77.
桜島作戦の翌日。私たちは本島へと帰島した。
ブルーとイエローの怪我。グリーンの裏切り。たった一日の作戦で失ったものは大きかった。
「ブルーは全治二週間、イエローは一ヶ月。二人には治療に専念してもらう」
「
「三人、ですか……」
女王のことを知っているからこそ、
「それと持ち帰ってくれた壺の中身なんだけど……」
そう言えばそうだった。帰島すると同時に解析に回していたっけ。まだ透子しか結果は知らされていないようで、三人とも静かに耳を傾けている。
「血だった」
「ち?」
「改造された人間の血液。改造手術の時に……抜いたんだろうね」
「……ッ!」
凛華さんは苦々しい表情を浮かべている。昨日実物を見たのは私と結陽と黄川さんだけだ。今ここでその話を知って、相当ショックを受けているのだろう。
「それは……なんで抜いたの?」
「うちの解析チームの見解では、怪人化するために必要だからみたい」
「血を抜くことが必要? なんで……?」
結陽が自分のことを話した時、血を抜かれた話は一度もしなかった。覚えてないだけかもしれないけど。
それに怪人だって血が流れている。私たち人間ちは違い、真っ黒な血が。
「人間の血を抜いて、怪人の血を入れる。それをしないと怪人化しない。それがうちのチームの結論」
「じゃあ……」
言いずらそうに凛華さんは私に視線を向ける。結陽も透子も、それに倣うように視線を向けた。
「春が怪人化してるのは……グリーンが言っていたように武器のせい。春、手首見せて」
「うん」
私の左手首に表示されている数字は”9”だ。初めて数字が浮かび上がった日は”10”だった。数字が一つ減っている。
「透子は”3”だったよね」
「そうだね」
透子は同じように腕まくりをし、左手首を差し出した。何度見ても表示されているのは”3”だ。私より……怪人化が進んでいる?
「私も血液検査を受けたよ。春と同じようにね」
「……どうだったんですか?」
聞き返したものの、凛華さんだって分かっている。ここにいる全員が分かっているはずだ。
「黒だった。私も春と同じ。とっくの昔に人間辞めてたのかもしれない」
「……透子さんは人間ですよ」
「凛華。ちゃんと結果を見て」
透子は手元にあった資料を凛華さんに手渡した。近くにいた私と結陽もそれを覗き込む。
「……危険レベルB?」
「そう。何かきっかけがあればすぐにでも怪人になってしまうくらい、危うい状態みたい」
二人が食い入るように検査結果を見つめる中、透子の手元にはもう一枚の用紙があることに気づいた。
あれはきっと……。
「透子、それ貸して。私の検査結果だよね?」
「良いけど、見たいの?」
「見たいに決まってるじゃん。……見せたくないの?」
「レッドの先輩としてなら見ろって言う」
「……同居人としては?」
「見ない方が良いって言うかもね」
「……じゃあ見るよ。だって今は、コウセイジャーのミーティング中だし」
透子から結果の用紙を受け取り、さっきと全く同じ内容——
「……危険レベルA?」
「な……⁉ 春ちゃんのほうが数字は低いし、武器だって長く使ったわけじゃないのに! どうして!」
当の本人より凛華さんや結陽のほうがショックを受けている。私は……心のどこかでそうじゃないかって思っていたから、然程驚いていない。
「そこなんだよ。私より春のほうが危険レベルが高いのが分からないの。私は何回も呪いを解放したし、長くあの武器を使ってきた。それに比べて春は……」
難しい顔をしながら透子は呻く。
「初めてあの武器を使った時のこと、覚えてる?」
「私が模擬戦の相手になった時のことだよね?」
私が何を言いたいか、二人はまるで分っていない。もちろんその場にいなかった結陽もだ。
「あの模擬戦の後、私は奇妙な人影を見た」
ようやく何のことを言っているかを察したようで、神妙な顔で頷いた。
それを見て私も続きを話す。
「あの時は影のような、顔がない人間。あれは誰なのか、今でも全く見当がつかないけど……。意識が途絶える前にもう一人、顔を見たの。今なら分かるよ。あれは…………グリーンだった」
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