第9話彼女の笑顔は取り繕う笑みに見える

休み時間は決まって浅原がつるむ連中の声が教室に響く。

連中の会話に耳を傾け、笑顔を浮かべている浅原だが、俺には無理やりに取り繕い引き攣る笑みにしか見えない。

連中も薄々気付いているんじゃなかろうか。

彼女あさはらも普通の——歳相応な女子なんだと感じる。

疑ってる、なんて……それこそ現在いまの彼女じゃないか。


彼女の姿や顔が視界に映るたびに胸が騒つく。現在いまの俺を見ているようで——全身に針を突き刺されているかのような痛みに襲われ、周囲が発する雑音が不協和音のように耳へと届きもして、身体が思うように動かせなくなる。


煩わしいよな、ほんと……


午前の授業が終わり、昼休みに入ると、浅原が俺の席に小走りで近づき昼食に誘う。

「久代、一緒に昼食なんてどうかな?」

「いいよ。いつもの?」

「うん、行こっか」

断られないかとびくびく怯えた表情を隠し切れていない笑みに思わず首肯してしまう俺。


教室を抜け、廊下を歩き屋上へと向かう俺と浅原。


二人の間に会話は無く、廊下ですれ違ったり追い抜かしていく生徒らの会話が響いていた。





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