<一>婚約と黒ウサギ②
ふんわりと波打つ黒髪は一つにまとめ、目の色と同じ
これほど
アシュリーは元来きらびやかな場所が苦手で、ウサギの巣穴のような薄暗くて
父と別れたアシュリーは、死地に向かう
最初の難関は、門番の兵士である。
前世の兵士とは違う人間だと重々承知している。だがその姿から少しでも前世を思い起こしてしまったら、とてもそこから先に進める自信がない。
恐る恐る門番に視線を向けた。
(……
灰色の軍服に、同じく灰色の
考えてみれば、この平和な時代に
(……なんだ)
何しろ六百年も
それでも
順番待ちをする大広間に着くと、着飾った少女たちでいっぱいだった。
年も、
(……仕方ないじゃないの)
うつむきがちに大広間を抜けて、王妃の謁見の間へつながる金の間へ入った。
そこで、拝謁を待つ長い列に並ぶ。
(別にいいじゃない)
思い直して顔を上げた。前世は変えられない。
それにここまでは直系王族の姿を見ずに済んだ。このまま王妃への拝謁を無難にこなして、早く家に帰ろう。
そして王族とも勇者とも関係なく、平和に、
そう決意した時、
「次! アシュリー・エル・ウォルレット。入れ!」
と、名を呼ばれた。緊張しながら謁見の間へ足を
真っ赤な
王妃の後ろには、上級貴族や
分厚い絨毯の上をゆっくりと進み、王妃の前で深々とお
挨拶を終えると、退出のためそろそろと後ずさる。王妃に背中は向けられない。
だから、その裾を踏まないように細心の注意を
「ひゃああ!?」
見事にトレーンの裾を踏んづけてしまった。ようやく終わったという安心感から、気が
(
心臓が冷たく縮む感じがする。
カエルのごとくひっくり返りながら、視界の
拝謁の場で
(どうしてこんなことに……穏やかに、平和に生きていたいだけなのに……!)
不意に、前世の死に
もちろん実際の死とは重みが違うけれど、希望が
(嘘。こんなの
前世でも今世でも、どうして自分にはこんな悪いことばかり起きるのか──。
次の
「
そのまま力強く肩を押し上げられた。
真っ白になった頭で、無様に後ろに
助かったのだ。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
振り返り、救いの主に全力で何度も頭を下げた。
いくら感謝してもしきれない。本当に泣きたくなるくらい
「どういたしまして」
アシュリーの
顔を上げると、まるで絵画から抜け出してきたような姿がそこにあった。
二十歳過ぎほどの青年だ。均整の取れた長身を金ボタンのついた黒の礼服に包み、
けれど──。
(勇者と
彼の見事な金の
(嫌だ、私ったらなんて失礼なことを……!)
助けてもらったのだ。彼がいなければ、アシュリーは
反省し、もう一度深く頭を下げた。
「本当に、本当にありがとうございます!」
「もう気にしないでいいから」
(……何かしら?)
ほのかに鼻をくすぐる
お
彼がギョッとしたように体を引く。
(この匂い……何だったかしら?)
いい香りだとは言い
「いい匂い……」
心のままに
「へえ」
と先ほどの穏やかなものとは違う、興味深そうな
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