高校生編

第38話

 変わりたくないと思っていた。


 僕は僕のままでいたかった。


 静かに過ごせればそれでよかった。


 だから落ち着ける人のそばにいたかった。


 だから傷つけず、傷つかない相手を僕は求めた。



 ―――だけど、僕は間違った。



 なにが悪かったんだろう。


 なにがいけなかっただろう。


 それを時々考えることがある。


 だけど、きっと意味はないんだろう。


 何故なら全ては終わったことだから。


 少なくとも、僕はそう思っている。


 だって、僕自身の手で、あの関係を終わらせたんだから。



 だけど―――彼女の中ではきっと、まだ続いているんだろう。



 ―――私は紅夜くんの全部が欲しい。逃がさない。私だけのモノにしたい



 そう言ったあの子の目には、暗く濁った怨念のような執念が、確かに宿っていたのだから。





 あれ以来、一度も話しかけられることはないまま時は過ぎた。


 できれば忘れて欲しいと思う。


 僕なんかもう拘らないで欲しいとも。


 だけど、それはきっと無理だ。



 僕はこの春、高校生になる。


 希望通りの進学校への合格を決めていた。


 でも、そのことを嬉しいと思えない。



 その高校には、彼女―――美坂美織も進学を決めていたから。



 以前約束した通り、僕と美織は、同じ高校に入学することになる。



 逃がさないと、美織は言った。


 その言葉通り、僕は逃げることが出来なかった。


 遠くに行く勇気がなかった。


 環境を変えることを、僕は良しとしなかったから。


 そのことを、美織に見透かしていたのかもしれない。


 彼女は学園のアイドルそのままに、きっと高校生になっても同じ立ち位置をキープするに違いない。



 僕は結局、どこまでも臆病者のまま、自分を変えることができずにいる。


 そしてそんな自分を嫌いじゃない自分がいることが、どこまでも僕が愚かなやつであることの証なのだろう。


 救えない僕が、美織を救えるはずもなく。


 ただじっと目を閉じて、やり過ごせればいいと切に願う。


 ただ心が苦しくて、ただとても辛かった。



 いつまで続くんだろう。


 振りほどくことはできるんだろうか。


 僕はいつか、幸せになることが許されるんだろうか―――




「許さない」




 ―――私を捨てて、幸せになろうだなんて、そんなの絶対許さない






 あの言葉がまだ頭から離れずにいた入学式の日。




 僕は、彼女に出会った。

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