第7話…内政の充実…エピソードⅠ

第7話…内政の充実…エピソードⅠ


1370年4月上旬の日曜日朝7時…アストラハン宮殿にて


アドリアン20歳の春4月


側女達の忙しく立ち働く音で目が覚めた。


昨夜の伽はテオドラ・カンタクゼネ31歳が努めた。


テオドラは読書家でありとあらゆる分野の本を読みこなしている。


昨晩は10,11世紀の学者・思想家イブン・スィーナーの有名な


「医学典範」のある1章を読み聞かせてくれた。


粗野な好色男は興味のある部分だけ聞いて後は寝ていた。


何でも「ペニスを大きくしたり、膣を狭くしたりする方法について言うことは、


医者にとって少しも恥ずべきことではない。


それは子孫を残すための1方法だからである。


しばしば小さ過ぎるペニスは子孫欠如の原因となる。


というのは女性が快感を感じることなく、卵子を排出しないからである。


それはペニスが必要な部位まで達しないためである。


その場合子供が出来ず、女性が夫に反感を抱き、別の男性を求めることも


稀ではない。膣の広すぎる女性の場合も同様である。


夫は彼女に適合せず、彼女は夫に適合しないため、双方が取替を必要とする。」


アドリアンはこの記述が家父長制的イスラーム社会のものであるとは


信じられない。またイブン・スィーナーは「快感も速い射精を引き起こす。


女性にあっては多くの場合彼女の絶頂が遅れ、欲求不満のまま残り、


子孫が出来ないことになる。しかも、このような女性は性欲を抱き続け、


自分の名誉を大切にしない人は、見つかった男を誰でも引き込むのである。


これによって、女性達は互いの間で情欲を満足させるために、


夫婦相互間の不和に至るのである。」


アドリアンは話を聞いているうちに


「私をセックスで満足させないと浮気するわよ。しっかり頑張るのよ。」


と云われているような気になり、慌てて頑張った。


子供を孕んだかどうか分からない。


勉強家の妻を持ったのは初めてだ。まああまり考えずに生きて行こう。


アドリアンは側女や妻達とワイワイガヤガヤ語らいながら朝食を摂った。


交易品を手に入れて早く中国へ行こう。ジェベも心配しているだろうから。


1370年4月上旬の日曜日午前10時…アストラハン宮殿


朝食後幹部全員と側女以上の妻達を集めた。今後の方針を発表した。


司会をソユン・ベグが務める。


ソユン・ベグ


「内政について意見のある人は述べて下さい。その前に現状の報告を致します。


★資源開発


ペチョラ炭田・天然ガス田、ドネツ炭田、クリボイログ鉄鉱山、


チュメニ油田・天然ガス田、マグニトゴルスク鉄鉱山、カラガンダ炭田、


ヴォルガ・ウラル油田、カスピ海油田・天然ガス田等の発掘・開発は


完了しました。ペチョラ炭田からサンクトペテルブルクへ石炭を運び、


サンクトペテルブルクが工業都市になりました。火力発電所を今建設中です。


ペチョラ天然ガス田の近くのウフタに石油精製工場と液化ガス精製工場


及び貯油・貯ガス施設を建設しました。チュメニとサマーラにも同様の


施設を建設しました。ドネツ炭田からの石炭とクリボイログの鉄を利用


してドネツクに製鉄所を建設しました。カラガンダから石炭を


マグニトゴルスクに運び、製鉄所を建設しました。


モスクワも近くに炭田があるので工業都市に変貌しています。


石油と液化ガスを産地から消費地へと運ぶパイプラインの設置が望まれます。


モスクワとサマーラに火力発電所を建設中ですが、


水力発電所も建設したいと思います。


宮殿建設と上下水道の完備、都市間道路の整備は終了しました。


駅伝制も完備しています。ヴォルガ=バルト海運河、白海=バルト海運河、


ヴォルガ=ドン運河が完成し、地中海、黒海、カスピ海、白海、バルト海、


アラル海が全て繋がりました。


モスクワもモスクワ運河でヴォルガ川に繋がっているので、


ヨーロッパロシア地域の大動脈になり、


物資の輸送が大変順調に行われるようになりました。


ヴォルガ=バルト海運河のバルト海側の港サンクトペテロブルグも完成しました。


大都、南京、サマルカンド、キエフ、スグナク、モスクワ、カザン、


ベルケサライ、ヘラート、カーブル、イスファハーン、バグダッド


を交易自由都市に指定しました。全世界から人が集まるようになりました。


交易税として売上の3%を納税させています。


そのお金で市場を整備しています。」


エミリア「チュメニ→オルダバザールとパイプラインを引きましょう。


オルダバザールからシルダリア川流域にパイプラインを引くのです。


ヴォルガ・ウラル油田から近くのサマーラにパイプラインを引いて、


そこからロシア全域にパイプラインを引くのが良いと思います。


またカスピ海の原油・天然ガス田を発掘・開発して、そこからアムダリア川流域に


パイプラインを通すと良いのではないでしょうか。」アドリアンは賛成した。


シェケル「周辺では戦争もなくなりました。


住民に希望を与えるためにも蓄財を許してはどうでしょうか。


一定以上の私有財産を禁止しているのは、私兵を蓄え反乱の準備を整えるのを


防ぐためでしょう。私兵の禁止だけにすれば良いと思います。」


アドリアンは賛成した。同時にアドリアンの父親の罪を許した。


アドリアンの父は幽閉を解かれ、カスピ海の孤島の領主となった。


アドリアンは父に金塊10トンを与えた。


ジョチ・ウルス人民には国内での自由取引を許した。


ただし、私兵は許さず違反した場合は一族皆殺しにする。


トゥグディ「イランのペルシャ湾岸も原油・天然ガス田が豊富だと聞きます。


発掘・開発を私にお任せ下さい。イスファハーンにも製鉄所が必要です。


これも私にお任せ下さい。」アドリアンは許可すると同時にトゥグディを


イスファハーンの領主に任命した。


1370年4月上旬の日曜日昼12時…アストラハン宮殿


昼食の準備をしていたカラ・ユルク・オスマンの后の名前と年齢を聞いた。


アレクシオスの娘としか聞いていなかったからだ。レオノーラ17歳と答えた。


今夜の伽を命じた。テオドラよりも扱いやすいと思った。


ここはカザンに近く料理が良く似ている。


穀倉地帯なので食料品は安くて豊富に出回っている。


レオノーラを隣に並ばせて昼食を摂った。


若いせいもあるが朗らかな女で一緒に居て肩が凝らない。


昼食後アストラハンの市場を見物してみた。


毛皮を売っている店から大きな声がした。


交易商人「半年前に約束した通りトラの毛皮を出しておくれ。


あときんの金のインゴット1,000枚と引き換えだ。」


店主の女「すみません。まだ捕まえていないんです。


アラル海に獲りに行った者が殺されてしまったのです。


後発隊が戻るまであと3ヶ月待って下さい。」


交易商人「そうはいかない。約束は守って貰うよ。


前金はちゃんと払っているんだ。守れないならこの店を貰うよ。」


交易商人は男達を呼んで店主の女を追い出しかけた。


アドリアンは声を掛けた。売るつもりでいたトラの皮を男に渡して


此れで良いのかと告げた。男はこんな立派な虎の皮は初めて見ました。


此れなら文句はありません。後金を払おうとしたので


「俺はいらん。店主に渡せ。」と云って立ち去りかけた。


女がひざまずいてアドリアン様お待ち下さいと云った。


その場にいた全員がアドリアンを確認して慌ててひざまずいた。


お許しください。ジョチ・ウルスの大ハン様。


アドリアンは女の顔をじっくり見た。カリーナだった。


カリーナ以外は外に出した。


アドリアン…久し振りだな。自分で商売をしているのか。感心だ。


カリーナに「儲けるのは良いが噂になるほど儲けるな。恨まれるぞ。」


「これからは個人や貴族に財産税を掛ける。もちろんお前も例外ではない。」


バトゥはロシア正教会を無課税にして、その見返りに人民をモンゴルに忠誠を


誓うように誘導させた。結果として正教会は力を付けすぎた。


無視できぬ勢力になったのだ。ロシア正教会を抑えるために税を課した。


お前だけなら巨富を得ても問題はないだろう。だがお前にも一族が居る。


コングラト部族のような姻族として力をつけるだろう。


俺の一族と敵対する可能性が高い。いやきっと敵対する。それを避けたい。


私が反乱を起こすのを防ぐために財産税を掛けるのですか?


アドリアン…そうじゃない。俺の目が黒いうちは反乱も起きない。


死んだ後は分からないがそれを防ぐのは俺の役目じゃない。俺が出来るのは


お前であれ誰であれ個人が極端な力を持つのを防ぐために財産税を掛けるのだ。


カリーナ「貴女が留守の間に貴方の子が生まれました。ニコライ男1歳です。」


1370年4月上旬の日曜日午後5時…アストラハン宮殿


アドリアンは私兵禁止を徹底した。


その代わり交易商人には人数・品目数に応じて公営の護衛兵を付けた。


交易目的の場合は無料である。但し食費、宿泊費等は有料である。


個人で公営の兵を頼む場合は有料である。


ヴォルガ川など大きな川の流域では相変わらず河賊…海賊の河版…


が時々出るようだ。定期的に河賊退治を行っているが、


モスクワより北のフィンランド方面のラドガ辺り


ではヴァイキング上がりの河賊が度々襲ってくるため、


幾つか要塞を建設して軍隊を常駐させている。


組織的な反乱の芽は摘んだが散発的なゲリラに悩まされている。


★オルトク商人…モンゴルの黄金時代、モンゴル皇帝・王族・政府と結託し、


その保護と資金提供を受けて、遠隔地商業・高利貸し・徴税請負などを行って、


暴利を貪った西域商人ないしはムスリム商人・ウイグル商人である。


オルトクとは出資者であるモンゴル人の共同事業者という意味である。


皆さん、初期の交易の話に出てきたウイグル商人ラシードの事を覚えている


でしょうか。資金を預ければ交易を代行してくれる商人でしたね。


アドリアンは売上の5割を取られるのを惜しんで一度しか利用しませんでした。


当時は金持ちと言えばモンゴルの王族・貴族でした。


金持ちは今も昔も金よりも労力と命を惜しむものです。


ラシード達を利用するスルタン達は沢山居ました。


スルタン達はアドリアンとの戦いに破れた結果、命と妻妾達を奪われ、


資産もアドリアンに没収されてしまいました。


ラシード達に資金を提供する者が殆どいなくなったのです。


またラシード達がオルトク商人としてブルジョワジー化するのを嫌い、


アドリアンは彼らの資産を没収しました。


カリーナたちが巨富を得る事を嫌ったのと同じ理由です。


その後自ら交易する者もいましたが、


大半はアドリアンに雇われ様々な職に就きました。


半数はジョチ・ウルスの役人特に徴税代行人や領主の代理人として雇われました。


ベルディ商会に就職した者もいました。


ベルディ商会は高利貸しや徴税代行も始めていました。


★アドリアン20歳

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る