第四話 予感
斜めに崩れてツタが這い回るビルや電信柱。風化により、もはや形だけしか残されていない看板。今や獣や虫たちの温床と化したマンション。
禁忌の地。そこには、かつて高い科学技術によって栄華を享受し、同時に滅ぼされた旧人類たちの跡が面影をのこしていた。
そこに一つ、煙の上がる場所があった。冒険者たちのキャンプ地だ。
「団長、ロナのヤツはいつになったらくるんや?ワシもう待ちくたびれすぎてマッチになりそうや」
二足歩行の人に似た巨大なトカゲ……もといリザードマンの女が刀の手入れをしている男にダジャレ混じりに話しかけた。
「そう焦るなよ、キーちゃん。あいつのことだ、きっとナンパでもされてるんだろうよ」
団長と呼ばれた彼はそう言いながら、刀をいじる手を止めない。
刀とは言っても、彼の使うものは普通の物とは構造が異なっており、持ち手の材料で刀身を挟んで固定しただけという、かなり簡略化された形をしていた。
彼がその太めに作られた刀身に、さび止めの油を適量、布に含ませて最後の仕上げをしようとしたその時だった。
一機の蒼い角ありの機兵がキャンプ地へと入ってきた。
「遅くなりました、団長」
謝罪の声が機兵から聞こえ、一人の美少年が降りてきた。
「やっと帰ってきたわ、どうせその顔で人間の女どもをひっかけてきたんやろうな」
「主くんがそんなことするわけないだろ!」
待機状態の機兵から女の声が響き、一人の鬼が降りてくる。
「ひどいよキーちゃん!ボクの主くんにそんなこと言うなんて!そもそも主くんにはボクというプリチーかつ、バリきゃわたんな鬼っ子ガールがいるんだよ?!」
「あーはいはい、ワシが悪ぅございました!てか、お前にはキーちゃん呼びされたないんや!キーチと呼べ!」
「二人ともギャーギャーうるさいぞ」
ロナはトカゲ女と鬼との間に割って入り、なだめる。
「それよりもロナ、機兵のメンテはしなくていいのか?」
「えぇ、無問題です。それより、少しお話したいことが……」
ロナは少し深刻そうな顔をして、団長に道中で魔獣に襲われたことを話した。
「強さは大したことはないんですが、問題は遭遇した場所です」
「そうだな……本来ならばここの周辺に生息しているはずなんだがな……」
団長はううむ、と低く唸り、髭をいじっている。ロナはやはり深刻そうな表情を崩さず、こう続けた。
「これは推測の域を出ないんですが、理由が二つほど考えられます。一つ目が何体かが獲物を求めて遠出し、その内の二匹に俺が遭遇してしまった可能性」
団長は彼の言葉に軽く頷いた。
「確かにディーグマン、奴らはかなり執念深い。その可能性は高いだろうな。……二つ目の理由は何だ?」
「奴らが……何者かによって襲わされたという可能性です」
団長は眉を
「いや……ありえないな、それは。まず第一に、奴らにそんな芸当を覚えさせることが出来るのは俺たちが知る限り一人しかいない」
ロナは先ほどよりさらに深刻そうな顔をして言った。
「もし……その一人がそいつらを俺たちに遭遇させていたとしたら?」
「ま……まさか……見たのか?あのサインを」
団長が顔色を急変させてロナに問うと、彼は首を縦に振った。
「えぇ、しっかりと刻まれてました。ディーグマンの額に……」
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