能力を付けたのか、母が納得するまで自分の意見を言わず、着せ替え人形になることは慣れていた。しばらくたち母は納得したのか、棚に並べられたランドセルをもう一度眺めた。

「で、りゅうちゃんどうする。りゅうちゃんが5年使う物なんだから自分で選びなさい」

「え。ずっと日本で暮すの?」

「うーん。お父さんが子育ては日本のほうがいいっていうけど、まだはっきりとはわからないのよ。でも、とりあえず1年は日本にいるから、ランドセルは買おうね。日本ならではよね。色々名前入れたりできるみたいよ。」

母はまた楽しそうにランドセルに目をやった。

「じゃぁ・・・。このネイビーがいい。名前も書いてね」

龍也が自分で手を取り、母に渡す。

「わかったわ!ママが店員さんにお願いしてくるわね。りゅうちゃんどうする。一緒に行く」

「ぼくはそこの本屋さんに行きたい」

店の向かい側にある本屋を龍也は指をさした。

「わかったわ。気を付けてね」

元から母は、エンジニアの仕事で忙しく、父は研究員だった為、昔から何事も一人で淡々とこなしていたので、首からおこずかいを下げて、欲しいものを買うことは当たり前だった。研究者だった父譲りで、本が大好きであった。絵本を手に取り、新しい話に胸を躍らせていた。きれいな絵柄の本に魅了され、何時間もその場から動かなかった。すると、背後から視線を感じた。振り返ると誰もいない。母が来たのかと思い、本を置いて本屋の入口をのぞき込む。しかし、母の姿はない。再び先ほど読んでいた本のもとに戻る。しかし、途中で手放した本が見つからない。うろうろと店内を動き回ってると、背の高い黒いスーツの男がその本を持っていた。

「ぼうや。この本開けたのか」

「え・・・」

低い声で話しかけられて、その威圧的な雰囲気に何も声が出ない。

「この本開けたのか」

男がしゃがみ、龍也の目線に合わせて声を掛けてきた。本能的にやばいと思った。でも、体が動かない。固まっていると手をつかまれ、そのまま人気のない所に連れ込まれた。“殺される”と思った。本が開けたからなんだ。その本に何か原因があったのか。色々な事を頭が巡ったが、この状況が非常にまずいことには変わらない。すると、もう一人男の仲間なのか、スーツの男が現れた。

「このガキか。ん。外人か」

「話さねぇからかわらねぇが、この見た目は日本人じゃねぇよな」

「どうする。連れていくか」

“つれていく”という言葉に恐怖を感じた。大きな目で男たちをにらみつける。

「ぼく、今日は誰と来たのか」

歩きながら地下駐車場までたどり着いた。体は素直に男たちに導かれるまま、歩いてきてしまった。

「・・・・・ママ」

男たちは目を丸くした。

「そうかママか」

少し優しそうに笑う。悪い人ではないのかな。と、龍也も少し表情が和らいだ。すると、仲間の一人が誰かに電話していた。その後、車が目の前に到着した。

「ぼうや、お腹すいたろ。何食べたい」

ずっと手をつないでいる男が優しく声を掛けてきた。

「さぁ、車乗って。あっちのおじさんがママに電話して伝えてくれているからな。行こうか」

絶対嘘だ。脳裏をその言葉がよぎったが、また体が動かない。たった8歳の自分に何が出来る。大人二人に対して、子どもの力でどこまで出来るか。そんなことを考えていた。

「おっまわりさーん」

大きな子どもの声が地下駐車場に響き渡る。

「サツか」

スーツの男たちが慌てた様子で車に乗り込む。

「いこう!ぼく」

最後まで無理やり連れ込もうとしない、手をつないだ男の手を中々振り払えなかった。悩んでいると、同じくらいの年の男の子が無理やり男と僕の手を離した。

「離せよ!この誘拐犯」

彼に一括されると男は車に乗ってどこかへ行ってしまった。そうしたら気が抜けたのかその場に二人で座り込んでしまった。

「かい~」

男の人の声がして少年は返事をする。

「父ちゃん!ここ!」

少年が父と呼ぶ人と、母が一緒に来た。

「りゅうちゃん!!」

母はぼくを見つけると抱き上げた。

「もう。心配したんだから。」

「ママ。赤ちゃんいるのに、恥ずかしいよ」

「赤ちゃん?」

母は、ぼくを降ろすと少年にお礼を言った。

「ぼうや、ありがとう。うちのりゅうちゃんを守ってくれて。堂本さんもありがとうございました。」

母が堂本さんと呼んだ男性は優しく微笑みかけた。

「こんなせがれでもお役に立てて良かったです。さあ海。帰ろう、お母さんが待ってる。」

「ほらりゅうちゃん、海君にお礼を言って」

母の後ろに隠れえていた僕を手を引いて少年の前に連れ出す。

「俺は堂本海。小学2年生だ」

「・・・・・雷牙龍也。8歳」

僕らは握手し、その日は別れた。次の週学校で再開することは言うまでもない。


 城の大広間では紅茶を飲みながらファイとレオンが海の話を聞いていた。

「でもそれだけで龍也に執着する意味が分からないんだけど」

レオンに紅茶のお代わりを目で合図し、大きなソファーに腰掛けるファイ。

「これは始まりに過ぎない。あいつはそのあとも、女の子に間違われて露出狂につかまったり、モデルにならないかと訳の分からないやつに声をかけられたり、とりあえず。よくいろいろなことに巻き込まれたり、変質者に好かれたり、とにかくほっとけないんだよ」

レオンが新しい紅茶をいれながら、表情を曇らせる。茶葉を3杯ティーポットに淹れてお湯を注ぐ。

「龍也様は絵本を読んでいたと申しておりましたよね」

「あぁ、俺はその場にはいなかったけどな」

手慣れた様子で紅茶を注ぐ。いい香りがあたりを包み込む。

「もしかしたら、その本は『はじまりのほん』かもしれません」

「はじまりのほん?」

「はい、王族にしか開くことのできない本でして、まさか人界にあったとは・・・」

レオンはケーキを取り分けながら『はじまりのほん』について教えてくれた。

「その本は人類を操る力があり、王族同士お互いがお互いのために作った本です。」

「お互いがお互い?」

「はい、例えば国王が無茶なことをしたら止められるように・・・ということです。なのでお互いの国にしかないはずなのですが・・・・・龍也様が開けたということは、獣界の本なはず。人間を操れる本が人界にあると少々まずいですねぇ」

ファイが大きな口でケーキを頬張る。

「龍也はそのあと本をどうしたの」

腕を組んでその時を思い出そうとするが10年前のことだ、もう覚えてはいない。

「龍也が持ってることはないと思う。その誘拐しようとしたやつらが持っていったのかもしれないな。俺も小さかったからあまり覚えてないけど」

そいつらが人間なのか獣人なのかも、今となっては確認のしようがない。3人は無言で紅茶を口にする。その沈黙をはじめに破ったのはレオンだ。

「まぁここで我々が落ち込んでいても出来ることは何もありません。もう10時です。とりあえず午前中はデータを絞り込んで午後にでも秘宝を探しに行きましょう。」

レオンに飲んでいたティーカップを片付けられファイと海はしぶしぶ地下へ向かった。笑顔で二人を見守るがその笑顔の中には一筋の影が覗いていた。


 海を越えた先には大きな森が広がっていた。

「ぼうやも苦労したのね」

幼少期の話を黙々と聞いていたレイがやさしく声をかける。

「僕もハーフなので、見た目が派手で変わってるから仕方ないんです」

“見る人が見れば力を感じられたから誘拐されたのではないかしら・・・”とレイは内に秘めた思いを飲み込んだ。大きな木が見えてくるとレイは速度を弱めた。

「そろそろ降りましょう。」

「はい」

ゆっくりと降りるとそこには、一筋の光が差し込む神秘的な空間であった。レイは足音を立てないようにあたりを確認する。

「この辺に竜族がいるのですか」

レイは黙ってうなずく。そして急に大きな声を出す。

「あぁ龍也。とても苦しいわ。森の奥にある赤い実をとって来て頂戴」

レイはその場に倒れこみ、目で何やら語り掛けてくる。

「あ・・・・・・は、はい。わかりました。い、行ってまいります。」

ぎこちない歩みで龍也は森の奥へと走っていった。すると龍也の跡をつけるような人影をレイは見逃さなかった。静かにレイも足音を立てないようにその影を追った。おそらく先ほどの龍也の話に合った誘拐。きっと、“はじまりのほん”を開くことが出来たから誘拐したことも考えられるが、彼は無意識のうちに竜族の持つオーラを放っている。それを同族ならなおさら敏感に感じるだろう。しかも龍也は生まれ変わりだ。警戒心の強い竜族でも、きっと接触してくるはず。レイは竜族が龍也に接触する機会を待った。龍也はまっすぐに進み突き当りまで来た。

「大きな滝だなぁ」

突き当たった先には大きな竜の像の口から水がごうごうと流れ出る滝になっていた。滝の周りには真っ赤な林檎のような赤い実がなっていた。その場で飛びあがり、実のなる高さで浮遊しながら持てるだけ赤い実を取った。ゆっくりと降りようとする為下に目を落とすと、マントをかぶった男の人が6人程立っていた。恐る恐るその場とは少し距離を取ろうとするが、男たちは移動した先にも付いてきた。

「なんなんですか。あなたたちは」

龍也が声を掛けるとマントの男たちはひざまずいた。

「あなた様は、ルーカス様の魂をお持ちですね。我々は竜族です。」

ゆっくりと竜族を名乗る男性は、頭まで掛かったマントを取った。顔をあらわにした男性たちの頭には耳と角が生えていた。その姿に危険がないとわかると地面に降りた。

「僕は人界から来た雷牙龍也と申します。この世界には来たばかりです。僕はみなさんみたいに角や耳もないのにどうしてわかったんですか。」

その様子をレイは物陰からひっそりと見ていた。

「はじめまして。私は竜族のハーバル・バルシャワと申します。竜族は、今ここにいる6人の男性とその家族のみです。竜族は他の種族とは違った力を持っています。その為争いも絶えず、力を利用されることも多いので今はこうして身を隠しながら生活しています。」

「それで・・・・僕に何をお求めですか」

恐る恐る、龍也はハーバルの顔をのぞき込む。きれいな緑色の瞳に吸い込まれそうだった。

「はい・・・。あなた様の魂は竜族の者です。我々も、小さな集落で隠れて暮らしてきました。ですが、あなたは王です。ぜひ、我々の王となり竜族の未来を守ってほしいのです。」

その場にいた男たちは皆、龍也に跪いた。きょろきょろと龍也はあたりを見渡し、レイの姿を見つけると、大きな声で叫んだ。

「レイさん!どうしよう」

頼りないその声にため息をつき、渋々物陰から出てきた。

「魔女だ」

竜族の人々は警戒して距離を取るが龍也はレイのほうへと足を向ける。

「あなたねぇ・・・なんでそんなにまぬけなの」

「すみません。」

レイは咳払いすると、竜族のほうへ体を向ける。

「私は西の魔女レイです。話は聞かせてもらいました。龍也を王とするよりも先に、この世界がなくなってはどうしようもありません。人界と獣界があと80日程でぶつかり合って、消滅することをこの、王である龍也と共に食い止めませんか」

「え?」

レイに急に前に押し出された龍也は動揺を隠せないでいた。

「世界が消滅するとは本当ですか」

ハーバルが一歩前に出てレイに話しかける。

「えぇ本当です。それを食い止めるために私たちは龍也を人界から連れてきたのです。私たちが連れてこなければあなた方もここにいる龍也と会えなかった。そして、世界の破滅を防ぐため我々はあなたたちの力を借りたい。世界が平和になったら、ここにいる龍也が獣界の王になるわ。ね?悪い話ではないでしょう」

驚きのあまりレイのほうを睨みつける龍也に、彼女は「しー」と人差し指を立てていたずらに笑った。

「龍也様が、王になるなら」

「龍也様がお望みなら・・・・」

竜族の男たちが口々に話す。

「・・・で、どうします」

レイがにんまりと笑う。

「行きましょう。龍也様のお心のままに」

ハーバルが跪くと、後ろにいた5人の男も跪いた。

「決まりね。みんなで城に戻るわよ。」

レイが嬉しそうに龍也の方を向いた。

「僕、ここにいる意味ありました?」

「もちろん。あなたのおかげよ。とりあえず帰りましょう。あなたのおぼちゃまがきっと首を長くして待ってるわよ。」

龍也は大きくため息をついて、竜族の方を向いた。

「僕たちはいったん城に戻ります。みなさんは家族の事もあるかと思いますので、お力を貸せるようになりましたら、城へお越しください。お待ちしております。」

そう告げると静かに頭を下げ、顔をあげると同時に高く飛びあがった。先に飛んでいたレイを追いかける。

「こんなので大丈夫でしょうか」

「大丈夫よ。きっと来るわ」

2人は笑顔で城へ向けて戻っていった。


 城の地下室からはこの世の物とは思えないうめき声が、響き渡っていた。レオンは静かに3回ノックすると紅茶とケーキを持って、入っていった。

「何か手掛かりは見つかりましたか」

ティーカップに紅茶を注ぐといい香りが、地下室を包み込む。

「おそらくこちらにあるのは、『青龍と雷龍』よね・・・・。もしかしたら、灯台下暗しじゃないかと思うのよ。」

「灯台下暗し?」

「おバカな海にはわからない?こんなに調べてないならこの城の中にあるかもしれないって考えはないかしら。」

レオンが淹れた紅茶をゆっくりと口に付ける。

海はケーキに乗ったいちごをフォークでさすと、少しむすっとする。

「この城なんて始めに調べてないのかよ」

ファイも少し考えて斜め上を身ながらケーキを手に取る。

「まさか城にあるなんて思わないじゃない。しかも人界に目を向けていたから、獣界は確かに穴だらけなのよ。でも、きっとあの洞窟には何かありそうだし。」

「そうですね・・・。このお城にはまだまだよく知らないお部屋もございますし。休憩ののち、色々見に行きますか。」

レオンもソファーに座り紅茶を手に取る。

「そうだな。龍也たちが戻る前にこっちも何かしないと顔向け出来ないし」

「よし、じゃぁ探検に行くわよ~」

ケーキをたいらげると、意気揚々とファイと海は色々な部屋を調べるために、散らばった。

レオンはキッチンへ先ほど使った食器を片づけに向かった。ワゴンの規則正しい音が静かな廊下に響き渡る。ふと、窓の外に目を向ける。

「レイと龍也様は上手くいっただろうか・・・」

少しずつ日も傾いてきた。夕暮れ時はどうしても寂しい気持ちになる。遠くに見える森に目を向け、大きな光に目を細くする。

「あれは・・・・・・・」

ほうきにまたがった人がこちらに向かってくる。レオンは慌ててワゴンを手放すとテラスのある部屋に向かった。ほうきにまたがる主は、どうもコントロールが思うようにいかず、まっすぐ来ると城の壁に激突してしまいそうだった。

「こちらへ!!!」

レオンが叫ぶと、そのままそちらへ勢いよく向かってきた。レオンもどうすることもできず、そのまま向かってきた彼女を受け止めて何とか静止した。

「いたた・・・・・。あ!!申し訳ありません」

ほうきの主は勢いよく立ち上がりレオンに手を差し伸べた。

「いえいえ。お久しぶりですね。ルルーシャ様。レイ様にでも呼ばれましたか」

ほうきの彼女は南の魔女ルルーシャであった。

「えぇ、レイから世界の話を聞いて人界から飛んできましたの。久しぶりのほうきなものですから、まっすぐ飛べなくて・・・」

恥ずかしそうに笑う彼女は、世にも珍しい人間と結婚した魔女である。おっとりした見た目に反して、恐ろしい魔力の持ち主だ。きっとレイもその力を見込んで呼び戻したのであろう。

「あなたが来て下さるととても助かります。ファイ様は今宝探しの最中で・・・・。なんとも、真剣なんだか、お遊びなんだか・・・・。不安が大きかったので。」

ため息交じりのレオンの笑顔にルルーシャはなつかしさを感じた。

「あなたは何も変わっていないのね。相変わらずあのわがままお嬢様のお世話係?レイとはパートナーになれたのかしら?」

いたずらに笑う彼女の拷問のような質問にレオンは大きくため息をつく。

「そうですね。うちのお嬢さまの破天荒ぶりは健在です。そしてレイとも平行線です。」

レオンとルルーシャは目を合わせて声を出して笑った。

「あなたが何も変わってなくて嬉しいわ」

「ルルーシャ様もお変わりないようで」

二人は懐かしい思い出話に花を捜しながらファイと海を捜しに向かった。


「ねぇ海。あたし、北側の建物が怪しいと思うのよね」

ファイと海は城中を捜しまわり、最後の北の塔を残すのみとなった。

「そりゃそうだろう!あそこしか残ってないんだから」

言い合いをしていると後ろからレオンがやってきた。

「あらレオン。遅いじゃない。」

「申し訳ありません」

レオンの後ろからルルーシャがひょっこりと顔をだした。

「ファイ、お久しぶりね。」

「ルルーシャ!!」

ファイとルルーシャは久しぶりの再会を、嬉しそうに喜んだ。

「どうしたの。人界に行ったはずじゃなかったの?」

「レイに頼まれて世界を救いに来たのよ。私でも力になれるかしら」

ファイは満面の笑顔を浮かべながら海とレオンを指さす。

「この男どもが全くと言っていいほど役に立たないの。だから、本当に来てくれて嬉しいわ」

海とレオンは目を見合わせて、苦笑いした。

「ファイ。北側を調べるんじゃないのか。レオンさん、北側の地図あります」

「えぇございますよ。」

「じゃぁ、みんなで北側を調べましょう。きっとそこになにかあるわよ」

4人は急ぎ足で北側の塔へ向かった。


「ここの扉硬いわ」

大きく鉛のような扉を何度も叩いた。

「おかしいですね。ここの扉だけあきませんね。」

レオンが地図に目をやりながら、目を細める。

北の塔は薄暗く、見るからに不気味な雰囲気が漂っていた。しかも、作りが古いからかひんやりと空気も冷え、こもっているせいで小さな音も響き渡った。

「この場所なんだか薄気味悪いですね」

ルルーシャはあたりを見渡しながら、周辺を見て回った。すると奥の方から何やら声と足音が聞こえた。近づいてくるその音に恐怖心を感じ3人を呼び寄せる。

「何か聞こえる・・・」

3人は息を飲んで、壁に身を寄せて隠れた。足音と共に話声が聞こえる。おそらく2人か3人。

「レイさん!!ほんとにこんなところに海たちはいるんですか」

「きっとここよ!だって北側の塔だけ地図がなかったもの」

「こんな奥にみんなでいたら竜族の人たち、絶対わからないですよ」

「あぁ、そんなの大丈夫よ。きっと何日か掛かるから。きっと、竜族は種族が貴重だからきっと家族で動いてくるわ。だから、何日か時間が掛かるのよ」

「はぁ、なるほどなぁ」

「レイ!!」

歩いてきた2人の前にルルーシャが飛び出した。

「あら、ルルーシャ。本当に来てくれたのね」

2人は久しぶりの再開を喜ぶように抱き合った。

「なんだ龍也か。」

海も壁の隙間からゆっくりと出てきた。

「海!寂しかったかい」

いたずらに笑う龍也を不覚にも可愛いと思ってしまう。

「あぁ。寂しかった。・・・・・おかえり」

海の熱い視線に、愛を感じ嬉しくて思わず笑みがこぼれた。

「ただいま」

そんな2人の様子をファイは複雑な気持ちで眺めていた。

「・・・・で、この扉ね」

レイが扉の前に立ち、魔力を使ってみるがびくともしない。レイに呼ばれ後ろの方にいた海と龍也が扉の前に来る。

「ここに並んで立って」

言われるがまま、扉の前に立つと扉から強い光が放たれた。

「どうなってるの・・・」

「おそらく、この扉は人間が鍵なのよ。大昔、人間と獣人の幸せを願った国王らしいわね」

海が優しく扉を触るとゆっくりとその、重い扉は開いた。

「入っていいの?」

龍也はレイに聞くと彼女はゆっくりとうなずいた。その様子を見ていたファイが、一緒の中へ入ろうとすると黒い光にはじかれた。

「おそらく、中には人間しか入れないのね」

ルルーシャははじかれたレイを支えながら扉の中に目をやる。海と龍也は、光に包まれた先にどんどん進んだ。

光の中はとても眩しく目を細めながら、2人はお互いの存在を確認しながら、進んだ。少しずつ光の中心に届いた。そこには、2つの水晶が置いてあった。それに恐る恐る触ると、大きな光に包み込まれた。そして、何かが見えてきた。

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