第2話

むかしむかし、人間と獣人は同じ世界で仲良く暮らしていた。人間の王ダリア・ドービル。傲慢で自分本位な性格だが、民を守ろうとする強い意志を持っていて、家族や仲間を大切に思う気持ちは誰よりも強い。獣人の王ルーカス・アルカルト。優しい心の持ち主で誰よりも自然を愛し人々を愛す心を持っていた。人間は体力的には弱いが知性を持っており、獣人の人並外れた体力は人々の生活を助けた。

両者はお互いの力を尊敬しあい、幸せに暮らしていた。そんなある日、一人の赤ちゃんが誕生した。人間の王ダリアの弟ハワード・ドービルとリリアン・ドービルの第一子だ。生まれた男児はその愛らしい姿に人間には考えられない獣耳であった。リリアンは騎士である獣人マシュー・エルラルドと恋仲であったのだ。

怒った人間の王族はリリアンを追放しマシューを死刑に処した。望まない結婚と、子をなさなければならないプレッシャーを、支えてくれていたマシューとの別れ。リリアンは自害してしまった。この一連の刑を人間だけで決めてしまったことを獣人の王ルーカスは、激怒した。優しかった彼は人が変わったように人間を攻めてきた。それに伴い、人間側も攻撃を仕掛けあっという間に戦争が始まった。幸せだった世界は瞬く間に戦場へと変貌を遂げた。何万人もの人々が命を落とした。知性と科学の技術を持った人間、狂人な体力と魔力を使う獣人。お互いの持つそれぞれの力は尊敬しあうものから、殺しあうものへと変わってしまった。心優しいルーカスはこの状況を嘆いた。“自分が人間に対し憎悪を抱いてしまったから・・・”何度も何度も絶望した、そんなある日、城に古くから伝わる秘宝を持ちルーカスは森へ走り出した。

「ルーカス!!」

恋人のラディア・ゾディアックはルーカスのその行動を見逃さなかった。

「その秘宝は人間と私たち獣人とのつながりの証。勝手に持ち出したりしたらこの戦争はもっとひどくなるわ」

「そんなことわかっている。でも、これ以上民を殺したくない。私がもっと冷静にダリアと関わっていれば・・・こんなことには」

走り出した足を止めることなく一直線に人間と獣人の国の中心にある森へと入っていった。

「こんなことをしていったい何になるの」

ラディアの必死の訴えもルーカスの耳には入らない。走り続けて大きな洞窟の前に来た。

「ここは・・・」

ラディアは息をのんだ

「そうだよ。この世界を一度終わらせるんだ。この場所でね」

洞窟を歩いていくと、そこには死刑になったと思われたマシュー・エルラルドがいた。そしてその手には人間側に守られていた秘宝があった。

「お久しぶりです。ルーカス様」

傷だらけのその体に息が上がる。

「どうして生きているの。死刑になったはずじゃ・・」

ラディアは状況が読めずパニックになっていた。

「あの日マシューが死刑になると知って、僕は取引をしたんだ。ダリアの自己中心的な政権にはうんざりしていたので、世界のあり方を変えるには、このチャンスを生かさない手はないってね。」

「はい。俺は殺されると思い、覚悟を決めておりましたので。ルーカス様からの取引は驚きました。でも、リリアン様の為でもありましたので」

「リリアン様は自害されたのでは」

マシューがゆっくり後ろを振り向くと凍結化せれたリリアンがいた。

「リリアン様」

「リリアン様のお命を救ってくださること、世界の為に働くことをルーカス様とお取引致しました。俺の死刑も執行されたと見せかけて逃がしてもらったのです。」

「・・・それで。このあとどうするの」

ルーカスは4つの秘宝を洞窟の奥にある井戸に落とした。

「これで、この世界は2つに分かれる。一度お互いの世界を分けた方がいいんだ。そして僕はここに眠る。」

「ルーカスが眠ったらこの世界はどうなるの」

ラディアが勢いよくルーカスに抱きつく。

「心配いらないよ。これをラディアに託そう。」

そういうと、ラディアの指に優しく自分の指から外した指輪を付けた。

「これは・・」

「王位継承者がもつ指輪だよ。私はここで権力を失う。ダリアと一緒に果てるから世界を頼んだよ。」

ルーカスが優しくラディアにキスをするとマシューがラディアの手を引き走り出す。

「ルーカス!!」

「マシュー。ラディアを頼んだよ」

その後、ルーカスは人間界へ乗り込みダリアを消滅させたのち自害し、戦争を終わらせた。その時、世界が2つに分かれ人間界はハワードが王につき、人獣界はラディアが女王となった。



 始まりはいつも突然で、よく理解できないまま色々なことが進んでしまう。あの警備以来、雷牙龍也の様子がおかしい。あの後も何を聞いても「後で話すよ」とまともにあの時の話をしてくれない。高校生活も落ち着いてきた高校2年の6月。進級してクラスの中でもつるむ奴が決まり、少しずつグループ化してきていた。小学校3年生からの腐れ縁の海と龍也は相変わらずお互いの事を空気ともいえるほど、当たり前の存在に感じていた。登下校も一緒で家もすぐ近所であった。

「龍也、帰るぞ」

海は鞄を手に取り、教室を後にしようとする。

「あぁ。」

龍也もその後に続いて教室を出る。

「雷牙君!!」

クラスの女子に声を掛けられて龍也を振り向く。

「はい」

「図書委員は今日集まりがあるみたいなの。」

「・・・そうなんですね。では海。僕は委員会なので」

海に声を掛け立ち去ろうとしたが、鞄の持ち手を何かが引っぱる。

「俺も・・・おれもいく」

海が龍也の鞄の持ち手を引っぱっていた。

「海は図書委員ではないでしょう」

困り顔の龍也を不謹慎にも美しいと感じてしまう。

「邪魔はしないから」

大きくため息をついた龍也が海の手を握る。

「仕方ないですね。静かにしていてくださいね」

手をつないだまま図書室へと向かった。

 

「えぇ。部長欠席なんですか」

図書室に到着するとそんな声が、扉の向こう側から聞こえた。静かに図書室の扉を開けると中にいた委員がこちらを向く。

「遅れました」

「あ、雷牙君。来てくれたのに申し訳ないね。今日は部長が欠席らしいんだよ。委員会どうしようかなぁ」

副部長が申し訳なさそう話しかけてきた。

「そうなんですね。じゃあちょっと奥で本を読んでいていいですか?もし委員会が始まるなら呼んでください」

龍也と海は奥の席に荷物を置き、本の並んでいる棚へ急ぐ。

「龍也?何読むの。」

真剣な面持ちで本を選ぶ龍也の横で海は並んだ本をなんとなく眺める。真剣に本を選ぶ龍也から返事はない。

『世界のすべて』『地球のなりたち』

図鑑や世界の成り立ちの内容の本が並ぶそのエリアを眺めながら、海は先日の怪盗の事を思い出す。

「あった」

龍也の小さな声に反応し海も我に返る。

「何を探してたんだ」

龍也に歩み寄るとその手に持つ本へ目線を落とす。

「この間の怪盗がいたでしょ。僕は銀の髪の人に話を聞いたんだけど、どうも世界が2つ存在し僕はその世界をつなぐ存在らしいんだ。最初は意味がわからなかったけれど、見てこれ」

龍也が開いたページには竜族についてが載っていた。

「りゅうや、おまえ」

「うん。そっくりだよね。ぼく。この王様に」

海は食い入るように龍也から本を取り上げて読みだした。本を読む海の手を優しく引き席まで誘導する。海は夕暮れ時までその本を読んでいた。

「海、もう帰りましょう」

龍也が話かけると慌てて顔をあげる。あたりを見回すと図書室には誰もいいない。

「ごめん!!本に夢中になちゃって」

「大丈夫。だいたい理解できた?」

「うん・・・なんとなく龍也の言いたいことは分かった。でももう一度読みたいからこれ借りていっていいかな。図書委員さん」

「はい。どうぞ。図書カード出してくださいね」

二人の笑い声が夕暮れ染まる図書室に響き渡る。この先どんなことが起こるのか不安も抱いていたが、まだまだ普通の高校生としての日常を噛みしめながら帰路についた・・・・。

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