第3話

 赤髪と銀髪の怪盗から再び予告が入ったのはそれから1週間後の事だった。そしてその予告内容に龍也との接触を希望してきた。警視総監である海の父、堂本傑氏に二人は呼び出させれていた。

「どうする龍也君。君と話がしたいそうだが・・・危険もあるかもしれん」

「はい。ですが、僕との接触が今回は最重要内容のようですし、僕の事は海が守ってくれますよ。ね」

「・・あ?おう」

頼りなさそうな海の返事に、警視総監もため息をつく。

「おい、海。龍也君の方が不安なのにお前がそんなのでどうする。」

「大丈夫だよ。ちゃんと龍也を守るから」

拗ねたように視線をそらし返事をする海に龍也も心配そうに声を掛ける。

「いつもごめんね。海が嫌なら僕、一人で行こうか?」

「だめだ!」

龍也の言葉に食い気味に答える。

「一人でなんて行かせない。何かあったらどうする。ただでさえこの間だっておまえはあの銀髪の男に連れていかれそうになってたんだぞ。もっと危機感を持てよ」

海の言葉ににこにこと嬉しそうな龍也。まんまとのせられた事を海はさとり少し気まずそうな表情を浮かべる。

「龍也君は海の扱いが上手だね」

「違いますよ。海は本心で僕の事を心配してくれてるんですよ」

二人の怪盗との接触の日は近い。警備体制を整え、龍也の護衛に海と陸がつくことが決まり、先日の博物館へ向かうのであった。


「・・・なんが、ぎもじわるい」

龍也が車の横でうずくまって動かなくなってしまった。

「決戦は今日ですよ。やめますか~」

隣で海が背中をさすりながら声を掛ける。

「博物館から変な気がする」

博物館が近づくにつれ、彼の顔色は悪くなっていたのだ。

「博物館におばけでもいるのか?」

陸は面白そうに笑って答えるが海はなんとなく分かっていた。そう。近くに彼らがいるのだ。おそらく今回龍也はあちらの世界に連れていかれるか、殺させるか。イギリス人とのハーフであるからこの髪色に目の色だと思っていたが、まさか異世界が関係していたとは。

色々な思考が頭の中を巡る。

「海も龍也も拳銃付けておけよ」

ゆっくり立ち上がり、ベルトを腰に巻き拳銃を付ける。若干17歳だが彼らの腕はプロ並みだ。海は幼いころより警察官になるべく教育を受けていたことと、龍也は何をやらせても器用だった。しかし、その器用さも今思えばその能力のせいだったのではないかと疑ってしまう自分を海は嘆いていた。

「たてるか。」

龍也の腰に腕を回し優しく支える。ゆっくりと立つと大きく風が吹いた。

「おやおや。国王陛下は体調を崩されているのかしら」

見上げると大きな雲と一緒に赤髪の女と銀髪の男が降りてくる。

「国王陛下?」

海の小さな質問も銀髪の男は聞き逃さなかった。

「ルーカス・アルカルト様。そちらのきれいなお髪の殿方は、竜族で獣人の王としてこの国を築きましたルーカス様の生まれ変わりであります。ようやくお迎えに来ることが出来て光栄でございます。」

二人の獣人は支えられている龍也の前にひざまずいた。

「僕は人間です。先日もお話しましたが、人間としてお手伝い出来ることがあればやりましょう。僕もこの世界を守りたい。」

腑に落ちない顔をしている赤髪の少女は急に顔をあげて龍也をにらみつけた。

「あんたがこっちに来ないと何も出来ないの。人間なんて能力低いしすぐに死んじゃうじゃない!世界を守りたいなら力を貸しなさいよ」

「ファイ!!」

ファイと呼ばれたその少女は涙を流していた。

「申し訳ありません。こちらは現国王シルバ・ゾディアック様の娘ファイ・ゾディアック様です。世界を守ろうと必死であなた様を見つけに回っていたので気持ちが高ぶって、ご無礼を申してしまいました。大変申し訳ございません。」

何度も頭を下げる銀髪の男。

「顔をあげてください。で、龍也をどうしたいんですか」

仏頂面の海が割って話をさえぎった。龍也のもたれかかる力が強くなるのを感じた。

「龍也様には一緒に獣界へ来ていただきたいのです。そして、本来のお力を取り戻して欲しいのです。」

その言葉と同時に龍也は倒れてしまった。

「龍也!!」

龍也をぎゅっと抱き寄せ、座り込む。

「龍也の様子がおかしいのも、お前らのせいか」

「えぇ。これのせいよ」

ファイがゆっくり手に持つものを見せてきた。きれいな剣が光を放っている。

「竜族の剣。この剣が持ち主を待っているのよ。そうよね、レオン」

「はい。先日龍也様とお話をして、ルーカス様の魂が宿っていると確信致しましたので、これをお持ちしました。龍也様にお会いするのを楽しみに、力を持て余していたようなので、力が暴走したことが原因と思います。剣を手に取りますか?」

ゆっくりとファイが倒れる龍也と支える海に近づく。

気を失う龍也の傍に剣が近づくと、ふと目を覚ました。

「・・・・・ラディア・・」

小さくつぶやく龍也にファイは足が止まった。

「ルーカス様」

ファイはレオンの方を振り返った。

「ファイ、剣を龍也様の手に」

ゆっくりとファイは龍也の手の近くに剣を近づける。すると、龍也が自ら手を伸ばし剣をつかむ。その瞬間龍也の髪が伸びて力強く立ち上がった。

「ラディア、ありがとう。やっぱり世界がぶつかり合ってしまうのだね」

紫の瞳にきれいな長い髪は、龍也であって龍也ではなかった。ファイは静かにひざまずく。

「獅子族が国を収めるようになりましたが、政権は上手くいかず、戸惑うことばかりです。ルーカス様のお帰りをお待ちしておりました。」

その言葉を聞くと静かにうなずき、龍也の目の色が戻った。

「・・・。僕、今何してた」

「りゅうや!!!!」

海が近づくといつもの龍也に戻っていた。

「おわかり頂けましたか。龍也様」

レオンが手をかざすと、再び大きな風が吹き、そこはすでに人界ではなかった。

「ここは・・・」

きれいな草花の広がった田園に立っていた。

「王宮の庭です。失礼ながら、力を持った龍也様を人界に置いておくことは出来ませんので、連れて来させていただきました。海様・・・で、あってましたか。申し訳ありません。龍也様おひとりでは心細いかと思い一緒に連れてきてしまいました。でも、あなた様も扉を渡れたのですからきっとなにか力をお持ちなのでしょうね」

ファイとレオンに案内され、王宮の中に案内される。

「今日はもう遅いですから、お部屋をご用意致しますね」

ホテルのようなきれいな部屋に通された。

「今日はゆっくり休んでください。また明日、ゆっくりとお話いたしましょう。」

レオンは二人を案内するとゆっくりと扉を閉めた。海と龍也は大きくため息をついて、ソファーにもたれかかる。

「つかれたぁ」

「僕、何者なんだ」

龍也が両手を広げて自分の顔を叩く。

「あの時の龍也は違う人みたいだったよ」

「僕は全然感覚がなかったんだ。自分の体が自分じゃないみたいで」

「髪も伸びて目の色も違う色だったよ。」

「えぇ!!急に髪伸びたの?なにそれ」

龍也は両手で頭を触り鏡の前に立つ。海は上着を脱ぎ、ベットに飛び込んだ。

「何とか様の生まれ変わりとか言ってたな。この世界の王様って言ってたかな」

「僕王様なの?」

「よくわからないけど、きっと明日詳しく話してくれるんじゃないか。俺もよくわからないよ」

海はゆっくりと目を瞑った。龍也も上着を脱ぎ、窓の外を眺める。

「この世界はとても美しいね。こんな世界があったなんて・・・」

窓の外に広がる世界は色とりどりの花や、小鳥がさえずり、美しく広がる世界であった。

「僕はいったい誰なんだ」

窓に写る自分の姿を見つめる。この世界に来てからずっと胸の奥に何か突っかかる物を感じていた。言葉では言い表せない何かを・・・。

「そういえば、あのファイってやつらが来たとき、兄貴達が急に見えなくなったよな」

「・・・確かに。僕はずっと気持ち悪くて周りをみる余裕なかったけど、急に静かになったよね」

「龍也、こっちに来てから気持ち悪いのはどうした」

しばらく考えて静かに龍也は答える。

「そういえば、大丈夫みたい。やっぱりこの剣が原因だったのかな」

腰に輝く剣に目をやる。

「なにがあっても、おまえはおまえだ。雷牙龍也だ。わすれるなよ」

珍しく真剣な表情の親友に笑みがこぼれる。

「ありがとう。僕に何かがあったら海がとどめを刺してね」

「大丈夫だ。だから、今日はゆっくり休もう」

海の言葉に嬉しそうにあとをついてくる龍也。

「そうだね。久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか」

「ばか・・・・・」

赤面しながらも一緒に洗面所へ向かった。


 次の日、二人は大広間に呼ばれた。そこにはファイ、レオンそして現在の国王が立っていた。ゆっくりと国王の座る椅子へ近づくと国王が笑顔で話しかけてきた。

「よくぞおいでなさった。昨日は挨拶もできずすまなかったなぁ。わたしはシルバ・ゾディアック。娘のファイがお世話になりました。」

優しく語りかけるその人と、娘のファイは深々と頭を下げた。

「いえ、僕たちも未だに何がなんやら理解が追いついてなくて・・・。ねぇ海」

「はい。急にこちらの世界に連れて来られても俺たちは・・・・。龍也なんて昨日別人みたいになっちゃうし。きちんと説明してほしいです。」

すると、静かに大きな奥の扉が開きレオンが入ってきた。

「レオン、例の物は見つかったかい」

「はい。国王陛下」

レオンがもって来たのは狼族の紋章の入った首飾りであった。

「海君」

ずっしりと重みのある声に一同緊張感が高まる。

「はい」

「君は龍也君の傍にいて、彼を守ってくれるかい」

「もちろんです!」

海の返事を聞いてシルバは嬉しそうにレオンに合図を送る。

「海様、こちらは狼族に伝わる首飾りです。現国王一族は獅子族、そして私共家人は狼族が多いので、海様にもこちらを」

「これを首に掛けるのか」

海は言われるがまま首飾りを付ける。すると青く神々しい光が海を包み込む。大きなその光に導かれるように海は口を動かし始めた。しかしその言葉は、言葉のようで言葉ではない、不思議なものだった。そんな海を龍也は心配そうに見つめていた。

「龍也様、ご心配なさらないでください。あなた様は生まれ変わりとしてもともとお力がございますが、海様には扉をくぐっても何も感じられなかった。あなたの傍でこの先戦うなら無力のまま連れていくなら邪魔でしかありません。」

「海は今、どうなっているのですか」

「狼族の力を少し覚醒させて体内に、同化させているのです。しかしあの首飾りを外すと力が使えなくなってしまうのでほんとに一時的な物ですが、ないよりかはマシですからね。

優しい口調でズバズバと言葉を放つレオンに少し恐ろしささえも感じたが、この先戦いがどうなるかもわからないこの状況で、無力なのは確かにリスクが高い。龍也も状況は理解していたがその異様な雰囲気にのまれそうだった。少しすると海の光も弱くなった。

「海様、落ちつきましたか」

レオンが近づき海の背中をさする。レオンが海の耳元で何か言葉を放つと、海の頭から大きな耳がはえた。

「・・・!」

「海・・・耳が」

慌てた様子で自分の頭を触る。隣で微笑むレオンに無言で訴えかける。

「はい。耳ですよ。その首飾りの力を作動させたのです。海様はもともと無力です。ですのでその首飾りを使って、自身のもつ能力を作動させるのです。なので絶対にその首飾りを外さないでくださいね」

「レオン・・・。顔が笑ってないわよ」

笑顔で海の横に立つレオンに鋭く声を掛けるファイ。大きくため息をつくがそんなのお構いなしにレオンは続ける。

「自然と狼族の持つ身体能力と技の各種使うことが出来ますが、やはり努力も必要です。基礎体力などはやはり人間なので、我々よりも低いですからね。その辺りあまり勘違いされませぬように。」

「レオン。あまり新人をいじめるでないぞ。」

「いじめているわけではありませんよ。海様の為にアドバイスしているのです。」

優しく微笑むレオンに海は背筋が凍る思いだった。

「ど・・・どうもありがとうございます。」

「いいえ。私は海様に獣人としての能力を正しく発揮していただきたいだけです。」

レオンはこの世界の国王一家ゾディアック家の執事長のようなもので、第一家人である。物心ついた時から家人としてゾディアック家に使えているので正義感も強く、正論を突き付けてくるような性格の持ち主だ。国王からの信頼も強く、娘の警護兼世話係を任されるほどである。

「龍也様。あなたにも力の使い方と自分の能力についてしっかりと理解していただきますからね」

急に自分に向けられた矛先に龍也も驚きを隠せない。

「え。あ、はい!この剣とはまた別に何かあるのでしょうか」

「何をおっしゃいますか!あなたはルーカス・アルカルトの魂を継ぐもの。これからの世界についてもそうですが、しっかりとご自身の能力についても、竜族についてもご理解いただくまで本日はお休みいただけないとお思い下さいね」

レオンの迫力に海も龍也もただただおどろくばかりであった。

「あぁ、お父様ったら。レオンがあぁなったら誰にも止められないってわかって色々やらせたわね。」

国王の椅子の近くまで来てファイは大きなため息をついた。

「何のことかな。私は何もしていないよ」

嬉しそうなシルバの微笑みにファイは何かを察したようだった。

「・・・わざとね。お父様」

「ん?」

その日は1日中レオンの指導を受けて、くたくたになって自身の部屋に戻るのだった。

 この世界に来てから、何度も同じ夢を見る。

誰かがずっと俺を呼んでいる。真っ暗な世界にたった一人。俺だけを残して・・・。

「・・・・い・・・か・・い」

海が目を覚ますとそこには龍也がいた。

「うなされてたよ。大丈夫」

「あぁ・・・・」

「水・・・飲む?」

龍也から差し出された水を無言で受け取り一気に飲み干す。

「はぁ、ありがと。もう朝か」

朝日が昇り始めた静かな空に寂しささえ感じた。

「最近レオンさんの授業も根詰めた内容になってきたから疲れがたまってきたんじゃないの」

龍也も海も連日のレオンの指導により疲れがたまっていた。

「そうだな。ここにきて約1週間くらいか。毎日あの人に魔法陣やら、魔法術やら意味のわからないことを叩きこまれて頭がそろそろパンクしそうだよ。学校の勉強だって俺はそんなに一生懸命やったことないのにさ。」

もう一度ベットに横になる海。海のベットに腰をおろし龍也も大きく息を吸う。

「レオンさんに話して今日はゆっくりさせてもらう?」

「いや・・・・いつ、なにがどうなるかわからないんだ。お前のように元から力を持ってる奴ならともかく、俺は純粋な人間だ。少しでも多くこの馬鹿な頭に叩きこまないといざというときお前を守れないからな」

「僕は守ってもらわなくても・・・」

「いや・・・俺が守りたいんだ。この世界に来てから俺は未熟者であることがよくわかった。だから少しでも頑張りたいんだよ。」

「かい・・・」

「だから俺を、第一家人にしてくれるか。王様よ。」

屈託ない海のその笑顔に、不安に押しつぶされそうな龍也の心も救われた気がした。

「もちろん。」

朝食の準備が出来たのでレオンは二人の部屋の前に立っていた。二人の熱い思いを聞いて胸を熱くし、涙をぐっと飲み込みノックした。

「お二方。失礼しますよ。」

「うわ、レオンさん!!すみません」

海は急いでベットから跳び起きてクローゼットへ向かう。

「いえ、急がなくても大丈夫です。本日はお勉強ではなくて、世界の動きについての確認をご一緒に行いたいと思いまして。」

ジャケットを羽織り、正装を整える二人。

「世界の動きですか」

「はい、あなた方がもともといらっしゃった人界と獣界の今の動きをとりあえず衛星で確認し、起動に変化がないかをしっかりと見ませんと・・・・。リラの秘宝も早く揃えないと、この先何がどうなるかわかりませんからね。」

にっこりと笑い部屋を出ていくレオンを見て二人は赤面した。

「・・・・ねぇ海」

「・・・・なんだい龍也」

「絶対聞かれてたよね。」

「だよな・・・」

二人は大きなた息をついて部屋をあとにした。

 朝食を済ませた後、城の地下へ向かった大きなモニターに埋め尽くされたその部屋には、星の動きや宇宙の様子が映し出されていた。

「こちらの部屋で見たり聞いたことは内密にお願いいたします。」

ファイ・海・龍也・シルバの4名は静かにうなずく。

「しかし、この4名だけでこの作戦は大丈夫なのでしょうか」

「俺たちはつい最近覚醒したばかりですよ」

にっこりとレオンが笑いモニターに手をかざす。

「大丈夫です。今やお二人は我々以上に力を持っておりますので。」

モニターには、大きな惑星が2つ映し出されていた。

「これが人界と獣界よ。このままいくと二つは約80日後に衝突する。この2つのどちらかが残るかもしれないし、両方消滅するかもしれない。それはまだわからないわ。」

「おそらくこういうことは人間の方が賢いのかもしれませんが、シミュレーションのようなものが出来ればもう少し細かく予測できるような気がするのですが・・・」

レオンが頭を抱えているとふと思い出したように龍也が口を開く。

「僕はもともとイギリス生まれなのですが、亡くなった父がプログラミングの仕事をしていて、現在はその弟が仕事を受け継いでいるんです。このことを話せば少し協力してくれるかもしれません。」

海が1番驚いて龍也の方を見ていた。

「親父さんプログラミングの仕事してたのか。でも、イギリスにいるんだろ。」

「うん。でも、こっちに来る前に来週日本に李也と一緒に遊びに来るって言ってたからもしかしたら戻ればいるかも。」

柔らかな笑顔の龍也を見るのは久しぶりだった。

「李也も大きくなったんだろうな」

海も懐かしそうに微笑むが、レオンに水を刺される。

「あの、お話が脱線しておりますが、李也とはどなたですか」

「あぁ、すみません。李也とは僕の弟です。とは言っても父が違うので異父兄弟なのですが。今たしか10歳くらいです。」

レオンはその李也という存在に引っ掛かりを感じていた。

黙って話を聞いていたシルバが急に立ち上がる。

「何がどうあれ、この映像をみて分かる通り、世界がぶつかり合う事には変わりはない。だったらリラの秘宝を探し集めることが最優先ではないか」

国王の一言に皆が圧倒される。その空気を1番始めに壊したのはレオンであった。

「えぇ、それは最優先だと思います。どうします。陛下。まずは我々と共に獣界の秘宝を共に捜してやり方を学んでから2人を人界に戻しますか。人界はあと1つですし、まずは獣界の秘宝からということで・・」

一同息をのんだ。龍也と海は人界に戻れる嬉しさと秘宝を捜し今度は自分たちが盗まないといけない事への不安を抱いていた。

「そうだな。味方は多い方が良いと思うし・・・。どうだ。竜族の生き残りを捜してみては。龍也君の能力については未知数だ。我々は狼族だから教えてあげられることも少ない。秘宝を捜すと同時に竜族の方々に味方になってもらうというのは。なぁ、龍也君」

「はい!」

反射的に反応を返す龍也。

「よし、では皆でまずは竜族を探し出すこと、そして2つ目の秘宝を見つけ出すことだ!急げよ。こうしている間にも世界同士歩み寄っておるのだからな」

「はい!!」

声を揃え、地下の部屋を出ていく。

「龍也」

海が小さく龍也の耳元でささやく。

「なに」

「いや、大丈夫かなって」

「海は心配性だな。大丈夫だよ。確かに海は色々術の練習とかしてるけど僕は全く何もそういう練習は出来ずにいるからね。実際竜族の人たちに僕も会ってみたいし。今はわくわくしてるんだ。」

そんな二人をファイは後ろから見つめていた。

 気づいたことがある。獣界には車がない。移動は走るか跳ぶか要は自力だ。狼族は空を飛べない。その代わり早く走れるし、高い所から落ちてもだいたいは大丈夫。最初にファイに会った時屋上から飛び降りても無傷だったのはこの能力のせいだ。龍也は竜族なので足の速い狼とは違い空を跳んでの移動となる。

器用に体の筋肉を使い、龍也は少しずつ空を跳べるようになっていた。

「色々と捜しまわることが多くなると思いますからね。移動術は基礎なのでしっかりと獲とくしておいてください。」

レオンに言われ海は不満そうな表情だった。

「下を走るとそれなりに体力を消耗しちゃうじゃないか。やっぱ跳べる方が有利だよな」

「海様はまず、体力作りからですね」

レオンの笑顔だけど笑っていない表情は少しずつ慣れてきたがやはり背筋が凍りそうになる。

「レオンさん。僕少しずつ色々わかってきました。」

ゆっくりと空から帰ってくる龍也を今度は本当の笑顔で迎えるレオン。

「龍也様は素直でとてもかわいらしいですね。ファイ様も海様も中々素直にきいてくれなくて・・・・。やはり、属性なのでしょうか」

その言葉にファイはすぐさま反応する。

「ちょっと!なんであたしがこいつと一緒にされなきゃいけないの」

「そーだよ!俺だってこいつよりはマシだと思うけどな」

「はぁ?なによ!あたしはこの世界の国王の娘よ。首飾りがないと能力も発揮できないような男と一緒にしないで欲しいわ」

「なんだと」

「なによ」

「二人とも」

言い合いが始まった二人の間に素早くレオンが入る。

「そういうところです。戦いになれば感情だけで動くことは危険です。しっかりと状況判断が出来ないところがあなたたちの良くないところだと申しているのです。少しは反省なさってください」

レオンの一括に小さく返事をすると一同はいったん城の中へ戻るのであった。

 昼食を食べながら一同は今後の話をしていた。

「まずは西の魔女に力を貸してもらうのが一番だと思いまして」

「西の魔女?なんかお話に出てきそうな名前ですね」

大きなチキンを切り分けながらレオンは話を続けた。

「レイという名でこの国では悪名高き魔女ですよ」

「レオンの女なのよ」

ファイが小声で海に耳打ちをする。

「ファイ様!」

すかさず注意をするがその顔は真っ赤であった。

「別にいいじゃない。あ、まだレオンの片思いだったわね」

先ほどの仕返しと言わんばかりにファイが強気にでる。

「この国には東西南北魔女がいるわ。でも、東の魔女と北の魔女はもう魔力がなく、大きな力にはならないの。それで、南の魔女は人間と恋をして人界に行ってしまったわ。今も魔力が使えるかはわからない。なので唯一の生き残りなのよ。西の魔女レイは。」

「じゃぁこの国で魔女と言えばそいつだけなら味方になってもらえば最強じゃん」

肉をほおばりながら海は意気揚々と答える。

「そういう発送がおこちゃまなのよ。いい。レイは自分の力を他人の為に使うことをとても嫌う魔女なのよ。まぁ他の魔女が使い物にならない今、仕方ないけど。だから、説得をすることだって大変なの。あなたたちが来る前レオンと二人で会いに行ったけど会ってももらえなかったのよ」

肉を切り分けきれいに盛り付け終わったレオンの寂しそうな後ろ姿に龍也は優しく声を掛ける。

「誰だって、私利私欲の為に自分の能力を使われたら嫌な気分になりますよ。今度は4人で説得に行きましょう。きっとそのレイさんもこの世界の平和を望むはずです。」

「そうね。龍也良いこと言うじゃない!」

4人は笑顔で昼食を食べるとレイを捜しに森へ向かうのだった。

 獣人となっても見た目に大きな変化がないので竜族は人が空を跳んでいるような違和感があった。レイの住む森まで1時間ほど走り続けた。

「つかれた・・・」

海は森の入口につくと息をきらせていた。

「ほんと情けないわね。はい。水」

ファイに水をもらい無我夢中で飲み干した。

その隣でレオンが大きなため息をつく。

「はぁ。またレイに拒否されたらどうしよう」

珍しく自身のなさそうなレオンに思わず笑ってしまう海とファイ。

「自信のないレオンさんってのも攻撃力なくて好きですよ」

茶化した様な海の姿にイライラとした口調で返す。

「どうもありがとうございます。では、今回は海様に交渉していただきましょう」

海の背中を押し、森の奥まで連れていく。その姿をファイト龍也は後ろから見守りながら付いていった。

「え?俺、何すればいいの」

森の中心の木々がトンネルを作る道がある。その前に海は立たされていた。

「その奥に西の魔女レイがおりますから。どうか、一緒に秘宝と竜族を救い、世界を守ろうとお話してきてください。」

レオンに強く背中を押され、見えない圧でも押されるので海は足を進めざるを得なかった。

「なんだこの不気味な場所は」

ひんやりと詰めたい空気が張り詰めた道を一歩一歩進めていく。今まで人間だったが、狼族となった今においや音に敏感になっていた。

「なんで狼ってこんなに色々と敏感なんだ。小さな物音がすごく怖い」

腕を組み、小さく震えながら歩く海の目の前に黒く大きなマントをかぶった何者かが現れた。

「わたくしの家に何かごようかしら。ぼうや」

背筋が凍る思いだった。海は言葉を発することが出来ずただただ固まっていた。

「あ・・・え・・・あの」

黒いマントを取るときれいな女性が現れた。

女はにんまりと笑いかけ海の肩に手を回した。

「かわいいぼうやだね。狼族かい。でも、なんだか違うにおいもする」

首筋のにおいを嗅ぐように、顔を近づける。

「あ・・・・あの・・・おれ」

言葉にならず、動くこともできない。気を失ってしまいそうなほどドキドキしていた。

「海!!」

龍也の声で我に返る。

「あぁ。りゅうやぁ」

その頼りない声に龍也も呆れてしまう。龍也のあとに続いてきたファイも海のその姿にあきれ顔であった。

「レイ!!」

「あら、レオンどうしたの」

レイは海から離れレオンをにらみつける。

「何度来たって無駄よ。わたくしはあなたと夫婦にならないわ」

一同レオンを見つめる。

「・・・・・・夫婦?」

「人界と獣界の件を断られたんじゃないの」

ファイと海が不満そうにレオンを見つめる。

「・・・・・・レイ!私は今日はその用事じゃない!」

大きな声を出して会話をかきけそうとするが、冷たい視線で3人はレオンを見つめる。

「レイ。いぃぃ今、人界と獣界は大変な事になっております。なぁぁなので、私達にお力を貸してくださぁい!!!」

「なぁレオンってあんなに頼りない感じだったっけ」

「いや・・・僕もあんなレオンさん初めて見たわ」

「あら、レイにはいつもあんな感じよ。何度降られても懲りないのよね。でもまさか結婚まで申し込んでるとは思わなかったわ。」

あきれ顔の3人は遠い目で見つめる。

「どうするほっとく?」

冷たい表情で立ち去ろうとするファイ。

「えぇいいの?」

海と龍也もそのあとを追うようにその場を立ち去ろうとする。

「えぇ坊やたち帰っちゃうの」

その姿を見て、レイは声を掛ける。足を止めたのは龍也だった。

「すみません。世界が大変なことは本当なんです。僕たちはまだまだ微力ですが秘宝を集めたり、世界がぶつかり合うことを何とか食い止めたいと思っています。よろしければお力を貸していただけないでしょうか」

丁寧な龍也の説明にレイも耳を傾ける。

「あなたは何族なの」

「僕は・・・・・竜族の雷牙龍也と申します。つい最近まで、人間でまだ理解しきれてない状態です。なのでお力を貸してください」

必死に頭を下げる龍也にゆっくりと歩み寄るレイ。

「レイ!!」

レオンがレイのあとをついてくる。

「龍也君。君は・・・・・・何者なの」

持っていた杖を龍也の額にあてる。驚き額に強く力を寄せ、思わず防衛魔法を作動させる。

「あぁ・・・。あなたは偉大な魂を持っているのね」

その龍也の魔法を読み取るようにレイは額に寄せた杖をのぞき込む。

「いいわ。君に免じて協力してあげる。もう一人の僕も不思議な魂を持ってそうだし。」

にっこりと笑いレイは空を飛んだ。

「城へ戻りましょう。詳しく話が聞きたいわ。さぁ。龍也も一緒に」

レイは龍也の手を取り大きく羽ばたいた。

「レイさんには羽があるんですか」

大きくきれいな目で見つめる龍也に優しく笑いかける。

「私は魔法使いよ。これぐらい朝飯前よ!あら、夕飯前ね。お城で美味しいディナーを頂きましょう」

レイに置いて行かれたレオンは森の外まで走った。

「ファイ様海様!!」

森の外には誰もいなかった。二人ももう城へ戻っていたのだ。

「みんな酷い!酷すぎる」

レオンは涙目になりながら、空を飛ぶ龍也とレイの姿を追いかけた。

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