第42話

「え…」


「ちょっと三原さん、なに言ってんだよ!」


三原のとんでも発言を、僕は慌てて遮った。


「ん?違うの?」


「違うに決まってるだろ!赤西さんとはほとんど初対面みたいなものなんだから」


三原は首を傾げているが、表情にまるで悪気が見えないのがタチが悪い。

こちらのことを考えていないのが丸わかりで、思いついたことをその場のノリで言っているだけなんだろう。

入学初日に付き合っているなんて誤解されるようなことをクラスメイトになる人たちの注目が集まってる中で言うなんて、考えが浅いにも程がある。

はた迷惑とはこのことだ。


「へー、そうなんだ。その割にはもう名前知ってるんだね。人見知りの辻村くんにしては珍しいね」


「っ…別にいいだろ、そんなの。たまたま話す機会があったんだよ、それだけだ」


そのくせ、妙に勘だけは鋭い。

興味がないだろうに、知ったようなことを言ってきていきなり図星をついてくる。

まるで心の内側に土足で入り込んでくるかのようで、三原のこういうところが僕は中学の頃から苦手だった。


「ふーん、違うんだ。これは早速報告しとくかなぁ」


「ん?報告?」


「あ、ううん。なんでもないなんでもない。それよりふたりともゴメンねー。私早とちりだからさ。なんでもかんでも結論出すの早すぎって、よく怒られるんだよねー」


タハハと誤魔化すように笑う三原。

謝ってはいるが、あまり反省の色が見られないように思えてしまうのは、彼女の軽い性格を僕が知っているからだろうか。


「はあ…」


「口は災いのもとってやつなんだろうけど、なかなか直せないんだよね。赤西ちゃんだっけ?ゴメンね、いきなりブシツケなこと言っちゃって…あ、辻村くん、ブシツケの使い方、これであってる?」


いや、聞いてくるなよそんなこと。

ほんとよくうちの高校に入れたな…改めて呆れてしまう。


「うん、一応ね」


「良かったぁ!ね、赤西ちゃん、せっかくだし私と友達になろうよ。これもなにかの縁だしさ。ね、いいよね!」


「え、あ、あの…」


グイグイと迫る三原に、戸惑いを見せる赤西さん。

ここまで言葉を発していなかったが、明らかに困惑しているようだ。

あまり押しに強い性格じゃないだろうというのはなんとなく察していたけど、どうやら当たっていたらしい。


(そういうところも、美織に…)


ふたりを重ね合わせてしまいそうになった時、ガラッという音を立て、反対のドアが開かれた。


「おーい、皆席につけ。高校生になったばかりで周りと話したい気持ちはわかるが、まずは点呼をとるからな」


穏やかな声でそう言ったのはスーツを着た女性だった。

どうやらこのクラスの担任の先生らしい。

立ち話をしていた人たちは慌てて席に座っていき、瞬く間に僕ら三人だけがポツンと残されてしまう。

そんな僕らも担任の「お前らもさっさと席につけ」の一言で急いで空いている席に着いたのだが、椅子に腰掛けたところで僕はコッソリとため息をついていた。


(最初からこんなことになるなんてついてないな…)


注目を浴びることは僕にとって大きなストレスだ。

高校でも無難に乗り切るつもりだったのに、いきなり大勢に見られるなんてついてないにも程がある。


(彼女にも悪いことをしたな…)


前の席に座る赤西さんの小さな背中を見ながら、僕は罪悪感を覚えるのだった。


「いやあ、高校生活始まるって感じでなんかワクワクするねー」


…ちなみに僕の隣の席の生徒は、何故か三原だった。

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