龍の絆
片貝 龍蓮
第1話
夜空にはきれいな星が輝き、満月も顔を出した。この漆黒の空に、不気味ささえ感じる。父の警備の助手として堂本海は、大きな博物館の屋上にいた。この博物館に展示されているリラの秘宝を狙う怪盗という名の泥棒が現れるのを、今か今かと待ちわびている所だ。
リラの秘宝とはココス諸島で見つかった4つからなる秘宝である。今回は真紅のブレスレットが狙われ、鳥取県にある博物館まで足を運んだ。
「もう9時か・・・冷えてきたな」
6月とはいえ、よるになるとまだまだ肌寒い。海はふと、夜空を見上げた。すると不自然な雲の形に目を細める。静かにトランシーバーを手に取り小さな声で名前を呼ぶ。
「龍也。きこえるか?」
名前を呼ばれた青年は博物館の玄関で静かに応答する。
「海。きこえていますよ。どうしましたか」
応答したのはブロンドの髪がきれいになびく青い目の少年。
「上を見てみろ。・・・違和感をかんじないか」
その言葉で龍也は静かに上を見上げる。
「・・・雲ですか」
さっきまで雲一つないきれいな星空にかかった違和感のある黒い雲。二人は上を見上げたまま思考を巡らせる。幻想的で不気味なその雲に心を持っていかれそうなほどだった。
「海!龍也!!」
威勢のいい大きな声が無線から流れ二人は一気に気持ちを引き締める。
「兄貴、どうした!」
声の主である兄、陸に素早く海は反応する。
「地下だ」
その言葉で一斉に捜査員は地下へ動き出す。
海と龍也も地下へ足を向ける。
「そちらのきれいなお髪のお嬢さん」
地下へ向かおうとする龍也の背後から物腰柔らかな紳士が話しかけてくる。銀の髪にオッドアイ。この世の人間には絶対にありえない、獣耳であった。
「お嬢さんとは僕の事ですか」
龍也のきれいな青い瞳が鋭い眼光でその銀髪の男をにらみつける。
「おや、殿方でいらせられたのですね。これは大変失礼致しました。」
「・・・それで、僕に何の用ですか」
龍也は腰に手を回し拳銃に手を掛ける。それに銀髪の男も気づいたようで、にっこりと笑いかける。
「あなた様は、不思議な力をお持ちのようだ。よければこちらへいらっしゃいませんか」
銀髪の男から差し伸べられた手に、戸惑いを隠せない龍也。夏の香りのする暖かい風が二人の異様な空気を包み込んだ。
地下室へ向かった堂本海もその異様な空気を感じていた。ふと目をやった窓から赤い髪の女が屋根の上を走る姿を見つける。
「なんだあいつ・・・」
海は来た道を戻り屋上に駆け上がった。息を切らしそっと屋上に扉の前に立ち、ゆっくりと扉を少し開ける。
「レオンのやつ、どこにいったのよ」
そこには赤い髪の獣耳の女がいた。きれいな腰までのびた赤い髪が美しく光る。手には真紅のブレスレットが光る。それを見つけ海は思わず扉を勢いよく開けてしまった。
「貴様!!そのブレスレットを返してもらおう」
拳銃を突き付けるが、彼女はびくともしない。
「人間がわたくしになんの用かしら」
不敵な笑みを浮かべるその赤い目から海は目が離せなくなった。
「おまえは・・・何者だ」
少しずつ距離を詰めたいが足が動かない。
「わたくしは、この世界とわたくしの国を守りたいだけよ。人間風情が邪魔しないでちょうだい。あなた、死にたいの」
「・・・」
彼女の言っている意味が分からなかった。
「まぁ、そういうことだからわたくしの邪魔をしないでね」
そういって勢いよく飛び降りた。海は急いで彼女の飛び降りた後を追おうと、下を覗いた。
下をみるとそこはちょうど博物館の玄関にあたる場所だった。
「りゅうや・・・?」
龍也と銀髪の男性が会話している。そこへ先ほどの彼女も加わり、なにやら話をしているようだが聞こえない。
「くそっ」
海は急いで階段を駆け下りて龍也のもとへ急ぐ。焦る気持ちから何段もまたぎ、急ぎ足で降りていく。玄関が近づくにつれて、プロペラ音らしき音が聞こえてくるのを感じた。周囲の警備をしていた警察官も海の姿をみて声をかけてくる。しかし、彼にはその声は届かない。今取り逃がしたら・・・龍也が人質に取られてしまったら・・・悪い妄想ばかりが彼の脳裏をよぎる。
「大丈夫か!龍也!!」
玄関につくとそこには龍也が一人、空を見上げていた。その表情はなんとも切なく、今にも泣きだしそうだった。海はゆっくり近づく。
「・・・龍也?」
「・・・・か・・い」
潤んだ瞳で海を見つめる。そして静かに語りだす。
「僕たちは、あと100日で滅びてしまうらしい。」
「・・・え?」
これは、僕たちの住む世界とあちらの世界の命を懸けた戦いの物語である。
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