第三話 裏の顔

「今回は魔獣の討伐と、に行くのが目的だよね。」


 機兵に入り込んでいる雷轟が聞いた。


「ああ、いつもの場所だ。あそこは珍品が眠っているから、依頼者も多い」


「ふーん。そういえばさ、なんで皆自分で行こうとはしないの?依頼料だって安くはないはずなのにね」


 依頼を受けたロナと雷轟が向かった「あそこ」とは、「禁忌の地」と呼ばれる場所である。

 その地には、かつて地球を支配権を握っていた「旧人類」が遺した遺物が数えきれないほど存在しており、今は殆ど失われてしまったそれらを、欲しがる者は少なくなかった。


 しかし、彼らがその遺物を得るためにはあまりにもリスクが高かった。禁忌の地はいまや危険生物たちの楽園となっていたからだ。


「自分たちで行くのはあまりにも危険度が高い、だから俺みたいな冒険者やらに頼むんだ」


「ふーん、分かるような……分からないような……」


「何が分からないんだよ」


 ロナの説明にいまいち納得ができていない様子の雷轟。それに対して彼は軽くツッコミを入れた。


「いや、主くんに依頼を頼むっていうのは分かるよ、実際君は実力があるからね」


「じゃあ、それ以外が納得できないのか?」

 

 雷轟の誉め言葉を軽く受け流すロナ。彼は水筒入れたコーヒーで喉を潤しつつ、雷轟に聞いた。


「そうだね……未だに旧時代の道具やら兵器やらにこだわりを持つのがよく分からないんだよね。確かに代替だいたい品がないから使うってのは分かるけど……」


「まあ、確かに俺にもそういう奴らの考えはよく分からない……多分引き寄せられる何かがあるんだろうな」

 

 ロナと雷轟が話している、その時だった。


「なんだか嫌な感じがする……」と雷轟が呟いた。


「魔獣か?」


「うん。あまり大きくないけど、三匹いる……しかも近づいてくるよ!」


 雷轟は索敵活動から気を抜かずに、ロナに忠告した。忠告を受けた彼はすかさずゴウデンを臨戦態勢にさせ、辺りを見回す。


「姿は目視できない……かっ!?」


 そう叫んだ瞬間、ゴウデンの足元から一つの巨大な物体が飛び出してきた。しかしそれを見切っていたかのようにアナは機体を回避させた。


「やはりそうか、ディーグマンだ!」


 ディーグマンと呼ばれた巨大な砲弾のような魔獣は、分厚く頑丈そうな外角に覆われた体から丸太のように太い四肢を出すと、獲物に避けられた悔しさからか、雄たけびを上げた。

 そして、その雄たけびに応えるかのように、新しいディーグマンがまた一匹、二匹と続いて砂から飛び出た。


「ビンゴ!やっぱり三匹いた!しかも依頼されてたやつ!ボクって天才かも?」


「そういうのはいい、いつもの頼む」


「はいはい、りょうかーい。じゃあいくよー」


 雷轟は詠唱を始めた。


はやきこと雷のごとし、疾走せよ『迅雷』!」


 彼女の短い詠唱が終わると、ゴウデンが一瞬眩い光を纏った。ロナがペダルを踏むと、移動の際とは比べものにならない程の素早い挙動を魅せる。

 そして目にも止まらぬ早業でディーグマンの首を切断した。


「まずは一匹……」


 間を入れず、ロナは機兵を駆り、魔獣へととびかからせる。剛胆な魔獣はその猛攻を避けるため、自身の剛腕で殴ろうとする。

 しかし、その動きは逆に仇となった。ゴウデンに刀で攻撃を逸らされた挙句、空いたふところを何回も切りつけられ、裂かれたのだ。

 その哀れで勇猛な魔獣が息絶えるころには、ゴウデンの刀は血で朱に染まっていた。


「あと一匹だよ!あれっ」


 残っていたディーグマンは、仲間たちが成す術なく倒れていくのを見て恐怖を覚えたのか、砂に潜り、一目散に逃げだした。

 その一瞬、ロナは魔獣の額に刻まれた紋章をその眼に捉えた。


「くそっ、逃したか」


「まぁ一匹ぐらいならなんとかなるでしょ。それより早く行こうよーボク疲れちゃったよー」

 

「はぁ……」


 雷轟はこう言いだすと聞かないのだ。ロナはため息をつきつつも、

 

(しかし……さっきのヤツら……まさかな…)


 どこか心にざわめきを覚えながら先を急いだ。





 

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