35.
「たこ焼き美味しい! ビールに合う!」
右手にたこ焼き、左手にビール。
「はい、次の焼けたよ! どんどん食べてね」
生地を流し込み、タコを入れて。適度に焼けてきたらひっくり返して。それを全部一人で軽々やっているのだから頭が上がらない。
「もうお腹いっぱいー」
「理央もー」
それを何度か繰り返すと、双子の
「食べ終わった皿は洗いに出してよ」
同じくお腹いっぱいなのか、
テーブルには食べ盛りな
「あの……」
「……なに?」
控えめに、小さな声で琳太郎くんが話しかけてきた。まさか私に声をかけてくるとは思わなくて、肩が震えてしまった。
「北高って、どんな感じですか?」
「どんな感じって……?」
「えっと…………」
「琳太郎は北高志望だもんね」
最後のたこ焼きを焼き終わって、ようやく腰を落ち着けた凛華さんが優しく声をかける。
「そう、なんです。だから学校の雰囲気とか、勉強のこととか。姉以外の人からもいろいろ聞きたくて……」
「そっか。うーん、雰囲気か……」
受験生の琳太郎くんになんて言えば良いのかな。嘘をついて、楽しい、充実してるって言うのは簡単だ。でも出来ればそれはしたくない。
「先生が……」
真剣な目で琳太郎くんは私の言葉を待つ。
「親身になって生徒のことを考えてくれる先生がいて、ね。すごく、助けられてるよ」
「……それは、具体的にどんな風に?」
「悩みを聞いてくれたり、時には本気で怒ったり。言っちゃえば生徒なんて他人なのに、自分のことのように親身になってくれるんだ。とにかく優しい、かな」
もちろんそれは透子のことだ。学校でも私のことを気にかけてくれているのも知っている。
私が出動して授業に出れなかった時は家で丁寧に教えてくれるし、学校でつまらなさそうにしていると必ず声をかけてくれる。
いつも面と向かって言わないけどちゃんと感謝してる。
でも、ここまで分かりやすく言っちゃったら、透子は自分のことだって分かってしまうかもしれない。
それでいいか、と思う。私は素直に言えないから。せめて遠回しにでも伝われば良いなと思う。
「春ちゃん、それって……」
全てを察した凛華さんが言いかける。
少し照れ臭かったけど、そうだと頷く。琳太郎くんも分かってしまったのか、目を見開く。
満を持して私は透子の方に顔を向けた。
「う……飲みすぎた……気持ち悪い…………お腹苦しい……うぇ…………」
「ええ……」
……そこには駄目な大人がいた。
私たちが目を離している隙に冷蔵庫にあった全てのビールの缶を空け、人知れず悪酔いしていた。
「……吐く…………」
「待ってここで吐かないで、トイレで吐いてきて」
限界が近い透子を引きずって何とかトイレに押し込む。
「う……おえ…………」
扉の向こうからは形容しがたい音が聞こえる。中は見えないがきっと現場は大惨事だろう。
「全く、締まらないな……」
ずるずると座り込み、扉に背もたれた。
いつも
その全てが透子の良さであり、悪さだ。
そんな掴みどころのない透子だからこそ、愛おしく思う。
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