第17話
それから小一時間ほど経っただろうか。
時計の針は21時を周っており、いつもなら自分の部屋で本を読むなり勉強しているか、もしくはコウくんと電話で話している頃合いだ。
「うーん、もっと可愛い感じのほうがいいかしら。でも、もっと明るいほうがテレビ映えするわよねぇ」
だけど、今日は違う。
一階のリビングでソファに座りながら、叔母さんの広げたたくさんの洋服を眺めている最中だ。
もう何度も着せ替えられて、正直私は早くも後悔しているところだった。
「ねぇ、どう思う?もう少し大胆なほうがいいかしら」
「うーん。美織は大人しい子だから、こういうのはイメージと違うわね。それよりこっちのほうが…」
さらにいえば、服選びにお母さんまで飛び入り参加してきたたものだから、もう収集がつかない状態になっている。
普段はお金だけ渡して好きな服を買ってくるように言ってくるだけなのに、こんなときに口を出してこないでも…なんて思わなくもなかったりする。
(早く終わらないかなぁ…)
自分のことではあるけれど、周りが勝手に盛り上がってる状態に、なんだかついていけなくなってしまう。
これはまだ時間がかかりそうだし、手持ち無沙汰でやることもない。
仕方ないから軽く毛先を弄るつもりで指を伸ばすも、そこにいつもあるはずの髪はなく、軽く宙を切っていた。
(あ、そっか。切ったんだっけ…)
目元が見えないのは良くないからって、前髪はリビングに来て早々、軽くカットされていた。
さらにはメガネも外され、コンタクトを付けるように指示までされる始末。
以前購入だけはしてたけど、怖くてそのままにしていたのをお母さんが持ってくるもんだから、この時点で私は軽くうんざりしてた。
(これで変わるんなら、苦労しないと思うんだけどなぁ…)
イメージとしては、ちょっと大人っぽい感じになれれば、それで十分なんだけどな。
急にどうにかなるだなんて、そんなこと有りっこないし。
「……うん、これでいきましょ!絶対いけるわよ」
擦れた考えに意識が移行し始めたちょうどその時、叔母さんの大声がリビングに響いた。
「ほら、これを着て!これが間違いなく一番似合うから!」
「あ、はい」
こんな夜中にその大声は、近所に迷惑がかかるんじゃと思ったけど、結局勢いに負けて素直に服を受け取る私。
逆らえる気力ももはやなく、うんざりした気持ちと面倒臭さがこの時は上回っていた。
(とりあえず着替えて満足してもらって、もう帰ってもらおう)
手渡されたのは、白を基調とした明るめの、少し大人っぽいワンピース。
それはある意味私の希望と合致していたけれど、もうどうにでもなれというやけくそ感のほうが強かった。
なにも変わることはないと、心のどころかでこの時はまだ思っていたんだと思う。
だけど…
「あら!やっぱり!似合うじゃない!」
着替え終わり、鏡を前に自分の姿を見た私は、思わず言葉を失った。
(これが、私…?)
目の前に立つ女の子は、自分でも目を疑うほど、綺麗な容姿をしていたのだから。
「あら、すごいじゃない。変われば変わるものねぇ。馬子にも衣装って感じかしら」
「もう、自分の娘にそれは失礼でしょ!貴女って昔からデリカシーに欠けるわよね」
お母さんと叔母さんがなにか話していたけれど、そんなのはもう耳に入らない。
「これが…私…」
私は『私』を凝視する。
それこそ穴が空くほどに、私は生まれ変わったもうひとりの『私』を瞠目して見つめ続けた。
「これが…」
これなら。
これなら、きっとコウくんも。
―――私だけを見てくれる
ゾクリと、胸の奥でなにかが疼いた。
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