8.

はる、これ! これ着て!」

「えー、また?」

「何言ってんの、まだ五着目じゃん。まだまだ似合いそうな服あるから」

「まだ続くの?」


 透子とうこに手を引かれ、大きな駅の近くのショッピングモールに来ている。

 最初に服を見たい、と透子がうるさいからアパレルショップへ。これもあれも、と試着が止まらない。

 まるで着せ替え人形のようにさっきから試着しっぱなしだ。

 透子に文句を言いたいがさっきから持ってくる服が全て私に似合うものばかりだから何とも文句を言いにくい。なんでこんな私に合う服ばっかり選べるんだろう。


「はー! 似合う! 可愛い!」

「ちょっとこれは……恥ずかしいんだけど」


 最後に透子が持ってきたのは夏らしいワンピース。少しくすんだ青色でウエストリボンも付いている。首回りは絵里があらかじめ開いている、いわゆる開襟シャツ風だ。鎖骨が見えるくらい開いてるから少しだけ恥ずかしい。


「きっとこの帽子とバッグを合わせると似合うと思うよ。試しに持ってみて」

「ん」


 言われるがままに帽子をかぶり、バッグを片手に持つ。鏡の前に立つと確かに様になっている。大人過ぎず、かと言って子供過ぎず。ちょうど良い塩梅あんばいのコーディネートだと思う。


「似合ってるよ! これ買おうよ、私払うし」

「うーん、確かに似合ってたけど……」


 確かに似合ってたし買っても良い。でも透子に買ってもらうのは気が引ける。

 私は高校生だけどコウセイジャーとしてお給金は貰っているから自分のものは自分で買いたい。家賃や生活費なんかは透子が出してくれているからせめて自分の身の回りの物ぐらいは自分のお金で買いたいのだ。


「これ、やっぱり自分のお金で買うよ。この前お給料もらったばっかだしさ」

「えっ」

「なんでそんな残念そうな顔してるの?」

「自分が買ってあげた服を着てる女の子ってめちゃくちゃ良くない?」

「知らないよそんなの。とにかくこれは自分で買うから。てか透子の服も見ようよ」


 えー、とごねる透子を宥めながら他の服を見て回る。透子はスタイルも良いし、顔も良いから何着ても似合う。

 学校にいる時はスーツかきれい系の私服、今日みたく私と出かける時はデニムにTシャツとカジュアルな恰好をしていることが多い。


「これは? この色なら今持ってるトップスと合わせやすくない?」

「うーん……」


 グレーのロングスカートを手渡したが微妙な顔をされた。透子は派手な服は好まないから、この色なら無難で今の手持ちとも合うと思ったんだけど。


「きれい系よく着てるよね? この色、嫌だった?」

「嫌じゃないけど……なんか、こう、いつもと違った服が着たいなって」

「いつもと違う服、か」


 あまり着ない色味の服とかどうだろう。ちょうど目に入ったベージュのタックパンツを手に取る。この色は透子は持ってないし、派手過ぎず地味過ぎない、はず。


「透子、これは? 黒い靴持ってたよね、ドレスシューズって言うんだっけ。あれと合うし、トップスはいつものでも、今ここに売ってる開襟のシャツでも合うと思うんだけど。それにこういうカラーのパンツ持ってないよね?」

「試着してみる!」


 念のためサイズ違いを二つ持って試着室に向かって行った。

 透子のバッグと自分のバッグを持って、試着室の前で着替え終わるのを待つ。やることも無くぼうっと試着室の扉を見る。

 きっと透子は似合うと思う。さっき手に取った時に頭にイメージが浮かんだ。私が選んだ服を着て隣を歩く透子の姿が。



「春、着てみたんだけど。どうかな?」

「……似合ってるよ。それ、今日買わない?」

「うん、気に入ったし買うつもり」

「……私出すよ、お金」

「え、いいよいいよ。私も自分のは自分で払うよ」

「この前、バッグ買ってもらったじゃん。それのお返し」

「うーん、そこまで言うならお言葉に甘えようかな……」


 しぶしぶ了承した透子の手からベージュのパンツを受け取る。

 私が支払った服を透子が着る。想像したらなんだか楽しくなった。


 なるほど。さっきの透子の言い分、自分が買ってあげた服を着る女の子。確かにめちゃくちゃ良いかもしれない。

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