第八話・更

「あら~プレゼント?良かったじゃない」


咲とひよりはメール交換だけは続けていた。月に一度現状報告をするやりとりをひよりは『秘密の花園』と名付けた

「今ハマってる漫画にでてくるのよね~」というのがその理由だ


「どう~?嬉しかった?」


「分かりません」


「だめよ~咲ちゃん。嬉しかったとか、嫌だったとか、突然プレゼントされて気持ち悪い~とかでもいいの。

ちゃんと向き合わないと~」


「すみません」


「きっとプレゼントをくれた男の子も咲ちゃんの魅力に気付いたんじゃないかしら~」


「魅力なんて私にあるとは思えません、私には何もありません。先生に会いたいです、先生の楽しんでる姿が見たいです」


「そんな事言われたら嬉しくて泣いちゃいそう。ねぇ咲ちゃん、なんで私の楽しんでる姿が見たいの?」


「それは、分からないんです」


「簡単なことよ~、それは咲ちゃんも楽しんでるからなの」


・・・・・・・


いつも楽しみにしていたはずの冬休みを秋人は退屈に感じていたその退屈さに短い時間とはいえ咲とのやりとりをどれほど楽しんでいたのかを実感することになった


「やっぱさみいな、なんで制服集合なんだよ」


「私が卒業しちゃったらもう制服デート出来ないじゃない」


「僕邪魔なんじゃないか?」


「いいんだよ」「いいの」


冬休みが終わる直前、秋人、藤次、凛の三人は地元から少し離れた小さな神社に初詣に訪れていた


二人でデートしてきなよと秋人は遠慮したが半ば強引に連れていかれた


「まーばれたら騒動になるだろうが、高校生のとき一緒に初詣に行ったって思い出を作るチャンスはこれが最後だからな。どっちを取るかだ」


ばれても平気なの?という秋人の疑問に藤次が答えると凛が続けた


「春永野君と雪代さんを見てたら羨ましくなっちゃって。私も藤次と手を繋いで下校したりしたいなーって」


「手は繋いでませんけどね」


「雪代さんも来れたら良かったんだけどなー」


「私も誘ってみたんだけどね」


そう言うと凛は秋人の手を取って真剣な顔をして秋人を見つめた


「雪代さんをよろしくね、私が卒業したら春永野君しかいないんだからっ」


「は、はい」


凛の迫力に秋人は思わずたじろいでいると藤次が呆れたようにつぶやく


「俺も気に掛けはするが、全然進展しないんだもんなーお前ら」


「微笑ましくてかわいいじゃない」


「そうは言ってもなぁ、ずっと片想いって辛いんじゃないか?」


「片想いかどうかなんてわからないでしょ。藤次は知らないかもしれないけど雪代さんはいつでも真剣に応えようとしてくれる優しい子なんだから」


「まー良い人なのは分かるけどよぉ」


「きっと感情を隠しちゃうだけなのよ、どうしてかはわからないけど」


当人をそっちのけで白熱する藤次と凛の会話を考え事をするように聞いていた秋人は、何かを決意したように空を見上げた


「僕さ、決めたことがあるんだよね」


「決めた事?」


藤次と凛は同時に秋人を振り向いた


「来年までこのままでいたと思う。雪代さんの受験が終わるまでは、告白はもちろんどこかへ遊びに誘ったりもしない」


「なんだそれ?」


秋人の決意に藤次は不満そうな表情を浮かべた


「焦る必要なんてないと思うし、告白なんてしたら困惑させてしまう、僕がフラれる覚悟を決めていたとしても雪代さんは苦しんでしまうかもしれない。

悲しい顔をしてるところなんて見たくない。

それに冬休みに入って、今まで僕がどれだけ

雪代さんと一緒に帰る事を楽しんでいるかに気が付いたんだ、だから受験が終わるまでは、ボディガードに徹するよ」


秋人の言葉を聞いて凛はぱちぱちと嬉しそうに拍手をするが藤次は相変わらず不満そうだった


「秋人が決めたんだったらいいけどよー」


「まぁ、告白は雪代さんが心から笑えるようになった時にって決めてるからいつになるかはわからないけど」


藤次は呆れながら「おいおい」と呟いた


「多分、それがいいんだよ」

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