第44話
「いえ、私はあまり出歩かないほうでしたので…」
「そうなんだー。じゃあ渋谷とか新宿とかは?行ったことあるでしょ?オススメスポットとかない?」
「すみません。確かに何回か行ったこと自体はありますが、家族とでしたので、そういう場所は…」
「えー!勿体無い!私なら絶対色んなとこ行くよ!」
「んーと、それじゃあさ…」
明らかに陽キャとわかるクラスメイトが、彼女の机を囲むように話しかけている。
その光景に、僕は見覚えがあった。
デジャヴュといえばいいんだろうか。
つい半年ほど前、似たような場面を目にしていた。
「っつ……」
思い出すだけでも、苦い記憶だ。
あれから歯車が全て狂った。
あの出来事さえなければ、僕はこうして席を立つこともできずに拳を握り込んでいることもなかっただろう。
赤西さんのことだって、チラリと横目で見るだけで、話しかけもせず。
ただ大変だなと頭の片隅で思うだけで、さっさと教室から出て行って。
その途中で彼女のことをすぐに忘れて、あの子とどこかで待ち合わせして、そして一緒に肩を並べて歩いて…
そんな未来も、きっとあったんだと思う。
中学からの延長線。進学しても変わらないルーチンワークをただこなすだけの、起伏もなければ山もない、人によってはつまらないといえる毎日を過ごすだけの、ありきたりの世界。
だけどそれは、僕にとって間違いなく、幸せといえる世界だった。
そこに戻れる可能性なんてもうどこにもないけれど、戻れるなら戻りたいと、心のどこかに残った残滓が零す程度に、未練だけは残ってる。
「僕は…」
どうするべきなんだろう。
助けにいくべきなんだろうか。
あの時逃げた後悔を清算するとしたら、きっとここをおいてないんだろう。
「うわー。赤西ちゃん、早速人気者だねぇ」
俯いていると、呑気な声が隣から聞こえてくる。
顔を上げると、頭の上で手を組んだ三原が椅子に寄りかかりながら、足をぶらぶらとさせていた。
「まぁわかるけどね。やっぱ東京から来たってインパクトあるもんねぇ。ここら辺って田舎だし、話聞きたくなっちゃうよ」
うんうんと神妙に頷く三原。
赤西さん達のほうを見て言っているようだが、それが僕には意外に感じた。
「…三原はいかないのか?」
「ん?赤西ちゃんのとこにってこと?」
話しかけると、三原は不思議そうに首を傾げる。
「僕のイメージだと、こういう時に真っ先に動くのが三原なんだけど」
「あー、まぁ、中学だと確かにそんな感じではあったかなぁ」
三原は僕から視線を外すと、ほんの少し上を向いた。
「混じってもいいんだけどさ。赤西ちゃんとはもう友達だし、焦ることないかなって。後で連絡先きくし、別にいいって感じ?」
「…朝のやり取りで、友達になったつもりなのか」
そう言う三原に、僕は呆れてしまう。
あの一方的かつ強引な会話で、彼女の中では既に友人判定を出しているらしい。
ろくに話してもいないのに、それはどうなんだ。
これが陽キャの思考だというなら、やっぱり僕には理解できそうにない。
「うん。面白そうな子じゃん。興味持っちった。仲良くなりたいから、友達でいいじゃんねー」
「赤西さんはどう思っているかわからないだろ。あの人、あまり話しかけられるのに慣れてなさそうだし、そういう一方的なのは…」
彼女からすれば強引な三原のことは迷惑かもしれないし、一応釘を刺しておこうとしたのだが、
「ん?なにか悪いの?」
「え…」
いや、悪いのって、そんなの…
「友達になりたいって思ったら、それでもう友達じゃん。仲良くなってから友達っていうの、遅くない?それだと相手のこと信じてないみたいで、なんか嫌だなぁ」
そう言う三原の顔は、とても不思議そうだった。
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