第3話今の距離感も嫌いではない
バイト先の本屋での業務を終え、バックヤードにさがり、帰り支度に取り掛かっている俺の背後で橘がスマホを弄っていた。
「久代さん、恋人っていたりします?」
「えっ居ない......ですけど。どうしたの?いきなりそんな話題......」
振り返り、彼女の表情を窺わずにはいられなかった俺は躊躇いながら訊ねた。
「えっと......それほど深い意味はないです。久代さんが堅苦しい言葉遣いっておかしくないですか......その、後輩ですよ、私。タメ口で良いですよ、久代さん」
パイプ椅子に腰を下ろしスマホに視線を落としていた彼女の顔が上がり、視線を合わせながら返答をしてきた。
「女子にタメ口というのが......なんというか怖く感じて、それで......無理なんですよ」
「そうなんですか。友達は居ないんですか?女友達が居るんでしたら、砕けた言葉遣いになるなんてことは......」
「居るには居るんですけど......付き合いが長くてその──橘さんは好きな
勢い任せに口走ってしまった俺の質問に間を置いて返してきた。
「居ないです。私と付き合っても楽しくないですよ、久代さん」
「そう、ですか......って、そそっそんなことは決してっ!」
ギャル寄りのヘアスタイルやナチュラルメイクをぴしっと決めている一年の女子高生の割に芯が通っていて誠実さを感じさせる彼女に心を奪われてしまっていた。
謙遜した笑みを浮かべる彼女は素敵と言わずになんと表現するか。
「気遣ってくれなくても大丈夫です、久代さん。彼氏、恋人ってどうしたらできるのかなって気になっただけなんです。久代さん、一緒に帰りませんか?」
「えっ......ああ、はいっ!」
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