24.

「どれにする?」


 トレーニング場に着くと会議室のような部屋に通された。部屋の中央には簡素な机が置いてあり、たくさんの武器が並べられていた。

 グローブ、カギ爪、ナックル、それにこれは……篭手こて? とにかくたくさんの武器がずらりと並んでいる。


「……こんなに発注したの?」

「だって、たくさんある中から選んだほうが良いでしょ? どれが自分に合うのか分かんないんだから」

「そうだけど……」


 私がこの中から選ぶのは一つだけ。下手したらどれも合わないかもしれない。そうなった時に目の前にあるこの武器が全部無駄になるのか……。


「この武器たちのことは気にしなくて良いよ。もし春が使わなくても他の支部に回すから。使いたい人いるかもしれないでしょ」

「それなら……まあ……」


 私の心を見透かしたように透子とうこは言う。それなら心置きなく武器を選べるから良い。


「……ねえ」


 右から順に確認していると一つだけ目を引くものがあった。


「この籠手……なに?」


 禍々しい、まるで呪われているかのような形容しがたい見た目をしている。


「ああ、やっぱりそれを選ぶんだ……」


 私の後ろで腕を組み、様子を見ていた透子が呟く。


「なんか禍々しいというか、毒々しいというか。間違ってもヒーローの武器には見えないんだけど」

「そりゃそうだ。それ、本当に呪われてるから」


 籠手に伸ばしかけた手を止める。


「呪われてる?」

「そう。呪われてるんだよ、その籠手。と言っても相手を呪うわけじゃない」


 なんだそれ。外れ武器か何かだろうか。


「使用者の力を最大限に引き出す代わりに命を削る。そんな武器だよ」

「なんだ、それなら……」


 さっき引っ込めた手を伸ばす。


「これにする」


 初めて見た時、これなら私に合うと直感した。これは間違いなく私向きだ。私以外には扱えないとすら思う。


「本気?」

「もちろん。私が死ぬ前に結社を潰せば良いんでしょ」

「そりゃそうだけどさ……」

「透子だって私がこの籠手を選ぶって思ってたんじゃないの?」

「……正直思ってた。だから安全装置をつけさせてもらったよ」

「安全装置?」

「セーフティー機能ってやつ。今は呪いを封印してあるんだよ、それ」

「は? 意味ないじゃん!」

「いやいや、ずっと呪い解放してたら結社より先に春が死んじゃうよ。だからその呪いはここぞという時だけ解放して」

「……どうすれば良いの?」

「いつも使ってる時計に機能を追加するから、どうしてもって時はそれで封印を解除して。でも本当にここぞって時だけね。ちゃんと使うタイミングを見極めること」

「分かった。けど、これ普段はただの籠手ってこと?」

「そんなわけないじゃん。ちゃんとれっきとした武器だよ。どんな熱にも耐えられるし、毒も通さない。もちろん呪いがなくても身体強化されるから今より戦いやすいはずだよ」

「熱ねぇ……」

「前に熱を発する怪人に真正面から向かって行ったでしょ」

「う……」


 思い出した。イエローと二人でサゼンソ―と戦った時、すぐに飛び込んで火傷したっけ。

 うん、あれは痛かった。痕も少し残っちゃったし。見せたことないけど透子は知ってたのかな。


「いくらバトルスーツ着てても素手で殴りにったら怪我するに決まってるでしょうが。だから呪いがなくてもちゃんと使える武器だよ、これは」


 試しに装着してみる。両手を禍々しい黒の籠手が包み込む。不思議と私の腕にぴったりとはまる。

 ゾワリとした。

 呪いは封印されているはずなのに、何かが私の中に入ってくるような不思議な感覚。


「……」


 手を握り、開く。問題なく動けそうだ。


「いける」

「じゃあ模擬戦してみようか。凛華りんかも待ってることだし」


 透子に促され部屋を出る。

 凛華さんには先にトレーニングルームに行ってもらっている。きっともうウォーミングアップが終わっている頃だろう。

 重い扉を開けると学校の体育館よりも広い、何もない空間が広がっていた。


「凛華さん、お待たせ」

「ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ。じゃあ、やろうか」


「「変身」」


 二人の声が重なり、風が吹き荒れる。

 

 凛華さんに向かってゆっくり歩き出す。

 トレーニングルームの外で透子がなにか話しているが風の音で聞こえない。


 バタン。

 扉は閉められた。

 さあ、戦闘開始だ。

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