23.
「じゃあ春ちゃんは苦いのが駄目なんだ?」
「辛いのも酸っぱいのも、でしょ?」
大人二人が私の苦手な食べ物を
「なに、二人して子供っぽいって言いたいの?」
「え、ごめん。そんなつもりはなかった……。春ちゃんの好みが知りたかっただけなんだけど……」
「はは。そんなつもりじゃナイヨー」
「どうせ私は辛いものも苦いものも、酸っぱいものも苦手ですよーだ」
思いっきり拗ねてココアを胃に流し込んだ。ドロリとしたココア独特の食感が広がる。
「まあまあ、でも春は甘いものが食べれるでしょ? 大人になると甘すぎるものは受け付けなくなるんだよー」
「そうなの……?」
「うーん、私は甘いもの食べれるけどなぁ。週末はシュークリームとかプリンをついつい買っちゃう」
「……」
「透子だけ年齢が——」
「待ってそれ以上言わないでお願い」
してやったりという顔で透子を見る。自ら墓穴を掘り、悔しそうな顔をしている。その顔は普段見ることが出来ないから中々に愉快だ。隣で凛華さんも苦笑いしている。
「はぁー、久々に笑った。透子、そろそろ若くないんだから胃は大事にね?」
「
「……ふ……ふふ…………あははっ!」
私たちのやり取りを見て、ついに凛華さんが吹き出した。
「二人とも仲良いね!歳の差感じないくらいに」
「いやいや、かなり歳の差ありますって私たち」
「私からしたら春はガキんちょだよ」
ガキんちょと思われていたのは心外だ。
「透子さんの前では春ちゃんはそういう感じなんだなーって。私の前だと礼儀正しくて大人しくなっちゃうから。こういう春ちゃんは初めて見るんだもん」
「そうですか……?」
「そう、それ! 敬語止めない?」
「えっ?」
「私たち同じコウセイジャーの仲間だし、年齢は関係ないかなって。それにほら、最初に言われたじゃない。コウセイジャーはみんな対等、でしょ?」
「うーん……でも……」
「レッドの時は敬語使わないじゃんー」
「分かった。敬語、やめるよ」
何が嬉しいのか、わーい、と子供っぽく喜ぶ。
「凛華、私は? 私には敬語使うの?」
「透子さんはコウセイジャーじゃないですし?」
「えー、なんか仲間外れみたいー」
透子は不貞腐れてずるずるとストローの音を立てる。
「……ね、なんで今日凛華さんなの?」
「んー? なんでって?」
模擬戦をする前にどうしても聞いておきたかったことを聞いた。この前の口論が原因だったらなんだか申し訳ないし……。
「深い理由はないよ。ただ連絡が取りやすかったのが凛華だっただけ。イエローは療養中だし、ブルーとグリーンは返信遅いし」
「それだけ……?」
「それだけ。ね?」
「はい。透子さんから急に模擬戦の相手してって連絡来たときはびっくりしましたよ、本当に。でもまさか相手が春ちゃんだとは思わなかったなぁ」
「付き合ってもらっちゃってすみま……付き合ってくれてありがとう」
いつもの癖で敬語で話そうとしたらジトっとした目で見つめてきたから、慌てて言い直した。
「どういたしまして! ちょうど私も体動かしたかったし、気にしないで。最近仕事ばかりでトレーニングの時間取れてなかったから」
「仕事?」
「凛華、最近シフト入れすぎじゃない? ほどほどにしなよ?」
「……気をつけます」
「凛華さんの仕事って道路を作る仕事じゃないんですか?」
「今はね。いわゆる日雇いバイトってやつで。いろんなところを転々としてるの。お金が必要で……」
「普通に就職じゃ駄目なんですか?」
「高校卒業してからすぐ就職したんだけど、やっぱり高卒って給料安くって。しかもその時コウセイジャーも両立してたから中々しんどくてさ……。やっぱり自分でシフト決めれる方が良いなーって思ってバイトにしたんだよね。現場仕事なら高いとこだと日給二万円近いからさ」
二十歳で働いていると聞いたときは高校を卒業してそのまま就職したのかと思ってた。見かけによらず現場仕事なんだなって。
でもそれは全然違くて。これが前に言ってたみんなそれぞれ持ってる事情というやつだろう。
「ま、凛華にもいろいろあるんだわ」
難しい顔をしていると透子が会話に割って入った。
「二人ともそろそろ電車来るから出よう。会計は私が済ませとくから先に切符買っといて」
「え、分かった。あとで割り勘——」
「透子さん大好き! ありがとうございまーす!」
凛華さんって意外と現金な人なんだなぁ……。
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