第41話

「いやー、良かった良かった!みおりんやさえっちとは別のクラスになっちゃったからさぁ。中学の頃の知り合い誰もこのクラスにいなくてどうしようかと思ってたんだよ」


教室に一歩足を踏み入れた僕を待っていたのは、カラカラと明るい声で距離を詰めてくるのは、ひとりの女子だった。

背丈は普通。ただ、その格好は割と派手で、登校初日だというのに制服の着こなし方がやたらラフだし、スカートも短い。校則に引っ掛かるんじゃないだろうか。

ポケットからスマホにつけてると思わしき小物が見えていて、なんかジャラジャラ鳴っている。

不良一歩手前のギャルスタイル。

高校生になっても、どうやらそれは変わってないらしい。


「…知り合いって、別に僕とはロクに話したこともなかったじゃないか、三原さん」


彼女ー三原鈴鹿のことを、確かに僕は知っている。

中学の後半、学園のアイドルと化した美織を取り巻いていたひとりだ。

元々は木嶋グループの一員で、真っ先にばか騒ぎして場を盛り上げる役割を持っていたと記憶している。

成績はあまり良くなかったはずだが、この学校にいて制服を着ているということは、彼女も合格していたということか。


「そうだっけ?いやー、辻村くんって、あまり話しかけてほしくなさそうなオーラ出てたっていうか?なんかみおりん以外にはむちゃくちゃ壁作ってる感じだったし、いっかなーって思ってたんだよねー。ゴメンね!」


三原が頭を掻くと同時に、薄く染められたツインテールが左右に揺れる。

それがいかにも軽い彼女の性格を物語っているようで、謝られた気がイマイチしない。


「はあ…別にいいけど…」


「みおりん達に勉強教えてもらって、なんか合格できたまでは良かったんだけどさー。ふたり以外は皆落ちててマジショックだったんだよねー。士道くんはなんか話しかけにくいしさぁ。おまけにふたりと教室離れてどうしよーと思ってたところに辻村くんの名前あったじゃん。これって天の助けってやつでしょー。いやー、良かった良かったぁ」


僕を他所に、ひとりで勝手に盛り上がる三原。

相変わらずだ。こいつ、本当になにも変わってない。


陽キャだけど、その中でも特になにも考えてない、今が楽しければそれでいいタイプであり、目立つものや関心を惹かれるもの以外には興味を示さない、良くも悪くも調子のいいお調子者。

それが僕の中での、三原鈴鹿のイメージだ。


明らかに裏のある木嶋と比べればマシではあるが、自分を隠さない生粋の陽キャである彼女は嫌がおうでも目立つ。

目立ちたくない僕とは知名的に相性が悪い相手と言っていいだろう。

そういう意味では悪意がないぶんタチが悪い。

事実、先ほどの大声で、教室の視線がこちらに集まりつつある。

僕は赤西さんを隠すように、僅かに立ち位置を変えていた。


「三原さんならすぐに友達出来そうなものだけど…」


「そりゃ作るけど、不安は不安じゃん。心強さが違うって。持つべきものは友達って言うしさー」


不安とか感じる性格じゃないだろ。

そう言いたくなる気持ちを堪える。

このままじゃキリがなさそうだ。


「いいよ、別に…それよりそこを早く通して…」


「あれ?辻村くん、後ろにいる子、誰?」


強引だろうと話を切り上げようとした時、三原は僕の後ろにいる赤西さんに気付いてしまったらしく、ひょっこりと彼女を覗きこんだ。


「ちょ…」


「あ、かわいー。もしかして、辻村くんの新しい彼女?」


そして早々に、とんでもない爆弾を僕らの間に放り込んでくるのだった。

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