第二話 踊り子と鬼

 蒼い機兵に人影が近づいてきた。暇を持て余している風だった女は、その人影を見ると嬉しそうにコクピットから飛び降り、その主を迎えた。


「おかえり!あるじくん。ボクもう待ちくたびれちゃったよ」


「留守番ご苦労様、雷轟らいごう。もう少ししたら依頼に行くぞ、ゴウデンを出してくれ」


「ええー!?お留守番でボク疲れてるのにぃー?ちょっとぐらい休もうよー、労いの気持ちとかないのー?」


 雷轟と呼ばれた女は、あまり我慢強くない性分なのか、口を尖らせて文句を言った。しかし、ロナはこの対応に慣れた様子で、


「そうか、すまなかったな、じゃあ俺だけで依頼をこなしに行くとするか」


 と気に介せず言った。


「いいよ別に、こっちは好きなだけゴロゴロしてるもんね」


「分かった、”パーツ探し”は適当にやっておくが、いいのか?」


「うっ」


 彼女はロナの「パーツ探し」というワードに反応して短く唸る。彼女はその言葉に逆らえないようだった。


「もーわかったよ、行けばいいんでしょ」


 雷轟は少し不満げな様子で了承しつつも、コクピットにひらりと飛び移り、その中の機器類に触れた。


 彼女の体から激しい電流が迸り、コクピット内を失明しそうなほどの閃光が埋め尽くす。溢れんばかりの光が落ち着くと、先ほどまでそこにいたはずの雷轟の姿はどこにもなかった。


 彼女は額の角からも分かるように、「鬼」と呼ばれる存在である。彼女はその中の一種の「電鬼でんき」とよばれる存在であり、このように自身を電気に変換させ、電化製品などに潜ることができる。

 

 さっきまで庭園の石像の如く直立不動だった蒼い機兵が、寝起きのクマのようにのっそりと動き出し、ロナの目の前にしゃがんで手を差し伸べた。彼がその巨大な手に乗ると、手は機兵の胸部辺りに持ち上げられた。そして彼がコクピット内に滑り込むと、


「それじゃあ行くよー」

 

 雷轟の間延びした声がその機兵から発せられた。


「ああ、行こうか」


 ロナはその声に答え、魔力を「エーテル」と呼ばれるエネルギーに変換、放出させる。そのエネルギーは魔動炉へと向かい、そこで溢れんばかりに増幅され、機兵の全身を駆け巡る。

 この一連の行動によって、ライゴウは完璧に目覚めた。それを確かめるように、ロナは手足を軽く動かしてみた。スムーズに動く。なにも問題はないようだ。


「異常なし……と」


 ロナは準備運動を済ませると、足踏板ペダルをゆっくりと踏み込み、依頼された場所へと機兵を向かわせた。




 

 

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