第27話
次の日の朝。
起きた瞬間から、私の体調は最悪だった。
「頭痛い…」
頭がなんだかガンガンする。まぶたもなんだか腫れぼったい。
多分偏頭痛だ。昨日あまりよく眠れなかったのが原因だと思う。
正確には今日の朝方まで起きてたから、睡眠時間がまるで足りていない。
「仕方なかったけど、ちょっとキツイな…」
普段早寝早起きを心がけている分、こういう不具合には慣れてない。
後で薬を飲むのは当然としても、いつもの私なら学校を休むことをお母さんに伝えて、素直にまた眠りにつくことを選ぶだろう。
だけど、今日に限ってそうするわけにはいかなかった。
「学校、行かなきゃ…」
ゆっくりと体を起こして目をこする。
途端、チクリとした痛み。
「っつ」
それで少し目が覚めるも、なんだろうとぼやけた眼で指先を見ると、絆創膏が巻かれてた。
(そっか、指切ってたんだっけ…)
私、ほんとにボロボロだ。
苦笑しながら立ち上がり、枕元に置いておいたメガネをかける。
最近はコンタクトばかりだったから、フレームの見える視界は逆に新鮮だ。
あれはつける手間がかかるけど、メガネはかけるだけなら、1秒だってかからない。
目が乾いたら目薬を刺す必要だってあるし、普段使うならやっぱりこっちのほうが好きだった。
「コウくんも、そうだよね」
自嘲するように呟いて、私はひとつの決意を固めていく。
今日はメガネをかけて学校に向かうつもりだ。
一方的なものだったけど、それは確かに彼との約束だったから。
「帰ったら、この続きもしないと」
決意を新たに机の上へと目を向けるも、そこには積み重なったいくつもの破片がハンカチの上に敷かれていた。
それは写真立てだったもの。
ううん、これから直すものだ。
破片は全部かき集めたし、今日の帰りに接着剤を買えばいい。
そうして頑張って、元の形に戻すんだ。
そう、私達の関係のように。
―――できると思ってるの?
また頭の中で、声が響いた。
「できるよ」
そうだ。
できる。
できるに決まってる。
私達はまだ、やり直せるんだ。
……………………
…………
……
「ごめんね。紅夜はもう学校に行っちゃってるのよ」
家を出てコウくんの家に向かった私を出迎えたのは、彼のお母さんだった。
「あ、そうなんですか…」
「ごめんなさいね。あの子、勉強したいからって、最近少し早く家を出てるのよ」
申し訳なさそうにおばさんが謝ってくる。
昔から人の良いところがあるこの人に、謝られるのは苦手だった。
「いえ、来た時間も遅かったのが悪いので。こちらこそすみません」
「ううん。紅夜が悪いのよ。あの子ったら彼女を置いて先に行ってたなんて…私てっきりいつも美織ちゃんと学校に行ってるものとばかり思ってたのよ」
おばさんは怒っているけど、反応に困る。
確かに私達はもう一ヶ月近く一緒に登校していない。
思えばもうとっくにズレ始めていたんだ。
そのことに、なんでもっと早く気付くことができなかったんだろう。
「今日はたまたまですから。それじゃあ…」
「あ、いってらっしゃい。美織ちゃん、本当に綺麗になったわねぇ。あの子にはもったいないわぁ」
自責の念に駆られるように彼の家を後にするも、最後にかけられたおばさんの一言が余計だった。
「綺麗だとか、もったいないだとか…」
大人はどうして余計なことを言うんだろう。
褒めて持て囃して、その気にさせて。
そうして舞い上がらせるだけ舞い上がらせて。
だけど自分の言葉の責任なんて取りはしない。
結局、乗せられた私が馬鹿で子供だったというだけの話なんだろうけど。
それでもすごく、理不尽だと思った。
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