第22話
違う。
「ねぇいいでしょ?」
違う。
「あれ、もしかしてダメ?」
違う。
「…コウくん?あの、聞いて」
「……違う!!!」
気付けば僕は叫んでいた。
周りのことが、この時だけは見えなかった。
「……え」
「違う…違うんだって!美織は、美織は…」
もっと真っ直ぐに僕を見ていた。
そんな目をする子じゃなかった。
デートで向かい合う時は、どこか恥ずかしそうにして、言いたいことがあっても躊躇うような子だったんだ。
僕が好きだったのは、そんな美織だったのに。
なのに、こんな…
「そんな顔する子じゃ、なかったろ…」
今僕の前に座っているのは、学園のアイドルである美坂美織で、僕の好きな女の子じゃない。
同じ美織のはずなのに、見かけも中身も今はまるで違う。
そこにいるのは、僕の知っている幼馴染じゃなかったんだ。
この子も美織だとか、美織もこんな一面があったとか。
そんなプラスの方面に割りきることなんて、僕にはとてもできなかった。
受け入れるだけの度量なんて、僕には持ち合わせていなかったんだ。
「あ…」
美織はショックを受けたような顔をしていた。
多分、僕も同じような顔をしているんだと思う。
互いにきっとずれている。
ずれはじめている。
そのことに気付いて、どうすればいいんだと考えたところで、まるで答えがわからない。
「あの、お客様。どうかなされましたか…?」
ふたり俯いているところに、話しかけてくる声。
見ると先ほどコーヒーを運んできてくれた店員さんが、僕らふたりを心配そうに覗き込んできてるじゃないか。
「いえ、なんでもないんです。大きな声を出してしまってすみません」
店内の視線も僕らに注ぎ込まれているのがわかる。
美織の容姿も相まって、今の僕らは注目の的だった。
「そうですか、ならよいのですが…」
納得している感じはしないけど、とりあえず引き下がってはくれるようだ。
痴話喧嘩だと思われているのかもしれない。
それはある意味間違ってないのが、なんとも救われない話だ。
「いえ…すみません、もう出ます。行こう、美織」
「…うん」
いたたまれなくなった僕は、美織に声をかけて立ち上がる。
もうここにいることはできない。今後、この店を利用するのも無理かもしれないとふと思う。
……いや、そもそも、美織とくること自体が…
そんなことを、頭の片隅で考えてしまう自分がいた。
きっと、この時にはもう心の天秤は傾いていたんだろう。
僕らの関係。その破綻はもう、すぐそこまで迫っていた。
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