第八話・終

「私もゲームを楽しめるでしょうか?」


夏服への衣替えが始まった頃、咲は秋人に尋ねた


「もちろん。何か気になってるゲームでもあるの?」


「そういうわけではないですが、ゲームの話をしてるときの春永野君が楽しそうに見えるので」


変化が訪れていることに秋人は気付いていた


いつの頃からか気になることがあれば咲は積極的に質問するようになっていた


「雪代さんが興味持ってくれて嬉しいよ」


「何もないんじゃなくて知らないだけなんだって、先生に言われました」


「そうなんだ?」


秋人はよく分からぬまま曖昧あいまいに返事をした


「ずっと閉じ込められているから、外に興味をもちなさいと。先生の言葉は、時々私にもよく意味がわからないときがありますけど」


話す咲の横顔を見て秋人は「あっ」と声をあげた


「どうしました?」


「ごめん、なんでもないよ。もう着いちゃったね、また今度一緒に帰ろう」


「はい、さようなら」


秋人は手を振って見送りながら先生の話をする咲の横顔を思い出した


(もう少しで笑顔が見れるんじゃないかと思えるほど穏やかな顔してた・・・)


秋人は頭を抱える


「あーー僕が変な声あげなければあああ」


思わず大きな声を上げたがすぐに冷静になると深いため息をついた


(誰でもない、僕が雪代さんを笑顔にするんだ。

それにしても先生って誰なんだろう?雪代さんを心配してくれてるんだってことは分かるけど)


・・・・・


受験シーズンが終わるまであっという間だった。藤次に言われた通り

辛いと思ってしまうときもあるかもしれないと秋人は覚悟をしていたが、それも杞憂に終わっていた


「合格おめでとう」


「春永野君も、おめでとうございます」


いつもの帰り道、秋人と咲はお互いを祝った


「僕の行くのは大した大学じゃないけどね。サークル活動が盛んみたいだから、やりたい事見付かったらいいなって思ってる。雪代さんは何か見付かった?」


「見付かりません、今とあまり変わらない気がします」


「ねぇ雪代さん」


秋人は立ち止まった、耳まで赤く染めているが表情は何かを決意したかのように真剣だった


「なんでしょう?」


「僕が今やりたい事話かる?」


「ごめんなさい、分かりません」


「雪代さんと何処かに行きたい、え~っと、

つまり二人で街に遊びに行きたいんだ。忙しいだろうから、ダメだったら諦めるけど・・・」


威勢よく話し出したが最後には小声になっていた


「合格祝いも兼ねてというか、、、なんというか。ダメかな?」


咲の顔をまともに見ていられなくなり秋人は顔を横に背けた


「はい、連れて行ってください」


思っていた以上に早い返事に秋人は動揺をした


「え、ほんと?」


「はい、受験は終わりましたので少しくらい時間を作れると思います」


「嬉しくて泣きそうだよ。受験の何倍も緊張した・・・」


「喜んでもらえてなによりです」


「それと、これも雪代さんが嫌じゃなかったらなんだけど」


「なんでしょう?」


「名前で呼んでもいいかな」


咲は口元に手を当て少しの間考えるような素振りをしてから覗き込むように秋人の目を見て答えた


「いいですよ、秋人君」

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