第55話
「…………彼女?」
「そうだ、彼女だよ彼女!所謂恋人ってやつだな。いやあ、いい響きだわ」
彼女の4文字を喉の奥から絞り出すように反復する僕に気付かず、戸塚は喜色を浮かべてそう言った。
「高校生になったんだし、彼女のひとりやふたりくらい、やっぱ作りたいもんだろ?彼女できたらさすがに姉ちゃん達も口出してこないこないと思うんだよな。てか、口出されたらどんだけって話だし、いくらなんでも俺だって怒るわ。まぁちょっかいをかわすいい口実になるのは違いないな」
弟や兄離れさせるいい機会だし、一石二鳥とはこのことだ。そんなことを嬉しそうに話す戸塚に、僕はなんと言えばいいのか迷ってしまう。
「そうかもしれないけど…」
「だろ!?自分でもいいアイデアだと思うんだよな。だからさ、一緒に頑張ろうぜ、辻村。なんせスタートダッシュで出遅れちまったもんだから、俺このクラスの女子のことよくわからんのよ。情報共有して乗り切ろうぜ!うちは見た目可愛い子多いし、間違いなく当たりクラスだとは思うんだけどなぁ」
「当たりって」
いきなりそんなことをのたまう彼に、僕は呆れた目を送ってしまう。
「ほら、あそこのグループとか皆可愛いじゃん。あとは松下さんとか、三原さんもいいよなぁ。あと赤西さんもか。地味だけど、よく見るとかなりイイ線いってると思うんだよな。うん、やっぱうちのクラスってレベル高いわ」
そう言って周囲に目を配る戸塚。
人を見た目で判断するのはどうかと思うんだけどな。
まぁ確かに可愛い子が多いといえばそうだけど、ちょっと下世話な話題だと思う。
「なぁ、辻村もそう思わないか?」
「え…」
そんなことを考えていたのだが、いきなり話を振られて、僕は一瞬戸惑ってしまう。
「ほら、一緒に彼女作る以上、相方の好みくらいは把握してないとダメだろ?いい機会だし聞いときたくてさ。まぁレベル的は一番高いのE組だとは思うけど、辻村はうちのクラスだと、誰が好みなんだ?」
「えっと…」
そんなことをいきなり言われても…
「なんだよ、教えてくれてもいいじゃんか。男同士だし、別に隠すような話でもないだろ」
言いよどむ僕に、戸塚が呆れた目を向けてくる。
さっきまでとは逆の構図だ。
(まぁ、そうなんだろうけど…)
確かに隠すようなことでもないだろう。別に言いふらすされたところで、どうということもないネタだ。
中学の頃だって、同級生の男子がよくこの手の話題で盛り上がっているのは目にしていた。
その輪の中に自分がいなかっただけ。ただ単純に、この手の話題に僕がついていけてないだけである。
こういうノリに乗り切れないところに、自分の対人経験の少なさがモロに反映されていた。
(ただ、僕はそもそも彼女を作る気なんて…)
戸塚がひとりで盛り上がってるけど、そもそも今の僕は誰かと付き合えるような状況じゃない。
美織の件が解決しない限り、そんなことを考える余裕なんてとてもじゃないがないのだ。
ただ、それを説明したところで納得してもらえるとは思えないし、逆に変な目で見られる可能性もあるだろう。
断ろうにも、うまい言葉を見つけられない自分がいる。
「あ、俺が先に言ったらいいのか?んじゃ言うけど、俺はだな…」
「あれ?なんか面白そうな話してるね」
そんな声が聞こえてきたのは、ちょうど答えあぐねていた時だった。
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