78.
あの日、私が見た人物は確かにグリーンだった。
普段は
「本当に? なんで今さら……」
「昨日、敵として対峙した時の緑山さんの顔って覚えてる?」
「いつもと雰囲気違ったよね。確かあの時は眼鏡を外してて…………そういうこと?」
話しながら
「元々、私たちコウセイジャーはお互いのことを全然知らない。だから目の前に緑山さんが現れても気付けない。しかも眼鏡を外して雰囲気を変えられてしまったら……もうお手上げだよ」
とは言うものの、私は一度だけ緑山さんと会ったことがある。入隊前の説明会でお世話になった。
だけどまさか、あの説明をしていた職員が同じコウセイジャーの一員だったなんて夢にも思わなかったから。あの時ちゃんと顔を覚えていれば、もっと早く裏切りに気付けたかもしれない。悔やんでも悔やみきれない。
「あの日、春の目の前に現れた男が緑山くんだってのは分かったよ。それで……その後はどうなったか覚えてる?」
「覚えてない……けど、あの時なにかされたから呪いが……怪人化が発動してしまったんじゃないかって思ってる」
「私も同じ見立てだよ。そうじゃなきゃおかしい。安全装置が起動していたのに」
「でも、武器開発チームって緑山さんも所属していませんでしたか?」
凛華さんの一言に場が凍り付いた。
この武器が作られたチームに緑山さんが所属していた? そんなの結社の思うつぼじゃないか。
透子の言っていた安全装置だって、もしかしたら最初から搭載されていなかったかもしれないし、私が初めて武器を使った日に呪いが発動するように仕組まれていたかもしれない。
それを考えるだけで恐ろしい。私たちがただ漠然と戦っている間に結社は支部にさえ侵略を開始していたのだ。
「……ちょっと調べてみる。緑山くんの支部への入社経緯とか経歴とか。諸々調べるよ」
「よろしくお願いします。今日はこれで解散ですか?」
「うん。みんな疲れてるだろうし、しっかり休んでね。ああ、春。私はこのあと支部に戻って会議だから結陽と先に帰ってくれる?」
「分かった」
いそいそと退出していく透子の背を見送り、隣にいた結陽に声をかけた。
「どうしたの。全然喋らなかったけど……。体調でも悪い?」
「いや……どこも悪くない、よ」
妙に歯切れが悪い。
桜島作戦で結陽は大きな怪我はなかったが、精神的に大きなダメージを負っているはず。早く帰って休んだ方が良いかも。
「じゃあ、帰ろっか」
「……うん」
やっぱり元気がない。まさか私が知らないだけでどこか怪我を——
「ねえ、結陽……ちゃん?」
唐突に凛華さんに声をかけられ、結陽は肩を揺らした。
「なん、ですか?」
「ずっと気になってたんだけど……聞いても良いかな?」
隣から生唾を飲み込む音が聞こえる。
私だって同じだ。凛華さんが何を言うのか想像出来ないから怖い。同じように生唾を飲み込むことしか出来ない。
「さっきのミーティング中ずっと難しい顔をしていたよね。ものすごく眉間に皺を寄せて。何か心配事でもある? それとも……何か気付いたことでもあるのかな?」
「それ、は……」
言い辛そうに結陽は俯いた。
見かねた私はかばうように間に立ち塞がる。
「結陽、今日はもう帰ろう。疲れてるよ、私も結陽も。一回休んでから考えよう? 心配事があるなら私も一緒に考える。……凛華さん、私から結陽に聞いておくので今日はこれで帰ります」
「……そうだね。疲れてるよね。ごめんね、呼び止めちゃって。何かあったら連絡ちょうだい」
逃げるように会議室を後にする。
今の私たちじゃ難しいことは考えられない。さっきのミーティングだけでお腹いっぱいだ。
早く家に帰って、ご飯を食べて。今日はいつもより早く寝たいな——
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