53.
「じゃあ、始めようか。これからの話を」
幸せな時間はほんの束の間。すっかり仕事モードの顔になった
私たちは考えなくてはならない。これから結社と、どう戦っていくのか。
「まだ寝起きだし、ゆっくりしたいんだけどね」
さっきまで眠っていた
結社の話をするのなら結陽のほうが適任だ。透子はそう言って
その予想は見事に当たり、目覚めたのは結陽だった。
「飲み物でも入れる?」
「そうだね……。春、お願いしても良い?」
立ち上がり、三人分のマグカップを用意する。
透子はコーヒー、私はココア。結月だったら私と同じココアを選ぶだろうけど、結陽はどうだろう。
「結陽は何が良い? コーヒーかココア。あとは緑茶もあるけど」
「……コーヒーで」
「分かった」
やはり結月とは好みが違うようだ。結月は私と同じで苦いコーヒーは飲めない。対して結陽はコーヒーが好きらしい。
やっぱり別人、なんだろうか……。
「はい、お待たせ」
ただのインスタントのコーヒーにココアだけど、これから打ち合わせをするにはちょうど良い。きっと何杯かおかわりすることになるだろうから。
「春はココア?」
「うん。コーヒーは飲めない」
「知ってたぁ」
「うるさいなぁ」
コーヒーが飲めない私をいつものように透子がからかう。
その様子を気にすることもなく、結陽はただ興味深そうに私のココアを覗き込んでいた。
……もしかしてココア、飲んだことない?
「結陽ってココア、飲んだことある?」
「ん……ない」
思った通り、結陽はココアの味を知らない。
「飲んでみる?」
「……うん」
私のマグカップにおそるおそる口をつける。甘いのか、苦いのか。それすらも結陽は知らないのかもしれない。
「……甘い。美味しい」
「コーヒーは苦いけど、大丈夫なの?」
「うん。コーヒーは飲んだことあるから」
結陽と結月は同じ身体を共有していても、記憶は共有していないのかもしれない。
結月は夢で結陽が人を殺しているところを見たと言っていた。でも、結陽は結月のことは何も知らない。
……身体の元の所有者である結月とは違う、異質な存在なんだ。
「結陽。前から気になっていたんだけど、結月の記憶は共有出来てないの?」
私と同じ考えに至ったらしい透子が単刀直入に疑問をぶつける。
「出来てない。そもそも結月って人格が私の中にあることすらよく分かってないんだよ。私は会ったことないし。……逆に結月は私のことを知っていたの?」
「結月は夢の中で結陽を見たと言っていたよ」
「私は……夢なんて見たことないから」
少し、困ったように結陽は言った。本当に結月のことは知らない、人格入れ替わりのことは分からない。その表情を見ただけで私は確信できた。
「そういえばあの時どうやって結月と結陽を入れ替えたの?」
「あの時?」
「アジトから脱出する時……ほら、私とピンクが全く歯が立たなくてピンチだった時だよ」
「ああ。あの時は……」
「私がこれで、ビシッと」
透子が手を刀のように振り下ろした。そっか、結月の話を聞く時もそうしてたっけ。
「気絶するか眠るかしか方法がないのかな……。これから戦う時は毎回透子が気絶させなきゃいけない?」
「確かにそれは不便だね」
戦闘は結陽が。それは私たちの共通認識だった。でも都合良くその時の人格が結陽だとは限らない。結月のままで結社に襲われたら……。嫌な想像が頭を過る。
「意図的に切り替え、もしくは規則性が分かれば良いんだけど……」
「結陽、意図的に出来たり……しないよね?」
「しないね。それが出来たら入れ替わりなんて起こってないと思うよ。私か結月、どちらかがこの身体を独占しただろうからね」
行き詰ってしまった。
この問題はこれ以上ここで話し合っても解決しない気がする。違う議題を話し合ったほうが賢明だろう。
「議題を変えよう。たぶん時間の無駄だと思う」
「私もそう思ってたところ。入れ替わりについては支部に相談してみるよ」
透子が賛同し、次の話へと移る。
「これは話し合いというより、結陽に聞きたいことなんだけど」
ちらりと透子は探るような視線を結陽に向ける。
それを見た結陽は軽く肩を竦めると、不敵に笑った。
「何でも答えるよ。私もコウセイジャーの一員なんだから、協力は惜しまない」
「そう……。なら、教えて」
私には透子がしようとしている質問が何なのか分からない。
結社の戦力? 他のアジトの場所? 聞きたいことはたくさんあるだろうけど、それらを全て結陽が把握しているとは到底思えない。
透子は何を聞こうとしてるんだ……?
「”2番”って……なに?」
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